三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「旦那さま、あのお縫どんを連れてまいりまし…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「「旦那様、あの縫さんを連れてきました」
「おお、すぐ連れてきたか?こっちに通せ」
「旦那様、ご機嫌伺います」
「そっちで話せるわけないだろ。こっちに上がれ。遠慮なくどんどん上がれ」
「はい……いつもお世話になっております……奥様にはいつもいろいろいただきましてありがとうございます」
「いつも頼んでばかりですけど、奥さんがとてもお裁縫が上手だと伺って、すごく喜んでるんです。それで、忙しいところわざわざ呼んだのは、この払ったもののことなんだけど」
「はい。とてもお安くて、古着屋なんかで手に入れるのと違って、出所がわかってるのでお持ちしました。途中でもお定さんに伺いましたけど、すごく気に入って、黄八丈は旦那様が着られるって言ってましたけど、ちょっと袖が短いみたいですが、すごくいい色合いです」
「それで話できないからこっちに上がれ」
「失礼します……恐れ入ります」
「お茶を出せ」
「恐れ入ります……これはすごく大きなお菓子ですね」
「それは上からいただいたものだよ」
「へえ、普段はこんなに素敵な菓子は見られないですよ。いただきます。ありがとうございます」
「ああ、この2枚の着物はどこから出てきたんだい?」
「あのねえ、私にはすごく親しい人がいて、その人が少し困っていたので売ろうって言ってたんですけど、私のすごく親しい人なので」
「どうして売るんだい?」
「そのねえ、出どころがはっきりしてて、古着屋から手に入れると、それは分かりませんよね。もしかしたらそれが何か、まあ、お寺に掛軸とか何かになっていたのが、知らん顔して売りに出ることもあるんですよ。そういう不吉なものとは違って、出どころが分かっているから何かと便利かなと思って」
「それは分かるけど、どうして売りに出したんだい?」
「本当に困ってて、急な災難で」
「ん?災難……どういう災難だい?」
「いや、別に災難ってわけじゃないんですけど、急に行き先が決まって作った縁談が破談になって、いらないものになっちゃって」
「ははあ、これはどなたの着物ですか?どこの娘さんとか分かりませんけど、どなたの着物ですか?」
「あのねえ、私のような名前ですよ」
「手前みたいな……やっぱり縫っていう名前なの?」
「いいえ、縫っていう名前じゃないんですけど、その親しくさせてもらってる人なんです」
「親しいのはどなたですか?」
「それは本当にあのねえ、その人は名前をいろいろ変える人なんです。最初はきんって言ったり、それから芳になったり、またお梅になったりとか」
「ん?今の名前は?」
「芳です」
「隠さないでくれよ。ちょっとこっちでも調べる必要があって、お前を呼んだんだ。この着物を着ていた女の名前は菊じゃないのか?」
「はい」
「そうだろうなあ」
「菊っていう名前にちょっとなったこともあります」
「ちょっとなったってのはおかしい。隠さないでくれ。その菊っていうのはこっちにもちょっと心当たりがあるんだけど、実家はどこか?」
「はい」
「隠さないで。お前に迷惑はかけないから。これは買い取ることに決まってる。今代金を渡すけど、菊っていう人ならそれでいいんだ。菊の実家はどこか?」
「はい、本当にすみません」
「謝ることないよ。頼まれてるんだから大丈夫」
「実家は本郷春木町3丁目です。指物屋の岩吉って言うんですけど、その娘の菊なんですけど、その菊が亡くなりました」
「うん、菊はあの家に奉公してたけど、いろいろあって自害した」
「ですが、これはその自害した時に着てた着物ではありません」
「いや、自害した女の服だから縁起が悪いってんじゃないよ。買ってもいいよ」
「ありがとうございます。その親も亡くなりました。その跡は職人が続いて法事を続けて、石塔とかを建てたいという気持ちです」
「そうか、それでいい。もう帰れ。……お、ごちそうするって言ったっけ?だまされたんじゃねえぞ。私はすぐ上がるから」

原文 (会話文抽出)

「旦那さま、あのお縫どんを連れてまいりました」
「おゝ直に連れて来たか、此方へ通せ」
「旦那様御機嫌宜しゅう」
「其処では話が出来ん、此方へ這入れ構わずずうっと這入れ」
「はい……毎度御贔屓さまを有難う……毎度御新造様には種々頂戴物を致しまして有難う存じます」
「毎度面倒な事を頼んで、大分裁縫が巧いと云うので、大きに妻も悦んでいる、就ては忙しい中を態々呼んだのは他の事じゃアないが、此の払物の事だ」
「はい/\、誠に只お安うございまして、古着屋などからお取り遊ばすのと違って、出所も知れて居りますから上げました、途々もお定どんに伺いましたが、大層御意に入って、黄八丈は旦那様がお召に遊ばすと伺いましたが、少しお端手かも知れませんが、誠に宜いお色気でございます」
「それじゃア話が出来んから此方へ這入れ」
「御免遊ばして……恐入ります」
「茶を遣れよ」
「恐入ります……これは大層大きなお菓子でございますねえ」
「それは上からの下されたので」
「へえ中々下々では斯ういう結構なお菓子を見る事は出来ません、頂戴致します、有難う存じます」
「あゝ此の二枚の着物は何処から出たんだえ」
「そりゃアあの何でございます、私が極心安い人でございまして、その少し都合が悪いので払いたいと申して、はい私の極心安い人なのでございます」
「何ういう事で払うのだ」
「はい、その何でございます、誠に只もう出所が分って居りまして、古着屋などからお取り遊ばしますと、それは分りません事で、もしやそれが何でございますね、ま随分お寺へ掛無垢や何かに成ってまいったのが、知らばっくれて払いに出ます事が幾許もございます、左様な不祥な品と違いまして、出所も分って居りますから何かと存じまして」
「それは分っているが、何ういう訳で払いに出たのだえ」
「まことに困ります、急にその災難で」
「むゝう災難……何ういう災難で」
「いえ、その別に災難と申す訳もございませんけれども、急に嫁にまいるつもりで拵えました縁が破談になりまして、不用になった物で」
「はゝア、これは何と申す婦人のだえ、何屋の娘か知らんけれども、何と申す人の着物だえ」
「そりゃアその何でございます、私のような名でございますね」
「手前のような……矢張縫という名かえ」
「いゝえ、縫という名じゃアございませんが、その心安くいたす間柄の者で」
「心安い何という名だえ」
「それはどうも誠に何でございますね、その人は名を種々に取換る人なんで、最初はきんと申して、それから芳となりましたり、またお梅となったり何か致しました」
「むゝう、今の名は何という」
「芳と申します」
「隠しちゃアいかんぜ、少し此方にも調べる事があるから、お前を呼んだのじゃ、此の着物を着た女の名は菊といやアせんか」
「はい」
「左様だろうな」
「菊という名に一寸なった事もあります」
「一寸成ったとは可笑しい隠しちゃアいかん、その菊という者は此方にも少し心当りがあるが、親の家は何処だえ」
「はい」
「隠しちゃアならん、お前に迷惑は掛けん、これは買入れるに相違ない、今代金を遣るが、菊という者なればそれで宜しいのだ、菊の親元は何処だえ」
「はい、誠にどうも恐入ります」
「何も恐入る事はない、頼まれたのだから仔細はなかろう」
「親元は本郷春木町三丁目でございます、指物屋の岩吉と申します、其の娘の菊ですが、その菊が死去りましたんで」
「うん、菊は同家中に奉公していたが、少々仔細有って自害致した」
「でございますけれども、これはその自害した時に着ていた着物ではございません」
「いや/\自害した女の衣類だから不縁起だというのではない、買っても宜い」
「有難う存じます、その親も死去りました、其の跡は職人が続いて法事をいたして、石塔や何かを建てたいという心掛なので」
「左様か、それで宜しい、もう帰れ/\……おゝ馳走をすると申したっけ、欺しちゃアならん、私は直に上るから」


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