三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「これ/\此処へ通せ、老爺此処へ入れ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「おい、こっちへ通せ。爺さん、こっちへ入れ」
「はい。急なお呼びだったので飛んでまいりました。とんでもないことで」
「本当に何ともお気の毒なことだ。こんなことになるとは」
「はい。私にも何があったのかさっぱりわかりません。あなた様に召し上げていただいてから、旦那様にかわいがっていただき、こんな着物をとか、こんな帯をとか作っていただき、その上お小遣いまでいただき、それから櫛からかんざしから爪先まであなたが心配してくださるのですから、あんな素晴らしい旦那様を裏切るなんてありえないと。私は職人の我儘者で、人とろくにしゃべれない人間ですが、いずれはあなたをいいところに嫁がせてやるとおっしゃってくださっていたので、私はそれを楽しみにしていたんです。でも、どうして林蔵殿と悪いことをするなんて……忠平、ひとつ屋敷にいるんだから、お前の仲間たちの噂でも聞いていそうなものだったろう?」
「噂にも聞いたことがありません。それなら林蔵という男が美男子というわけでもなく、彼はただの醜男です。それとこうなるとはどうも理解できません。父さん、小さい頃から妹はそんな考えの女ではありません。何かこれには深いわけがあると思います」
「わけだって私はさっぱりわからん。林蔵さんとこうなるはずがないと言うのは、旦那様、この間菊にご暇をくださいました時に、家に帰ってきたので、早く帰りなさい。そうしないと旦那様に申し訳ないよ。実家にいつまでもぶらぶらしてはいけないよと言ったら、父さん、私はと何か言いにくそうな様子で、ぐずぐずしていましたが、誰もいないから話をするんですが、父さん、私は浮気じゃないけど、私みたいな者でも旦那様が特別にかわいがってくださるんですと言うので、お前を召し使いの中で一番かわいがってくださるのか。そうじゃないよ。特別にかわいがってくださるんです。どういうことですかと聞いたんです。私は旦那様のお手がついているんですけど、このことが知れたら旦那様のお身の上に障りがありますから、お前だけ秘密にしてくださいと言うので、私はとても光栄です。あんなにかっこいい殿様のお手がついて……道理でお屋敷に上がる時から、あれこれ目を掛けてくださると思ったんです。でも、他の召し使いの嫉妬を受けたりしませんかと聞きましたが、いいことなんです。ありがたいことですと実は喜んで安心していました。菊も喜んで親に自慢するくらいなんです。どうして林蔵さんと……」
「おい、大声を出してはいけませんよ。でも、恋は思わぬ相手にするものだという諺もあるし、これはわかりませんね。それなら家にいても態度に出そうなものだけど、少しも気振を見せません。でも、主従なので気を張ることもあるでしょうし、同じ仲間同士人目を忍んで密会をする方が楽しいと見える。林蔵という者が来た時から、菊が彼に優しくしていた様子、林蔵の方もお菊さんと親しそうにしている様子だったので、いいことだと思っていたんですが、起請文まで交わして心中をしようとは思いません。本当に憎い奴だとは思いながら、本当に気の毒なことをして。お前の気持ちになってみれば、腹を立てる理由はない。お前には本当に気の毒だし、忠平もまだ若いし、他の兄弟もいないから、さぞ辛かろうと思います。こうしてひとつ屋敷内にいるから、恥ずかしいことだろうと思う。本当に気の毒だけど、そういうものだけは別なんです」
「はい、(泣き声で)父さん、とんでもないことになりました。私は旦那様のところに奉公していながら、他の足軽や仲間に対して本当に顔が向けられません。一人の妹がこんな不始末をして、お当家様に申しわけありません」
「いや、仕方がない。遺体はすぐに引き取ってください」
「はい、かしこまりました」

原文 (会話文抽出)

「これ/\此処へ通せ、老爺此処へ入れ」
「はい、急にお使でございましたから飛んで参りました、どうも飛んだことで」
「誠に何ともはやお気の毒な事で、斯ういう始末じゃ」
「はい、どうも此の度の事ばかりは何ういう事だか私には一向訳が分りません、貴方様へ御奉公に上げましてから、旦那様がお目をかけて下さり、斯ういう着物を、やれ斯ういう帯をと拵えて戴き、其の上お小遣いまで下さり、それから櫛簪から足の爪先まで貴方が御心配下さるてえますから、彼様な結構な旦那さまをしくじっちゃアならんよ、己は職人の我雑者で、人の前で碌に口もきかれない人間だが、行々お前を宜い処へ嫁付けてやると仰しゃったというから、私はそれを楽んで居りましたが、何ういうわけで林藏殿と悪い事をすると云うは……のう忠平、一つ屋敷にいるから手前は他の仲間衆の噂でも聞いていそうなものだったのう」
「噂にも聞いた事がございません、そんなれば林藏という男が美男という訳でもなし、彼の通りの醜男子、それと斯ういう訳になろうとは合点がまいりません、お父さん、ねえ少さいうちから妹は其様な了簡の女ではないのです、何か是には深い訳があるだろうと思います」
「訳だって私にはどうも分らん、林藏さんと斯ういう事になろう筈がないと申すは、旦那さま、此の間菊へ一寸お暇を下さいました時に、宅へまいりましたから、早く帰んなよ、然うしないと旦那様に済まねえよ、親元に何時までもぐず/\して居てはならないと申したら、お父さん、私はと何か云い難い事がある様子で、ぐず/\して居ましたが、何方もいらっしゃいませんからお話を致しますが、お父さん、私は浮気じゃアないが、私のような者でも旦那様が別段お目をかけて下さいますよと云いますから、お前を奉公人の内で一番目をかけて下さるのか、然うじゃアないよ、別段に目をかけて下さるの、何ういう事でと聞きましたら、私ア旦那さまのお手が附いたけれども、此の事が知れては旦那様のお身の上に障るから、お前一人得心で居てくれろと申しますから手前は冥加至極な奴だ、彼様な好い男の殿様のお手が附いて……道理でお屋敷へ上る時から、やれこれ目を掛けて下さると思った、併し他の奉公人の妬みを受けやアしないかと申しましたが、結構な事だ有難いことだと実は悦んで安心していました、菊も悦んで親へ吹聴致すくらいで、何うして林藏さんと……」
「こら/\大きな声をしては困りますな、併し岩や恋は思案の外という諺もあって、是ばかりは解りませんよ、そんならば宅にいて気振でも有りそうなものだったが、少しも気振を見せない、尤も主家来だから気を詰るところもあり、同じ朋輩同志人目を忍んで密会をする方が又楽みと見えて、林藏という者が来た時から、菊が彼に優しくいたす様子、林藏の方でもお菊さん/\と親む工合だから、結構な事だと思って居たが、起請まで取交して心中を仕ようとは思いません、実に憎い奴とは思いながら、誠に不憫な事をして、お前の心になって見れば、立腹する廉はない、お前には誠に気の毒で、忠平どんも未だ年若ではあるし、他に兄弟もなく、嘸と察する、斯うして一つ屋敷内に居るから、恥入ることだろうと思う、実に気の毒だが、斯の道ばかりは別だからのう」
「へえ、(泣声にて)お父さん何たる事になりましたろう、私は旦那様の処へ奉公をして居りましても、他の足軽や仲間共に対して誠に顔向けが出来ません、一人の妹が此様な不始末を致し、御当家様へ申訳がありません」
「いや、仕方がないから、屍体のところは直に引取ってくれるように」
「へえ畏りました」


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