三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「其の人は何処の者か」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「あの男は誰なんだ?」
「いや、実はその……僕が普段仲良くしてるから、頼んでくれって頼まれて、そいつを連れてきてうちの婆さんに頼んだんです」
「へえ、その医者はどこの人だ?まさかうちの抱え医者じゃないだろう?町医者か何か?」
「いや、その……だいたい外回りをしてるくらいで、風邪とかを治すような感じです」
「名前は何だ?」
「それはその、えーと……あの、山路です」
「山路……山路宗庵だろ?」
「あら、知ってるんですか?」
「そりゃあ知ってるよ。殿様の側室のお秋の方の父親で、屋敷にも出入してるからな。そいつに頼まれて、婆さんに斑猫を捕まえさせたんのか?」
「はい、薬に使うんで、別に問題ないでしょ。……殿様はいますか?ちょっと出てきてください」
「はい」
「婆さんも来て」
「はい」
「お前たちは、この飴屋の源兵衛と仲がいいのか?よく飴屋の方に行ったり、源兵衛がこっちに来ることもあるのか?」
「いえ、私は行ったことないし、仲良くもないです。婆が商売に出かけたときに初めて会って、それから頼まれたんです。ね、お母さん」
「はい、仲良くも何でもないですが、商売で籠を背負って歩いていたら谷中で会って、そしたら斑猫を捕まえてくれって言うんです。たいしたことじゃないからいいだろうと思って」
「そうなのか?源兵衛、うちの嘉八も婆さんもお前と仲良くないって言ってたぞ」
「いや、別に仲良くって……別に親戚とかそういうわけじゃないんで」
「親戚かどうかじゃなくて、お前がうちの婆さんと仲がいいから、山路はお前に斑猫を頼んだって言ってたんだろ?それならお前はうちの婆さんと仲が良くないんだろ?それとも通りかかりで頼んだのか?それとも山路が毒虫を捕まえてくれって頼んだのか?屋敷の中で頼んだ奴がいるのか?」
「いや、そんなことは……」
「そんなことは、って俺が聞いてるんだ」
「あ……本当に勘弁してください。本当に間違ってました」
「間違ってたじゃ済まねえ。白状しろ。この前、殿様の弟さんが病気で夜に咳がひどいから、水飴がいいだろうっていう話になって、屋敷からお前んとこに頼むようになったんだろ?その水飴を上げるのはお前だから、お前の作った水飴を殿様の弟さんが食べて、万が一病気のせいで何かあったら、お前が水飴に毒を入れたって疑われるだろう?水飴を作ったのはお前なんだから。斑猫を捕まえたってこともあるんだから、毒虫を水飴に入れてないって証明しようがないじゃないか。そう疑われるのも当然だろ?な?お前のために悪いことはしないから、白状しろ。殿様のためだ。殿様に感謝してるなら、隠すわけにはいかねえよ」
「私が馬鹿で、前後がおかしくなってしまいましたが、私は水飴に毒を入れたりはしません。それはよくわかります。そんなことは……勘弁してください」
「なんで泣くんだ?」
「私は涙もろいんです」
「涙もろくても泣くことはないだろ。別に大したことはないから……そんなことをするわけがないだろうけど、殿様の弟さんの世話をやってる屋敷の人たちと結託して、殿様の弟さんの邪魔をしてるんだろ?殿様の弟さんは癇癪持ちで、すぐ怒って手を上げたりするから、殿様の弟さんの世話をやってる人には邪魔者が多いんだ。殿様も今体調が悪いから、万一のことがあったら大変だ。殿様の後継ぎは殿様の弟さんになるんだから、殿様の弟さんの文之丞さんを何とかしないといけないけど、ここに婆さんがいると……他言は無用だけど……婆が聞いても何も分からないだろうが……、婆と嘉八はちょっと向こうに行っててくれ」
「はい」
「お前も知ってると思うけど、さっきお前が言った医者の娘、お秋の方の菊っていう子供がいて、そいつを殿様の後継ぎにしたいんだ。菊の世話をしてる人たちが、殿様の弟さんを亡き者にしようとしてるんじゃないか?重役たちはみんな心配してるんだ。殿様の弟さんは大事なんだ。万一のことがあったら困る。それはお前も知ってるだろう?ただ、山路に頼まれたって言ったけど、山路はお秋の方の実の父親だから、何かあるんじゃないかと思って疑ってるんだ。でも、本当かどうか分からないから疑うだけじゃ済まないけど、大事なことだから正直に言ってくれ。お前のことが心配なら言ってくれ。秋月がこんなに頭を下げて頼んでるんだから……な……お前のせいにはしないよ。出入も今まで通りだし、もし何かあったら3人扶持か5人扶持ぐらいは、殿様の子供の世になれば俺が直接言って、お前の代ぐらいはお扶持をもらっていいようにする」

原文 (会話文抽出)

「其の人は何処の者か」
「へえ実はその……私が平常心易くいたしますから、どうかお前頼んでくれまいかと云われて、私が其の医者を同道いたしてまいりまして、当家の婆に頼みましたのでございます」
「ムヽウ、其の医者は何処の者だえ、いやさ近辺にいるというが、よもやお抱えの医者ではあるまい、町医か外療でもいたすものかえ」
「へえ、その……大概その外療をいたしましたり、ま其の風っ引きぐらいを治すような工合で」
「何と申す医者だえ」
「へい、その誠にその、雑といたした医者で」
「雑と致した、そんな医者はありません、名前は何というのだえ」
「名前はその、えゝ……実はその何でございます、山路と申します」
「山路……山路宗庵と云うか」
「へえ、好く御存じさまで」
「是は殿様のお部屋お秋の方の父で、お屋敷へまいる事もあるで、存じて居る、其の者に頼まれて、貴様が此処の婆に斑猫を捕れと頼んだのか、薬に用いるなれば至極道理の事だ……当家の主人は居るの、一寸こゝへ出てくれ」
「はい」
「婆も一寸こゝへ」
「はい」
「お前方は何かえ、此の飴屋の源兵衞は前から懇意にいたして居るものかえ、毎度此の飴屋方へも行き、源兵衞も度々此方へ参るような事があるかえ」
「いえなに私が処へお出でなすった事も何もない、私は御懇意にも何にもしませんが、婆が商いに出ました先でお目にかゝったのが初り、それから頼まれましたんで、のうお母」
「はい、なに心易くも何とも無えので、お得意廻りに歩き、商いをしべえと思って籠を脊負って出て、お前さま、谷中へかゝろうとする途で会ったゞね、それから斯ういう理由だが婆、何うだかと云うから、ま詰らん小商いをするよりもこれ、一疋虫を捕めえて六百ずつになれば、子供でも出来る事だから宜かろうと頼まれましたんで」
「左様か、源兵衞当家の嘉八という男も婆も手前は懇意じゃア無いと云うじゃアないか」
「へえ、別に懇意という……なにもこれ親類というわけでも何でもないので」
「親類かと問やアせん、手前が当家の婆とは別懇だから、山路が手前に斑猫を捕る事を頼んだと只今申したが、然らば手前は当家の婆は別懇でも何でもなく、通りかゝりに頼んだか山路も何か入用があって毒虫を捕る事を手前に頼んだ事であろうと考えるが、これは誰か屋敷の者の中で頼んだ者でもありはせんか」
「へえ左様でございますかな」
「左様でございますかな、と申して此の方が手前に聞くんだ」
「へえ……どうか真平御免遊ばして下さいまし、重々心得違で」
「只心得違いでは分らん、白状をせんか、此の程御舎弟様が御病気について、大分夜分お咳が出るから、水飴を上げたら宜かろうというのでお上屋敷からお勧めに相成って居る、その水飴を上げる処の出入町人は手前じゃから、手前の処で製造して水飴が上る、其の水飴を召上って若し御病気でも重るような事があれば、手前が水飴の中へ毒を入れた訳ではあるまいけれども、手前が製した水飴を召上ったゝめに病気が重り、手前が頼んで斑猫を捕らしたという事実がある上は、左様な訳ではなくても、手前が水飴の中へ毒虫でも製し込んで上へ上げはせんかと、手前に疑ぐりがかゝる、是は当然の事じゃアないか、なア、決して手前を咎にはせん、白状さえすれば素々通り出入もさせてやる、此の秋月が刀にかけても手前を罪に落さんで、相変らず出入をさせた上に、お家の大事なれば多分に手当をいたして遣るように、此の秋月が重役等と申合せて計らって遣わす、何も怖い事はないから有体に言ってくれ、殿様のお為じゃ、殿様が有難いと心得たら是を隠してはなりませんよ、のう源兵衞」
「へえ、私が愚昧でございまして、それゆえ申上げますことも前後に相成ります事でございまして、何かとお疑ぐりを受けますことに相成りましたが、なか/\何う致しまして、水飴の中へ毒などは入れられません、透いて見えます極製でございますから、へえ、なか/\何う致しまして、其様なことは……御免遊ばして下さいまし」
「何故泣く」
「私は涙っぽろうございます」
「涙っぽろいと云っても何も泣くことはない、別段仔細は無いから……左様な事は致すまいなれども、また御舎弟様付とお上屋敷の者と心を合せて、段々手前も存じて居ろうが、どうも御舎弟さまを邪魔にする者があると云うのは、御癇癖が強く、聊かな事にも暴々しくお高声を遊ばして、手打にするなどという烈しい御気性、乃でどうも御舎弟様には附が悪いので上屋敷へ諂う者も多いが、今大殿様もお加減の悪い処であるから、誠に心配で、万一の事でもありはせんか、有った時には御順家督で、何うしても御舎弟紋之丞様を直さねばならん、ところがその、此処に婆が居っては……他聞を憚ることじゃ……婆が聞いても委しいことは分るまいが……、婆嘉八とも暫時彼方へ退いてくれ」
「はい」
「手前も存じて居る通り、只今其の方が申した医者の娘、お秋の方が儲けられた菊さまという若様がある、其の方を御家督に立てたいという慾心から、菊様の重役やお附のものが皆心を合せて御舎弟様を亡き者にせんと……企むのでは有りはすまいが、重役の者一統心配して居る、御舎弟様は大切のお身の上、万一間違でもあっては公儀へ対しても相済まんことだが、そりゃア手前も心得て居るだろう、只山路が頼んだというと、山路はお秋の方の実父だから、左様なこともありはせんかと私は疑ぐる、併し然うで有るか無いか知れんものに疑念を掛けては済まんけれども、大切のことゆえ有体に云ってくれ、其の方御舎弟様を大切に思うなれば云ってくれ、秋月が此の通り手を突いて頼む……な……決して手前の咎めにはせんよ、出入も元々どおりにさせ、また事に寄ったら三人扶持か五人扶持ぐらいは、若殿様の御世になれば私から直々に申上げて、其の方一代ぐらいのお扶持は頂戴さしてやる」


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