三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「成れたって……成る手がゝりがねえ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「できるわけないよ……手がかりがないよ」
「女に何か言ってみろ」
「タイミングが悪くて言えないよ。お客さんだから。それに真面目な人なんだ。俺が座敷に入ると起きて、本当に長い間お世話になりましたとか、あなたには特に世話になって、ああ気の毒ですとか言って、まさに侍の娘だから怖いくらいに、凛とした人だよ」
「口で言うのが難しいなら、手紙を書いてあげれば?手紙を、懐の中に入れたり、枕の下にはさんだりしておけばいい。娘さんが読んで、宿屋の息子さんがそんな気持ちならうれしいわね。どうせ行くところもないから、あの人と夫婦になりたいわって、向こうから望んでいたらどうする?」
「なんだかよくわからないけど、それは難しそうだ」
「そんなことを言わずにやってみろ」
「でも、俺は手紙なんて書いたことがないから、お前書いてくれよ。お前は鎮守様の地口行灯を作ったけど上手いよな。あれは何っていう地口があったっけ?そう、かかしのところに何かがあるんだよ」
「そうだ、俺が作ったやつだっけ。何か俺が……そうだなぁ。普通の文にしても、これ面白くないから、何か尽し文でやってみたいもんだな」
「尽し文ってのは?」
「尽しもんってのは、まあ花の時なら花尽しよ。それからまあ山尽しとか、獣類尽しとかいう尽しもんで贈りたいなあ」
「それはいいな。どうすればいいの?」
「今の時期だからなんだろうな。虫尽しか何かでやればいいね」
「一つ作ってくれよ」
「紙があるのか?」
「紙は持ってるよ」
「そこに帳面をつける矢立の箱があるから、お茶でも入れて書いてくれよ。まだお茶を入れてないから、そこに茶碗があるから勝手に入れて飲めよ。虫尽しだな。その娘がこの手紙を見て、ああこういう文章を作る人なのね、それじゃあと思って惚れるように書かないとダメだな」
「だからどうすればいいんだ?」
「まあそこに一つ、『覚(おぼえ)』と書け」
「覚……変だな」
「変なことなんてあるか。覚えさせるんだから、一つ虫尽しにして書き記し※よ」
「一虫尽しにして書き記し※」
「うん。女のきれいなところを見せなきゃダメだな……きれいな虫は……ああ玉虫がいい。女の美しいのを女郎屋などではいい玉って言うから、玉虫のようなあなたを一目見るより、イナゴ、バッタではないが、カエルのように飛び跳ねるほどに思いますって書けよ」
「なるほど。イナゴ、バッタではないが、カエルのように思いますって」
「親父の厳しいところを入れておこうかな。親父はミズムシのようにうるさい、と」
「なるほど……うるさい」
「お前のそばにイモムシのようにべったりといていられないが、ああ……ミノ虫を着てワラジ虫を履いて、と」
「何のことだ?」
「お前が野良に行く時はミノを着たりわらじを履いたりするから」
「なるほど……わらじ虫を履いて」
「カマキリの鎌を腰に差して、野良へ出てもあなた様のことは片時も忘れません。シマヘビもいません」
「なるほど……シマヘビもいません」
「うん。あなた様の姿がアカトンボの目の前にちらちらいたします」
「どういうことだ?」
「トンボが飛ぶ時期に野良に出てみてごらん。アカトンボがあっちに行ったりこっちに行ったり、目まぐるしくて歩けないよ」
「なるほど……ちら/\いたします」
「うんと、待ってくれ……あなたと夫婦になれば、私は外で馬追い虫、あなたは内で機織り虫よ」
「なるほど……私は馬を引いて、娘が機を織るんだな」
「うん……股にヒルが吸い付いたように、あなたのそばを離れません、と愛しいから書けよ」
「なるほど……あなたのそばを離れませんか。なるほど情愛だね」
「うん、アブ、カ、ウマハエ、ヘボ」
「アブ、カ、ウマハエ、ヘボ」
「まとわりつかれたら因果、夜遅い私がマツムシなら」
「……夜遅い私がマツムシなら」
「ヤブカのように寝床まで飛んでまいり」
「ヤブカのように寝床まで飛んでまいり」
「すぐにあなたの思いが晴れますように、ハエが長く飛ぶこと」
「なるほど。これはいいな」
「これできっと娘はお前に惚れるよ。これを気づかれないように、懐の中などにでも入れればいいよ」

原文 (会話文抽出)

「成れたって……成る手がゝりがねえ」
「女に何とか云って見ろ」
「間が悪くって云えねえ、客人だから、それに真面目な人だ、己が座敷へ入ると起上って、誠に長く厄介になって、お前には分けて世話になって、はア気の毒だなんて、中々お侍さんの娘だけに怖えように、凛々しい人だよ」
「口で云い難ければ文を書いてやれ、文をよ、袂の中へ放り込むとか、枕の間へ挟むとかして置けい、娘子が読んで見て、宿屋の息子さんが然ういう心なれば嬉しいじゃアないか、どうせ行処がないから、彼の人と夫婦になりてえと、先方で望んでいたら何うする」
「何だか知んねえが、それはむずかしそうだ」
「そんな事を云わずにやって見ろ」
「ところが私は文い書いた事がねえから、汝書いてくんろ、汝は鎮守様の地口行灯を拵えたが巧えよ、それ何とかいう地口が有ったっけ、そう/\、案山子のところに何か居るのよ」
「然うよ、己がやったっけ、何か己え……然うさ通常の文をやっても、これ面白くねえから、何か尽し文でやりてえもんだなア」
「尽し文てえのは」
「尽しもんてえのは、ま花の時なれば花尽しよ、それからま山尽しだとか、獣類尽しだとかいう尽しもんで贈りてえなア」
「それア宜いな、何ういう塩梅に」
「今時だから何だえ虫尽しか何かでやれば宜いな」
「一つ拵えてくんろよ」
「紙があるけえ」
「紙は持っている」
「其処に帳面を付ける矢立の巨えのがあるから、茶でも打っ垂して書けよ、まだ茶ア汲んで上げねえが、其処に茶碗があるから勝手に汲んで飲めよ、虫尽しだな、その女子が此の文を見て、あゝ斯ういう文句を拵える人かえ、それじゃアと惚れるように書かねえばなんねえな」
「だから何ういう塩梅だ」
「ま其処へ一つ覚と書け」
「覚……おかしいな」
「おかしい事があるものか、覚えさせるのだから、一つ虫尽しにて書記し※よ」
「一虫尽しにて書記し※」
「えゝ女子の綺麗な所を見せなくちゃアなんねえ……綺麗な虫は……ア玉虫が宜い、女の美しいのを女郎屋などでは好い玉だてえから、玉虫のようなお前様を一と目見るより、いなご、ばったではないが、飛っかえるほどに思い候と書け」
「成程いなご、ばったではないが、飛っかえるように思い候」
「親父の厳しいところを入れてえな、親父はガチャ/″\虫にてやかましく、と」
「成程……やかましく」
「お前の傍に芋虫のごろ/″\してはいられねえが、えゝ……簑虫を着草鞋虫を穿き、と」
「何の事だえ」
「汝が野らへ行く時にア、簑を着たり草鞋を穿いたりするだから」
「成程……草鞋虫を穿きい」
「かまぎっちょを腰に差し、野らへ出てもお前様の事は片時忘れるしま蛇もなく」
「成程……しま蛇もなく」
「えゝ、お前様の姿が赤蜻蛉の眼の先へちら/\いたし候」
「何ういう訳だ」
「蜻蛉の出る時分に野良へ出て見ろ、赤蜻蛉が彼方へ往ったり此方へ往ったり、目まぐらしくって歩けねえからよ」
「成程……ちら/\いたし候」
「えゝと、待てよ……お前と夫婦になるなれば、私は表で馬追い虫、お前は内で機織虫よ」
「成程……私は馬を曳いて、女子が機を織るだな」
「えゝ…股へ蛭の吸付いたと同様お前の側を離れ申さず候、と情合だから書けよ」
「成程……お前の側を離れ申さず候か、成程情合だね」
「えゝ、虻蚊馬蠅屁放虫」
「虻蚊馬蠅屁放虫」
「取着かれたら因果、晩げえ私を松虫なら」
「……晩げえ私を松虫なら」
「藪蚊のように寝床まで飛んでめえり」
「藪蚊のように寝床まで飛んでめえり」
「直様思いのうおっ晴し候、巴蛇の長文句蠅々※」
「成程是りゃア宜いなア」
「是じゃア屹度女子がお前に惚れるだ、これを知れねえように袂の中へでも投り込むだよ」


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