GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』
現代語化
「いやいや殿中だと話ができねえ。係りの役人に会っても、必ずこちらに来たこと言うなよ」
「へえわかりました。最近悪い疫が流行ってるせいで、お殿様も次々に体調悪いって聞きましたけど、どうですか?」
「うん、どうにも咳が止まらねえ」
「へえ、へえ、それは心配ですね……今日お呼びしたのは何ですか?何か飴の注文でも?」
「神原さん、お前から言った方がいいだろう」
「いやいや俺はそういうこと言うの苦手だから、お前から頼んでよ。こういうのは松蔭さんしかできないよ」
「俺は本当に困る。おい源兵衛、お前はうちに出入りしてるんだろ?お殿様のこと大切にしてるのか?」
「へえ決して手抜きはしません。大切にしてますよ」
「ムッ、お殿様のためを思うなら、江戸の重役や神原五郎治、渡辺、この四郎治、俺はまだ新参者だけど、この件について相談があったんだ。最初は俺もわからなかったけど、次第に重役達の意見を聞いて納得した。これはお殿様のためだって」
「へえ、そんないいことは町人にはわかりませんよ。お殿様のためになるってどういうことですか」
「いや、殿様が長い間病気で、医者もいろいろやったけど、もう長くないらしいんだ」
「へえ、大変なことですねえ。お目通りはしませんが、私らも親の代からずっとお世話になってるんで、残念でなりません」
「うん、だから殿様が亡くなれば、お前も知っての通り奥様も亡くなってるし、本来なら若様だが、まだ四歳で小さすぎる。でも血縁だから家督を継ぐのは問題ないけど、それについてお願いがあるんだ。お殿様のためだし、簡単なことだから絶対他言しないって決意がなければ話せない。この件については重役を始め、神原さんや俺らも皆血判を押してある。お前もどんなことがあっても他言しない、お殿様の意に背かないって証拠として、ここに血判を押してくれ」
「へえ血判ってどうすりゃいいんですか?」
「血で判を押すから血判だ」
「え〜、それは勘弁してください。町人は腹なんか切れません」
「いや、腹を切れなんて言ってねえ」
「でも、早野勘平が血判した時は内蔵を出してましたよね?町人はそんなの無理です」
「いやいや、腹を切るような血判じゃねえ。爪の間をちょっと切って、血が出たら名前の下に捺すだけだ。痛くも痒くもねえ」
「へえ、ささくれなんか剥けば血が出るんですか……ちょっと捺すだけでいいんですね。勘平の血判かと思いました。でも、お殿様のためならどんなことでもやりますよ」
「お前は小金屋っていうけど、苗字は?」
「へえ、同じく小金です」
「さあ、ここに血判を押せ。血判を押せば重役さん達や皆とお前とは親戚みたいなもんだ」
「へえ恐縮です。本当にありがたいことです」
「なあ、堅苦しくなく話そうぜ。その代わりうまくいけば、お出入頭の地位に上げてやるし、お給金も出す。あと、あの辺に五間四方くらいの立派な店を出して、奉公人をたくさん使って、立派な飴屋になるよう重役に頼んでやる。金はいくらでも出す。千両までは大丈夫だ」
「へえ……ありがたいです。夢のようです。お殿様のためって言っても、私なんてお役に立てないでしょうけど、それでもやらせてください。どんなことでもやります。へえ手や指くらいならいくら切っても薬つければすぐに治りますから、大丈夫です。指くらい切るんだったら」
「何の用かね?」
「ああ、ここに薬があるんだ」
「へえ」
「お前さん、水飴を煮るのは大変なのかい?」
「いえ、仕事なんでさっとできます」
「職人に任せず、お前一人で上のお召しになるものだからちゃんと練れるか?」
「もちろんです。年寄りの職人はかき混ぜながら鼻水を垂らすこともあるんで、そんなことはさせません。私がちゃんと工夫します」
「じゃあこの薬を練り込めるか?」
「へえこれは何の薬ですか?」
「もう血判押したんだし、遠慮はいらねえ。一大事なんだ。次のお殿様は気性が激しくて、家来をしょっちゅう切り捨てるようなことがよくあった。そんな人が跡を継ぐと、お家が大騒ぎになるだろう。でも幸い次のお殿様は病気で、特に咳が出るから、水飴の中にこの毒薬を入れて毒殺しようと思って」
「え……それは勘弁してください」
「何だよ、勘弁するって……」
「だって、王子に忍んでお忍びでお立ち寄りになった時に、十三の頃からお目通りしてる次のお殿様を、私が毒を差し上げるなんて絶対できませんよ」
原文 (会話文抽出)
「えゝ今日お召によって取敢ず罷り出ました、御殿へ出ます心得でありましたが、御当家さまへ出ました」
「いや/\御殿では却って話が出来ん、其の方例の係り役人に遇っても、必らず当家へ来たことを云わんように」
「へえ畏まりました、此の度は悪い疫が流行り、殿様には続いてお加減がお悪いとか申すことを承わりましたが、如何で」
「うん、どうもお咳が出てならん」
「へえ、へい/\、それははや何とも御心配な儀で……今日召しましたのは何ういう事ですか、何うか飴の御用向でも仰付けられますのでございますか」
「神原氏貴公から発言されたら宜しゅうござろう」
「いや拙者は斯ういう事を云い出すは甚だいかん、どうか貴公から願いたい、斯う云う事は松蔭氏に限るね」
「拙者は誠に困る、えゝ源兵衞、其の方は御当家へ長らく出入をするが、御当家さまを大切に心得ますかえ」
「へえ決して粗略には心得ません、大切に心得て居ります」
「ムヽウ、御当家のためを深く其の方が思うなら、江戸表の御家老さま、又此の神原五郎治さま、渡邊さま、此の四郎治さま、拙者は新役の事ではあるが此の事に就てはお家のためじゃからと云うので、種々御相談があった、始めは拙者にも分りません所があったが、だん/\重役衆の意見を承わって成程と合点がゆき、是はお家のためという事を承知いたしたのだ」
「へえ、どうも然ういう事は町人などは何も弁えのありません事でございまして、へえ何ういう事が御当家さまのお為になりますので」
「他でもないが上が長らく御不例でな、お医者も種々手を尽されたが、遠からずと云う程の御重症である」
「へえ何でげすか、余程お悪く在っしゃいますんで」
「大きな声をしては云えんが、来月中旬までは保つまいと医者が申すのじゃ」
「へえ、どうもそれはおいとしい事で、お目通りは致しませんが、誠に手前も長らく親の代からお出入りを致しまして居りますから、誠に残念な事で」
「うむ、就ては上がお逝去になれば、貴様も知っての通り奥方もお逝去で、御順にまいれば若様をというのだが、まだ御幼年、取ってお四歳である、余りお稚さ過ぎる、併しお胤だから御家督御相続も仔細はないが、此の事に就て其の方に頼む事があるのだ、お家のため且容易ならん事であるから、必ず他言をせん、何の様な事でもお家のためには御意を背きますまい、という決心を承知せん中は話も出来ん、此の事に就いては御家老を始め、こゝにござる神原氏我々に至るまで皆血判がしてある、其の方も何ういう事があっても他言はせん、御意に背くまいという確とした証拠に、是へ血判をいたせ」
「へえ血判と申しますは何ういたしますので」
「血で判をするから血判だ」
「えゝ、それは御免を蒙ります、中々町人に腹などが切れるものではございません」
「いや、腹を切ってくれろというのではない」
「でも私は見た事がございます、早野勘平が血判をいたす時、臓腑を引出しましたが、あれは中々町人には」
「いや/\腹を切る血判ではない、爪の間をちょいと切って、血が染んだのを手前の姓名の下へ捺すだけで、痛くも痒くもない」
「へえ何うかしてさゝくれや何かを剥くと血が染みますことが……ちょいと捺せば宜しいので、私は驚きました、勘平の血判かと思いまして、然ういう事がお家のおために成れば何の様な事でもいたします」
「手前は小金屋と申すが、苗字は何と申す」
「へえ、矢張小金と申します」
「さア、これへ血判をするのだ、血判をした以上は御家老さま始め此の方等と其の方とは親類の間柄じゃのう」
「へえ恐入ります、誠に有難いことで」
「のう、何事も打解けた話でなければならん、其の代り事成就なせば向後御出入頭に取立てお扶持も下さる、就てはあゝいう処へ置きたくないから、広小路あたりへ五間々口ぐらいの立派な店を出し、奉公人を多人数使って、立派な飴屋になるよう、御家老職に願って、金子は多分に下りよう、千両までは受合って宜しい」
「へえ……有難いことで、夢のようでございますな、お家のためと申しても、私風情が何のお役にも立ちませんが、それでは恐入ります、いえ何様な事でも致します、へえ手や指ぐらいは幾許切っても薬さえ附ければ直に癒りますから宜しゅうございます、なんの指ぐらいを切りますのは」
「何ういう御用で」
「さ、こゝに薬がある」
「へえ/\/\」
「貴様は、水飴を煮るのは余程手間のかゝったものかのう」
「いえ、それは商売ですから直に出来ますことで」
「どうか職人の手に掛けず、貴様一人で上の召上るものだから練れようか」
「いえ何ういたしまして、年を老った職人などは攪廻しながら水涕を垂すこともありますから、決して左様なことは致させません、私が如何ようにも工夫をいたします」
「それでは此の薬を練込むことは出来るか」
「へえ是は何のお薬で」
「最早血判致したから、何も遠慮をいたすには及ばんが、一大事で、お控えの前次様は御疳癖が強く、動もすれば御家来をお手討になさるような事が度々ある、斯様な方がお世取に成れば、お家の大害を惹出すであろう、然る処幸い前次様は御病気、殊にお咳が出るから、水飴の中へ此の毒薬を入れて毒殺をするので」
「え……それは御免を蒙ります」
「何だ、御免を蒙るとは……」
「何だって、お忍びで王子へ入らっしゃる時にお立寄がありまして、お十三の頃からお目通りを致しました前次様を、何かは存じませんが、私の手からお毒を差上げますことは迚も出来ません」