三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「先ず御機嫌宜しゅう、えゝ過日は図らずも飛…

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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「まずご機嫌いかがですか?あの日は偶然にも飛鳥山で大変ご迷惑をおかけしてしまいまして、あのときはそういう場所でしたので、お礼もろくに申し上げることができず、屋敷へ帰ってもこの娘がとにかく早くお礼に出たいと言ってまして、本当にありがたいお恵みで、本当に申し訳ございませんでした。あのときは自分の名前も明かせず、怖いことや恐ろしいこともたくさんありましたが、女連れなので大変心配しておりました。本当にあのときは思いがけないご迷惑をおかけしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「いやいや、こちらこそ。わざわざお礼にいらしていただいて恐縮しております。まして親子揃ってお越しいただいたのは、何とも恐縮しております」
「あの、この品は(と盆に載せた品を前に出し)何なのかと思っていましたが、おわかりのとおりで、下屋敷からここまで来る間には何も調達するところもなく、まして番退けから時間が空いたのを縫って抜け出してきましたので、広小路に出ても何かあるでしょうが、これは本当にちょっとした手土産で、粗末ではございますが、どうかお受け取りいただければ…」
「いや、これは恐れ入りましたことで…こんなにお気遣いいただいては困ります。お気持ちだけのお礼で十分でございます。どうか品物の方はご遠慮いただければと、お気持ちだけいただきとうございます」
「いえ、それはあなたのお心遣いですが、本当に失礼ながら、ほんのお礼のしるしまででもございますので、どうかお受け取りくださるように…大変生意気ですが、お好みの色に染めてお召しいただければありがたいことで、大変失礼ではございますが…」
「何ともどうも恐縮しております。それでは折角のお気持ちですので、この羽二重だけは頂戴いたしますが、今の身の上ではこんな結構な品を買うわけにはとてもまいりません。しかし、このお肴料とお記しの包は頂くわけにはまいりません」
「そうでしょうが、あなた様が召使でもいいから使ってお遣りになってください」
「それは本当に恐縮いたします。お嬢さま、本当に何とも…」
「いえ、親と一緒に早くお礼に上がろうと言っているのに、私もいろいろ心残りではありましたが、とにかく番がせわしくて、それで大変遅れました。あのときは何もお礼のしようがありませんでした。喜六、お前にちょっとこちらへ出てきてもらって、よくお礼を言ってくれ」
「はい、旦那さま。あのときは何もお礼のしようがありませんでした。私なんてこれでももう64になりますから、奴らに殺されても命惜しくはございません。ただ、私の不調法から旦那様のお名前だけでなく、お屋敷のお名前まで出るようなことがあれば申し訳ないと覚悟を決めて、私1人殺されればそれで済むと思っていましたところに、旦那様が出てきて、何もお礼のしようがありません。見かけは優しくて力もなさそうに見えるあなたが、大の男を殺したなんて、侍はすごいなと噂になっていました」
「そう言われては困るが、これは召使が」
「はい、私は召使でして、お嬢さまが5歳のときからお仕えしていて、長らく15年もお仕えしていますので、馴染みなのです。あのとき、お酒が1口出てきて、自分は召使なので加減すればよかったのですが、急いで飲んでしまったものですから、ひどく腹が減って、2合出たのを皆飲んでしまい、酔っ払って身体が横になってしまったところから不調法をして、旦那様にご迷惑をおかけしましたが、先生様のおかげで助かりましたのは、何ともお礼のしようがありません」
「それではお暇いたします」
「何はなくとも折角のお越しです。もとよりこんな質素な家にはお出しするようなものもありませんが、少しつまらない支度をさせておりますので、ひと口召し上がってから」
「いや、お気持ちはありがたいですが、今日は少し急いでいますので。しかし、あなた様のお人柄といい、先達て3人を相手になされたお腕前といい、武芸の道にもお心を懸け、お上手にお見受けいたしましたが、伺えば、新規に家臣として迎えられた権六という者と前からお知り合いとか」
「はい、私は津山の越後守家臣で、父は松蔭大之進と申します。少し家名を汚したことがありまして、暇をいただき、しばらくは黒戸の方へ参っていたこともあり、権六のいた村にもいました。そういうわけで、彼とは知り合いなのです」
「本当にあなた方はもったいない。大概、忠臣は2君に仕えないという堅いお考えでしょうから、立派なところから家臣になっても、再び主は持たないというご決断なのでしょうか?」
「いえ、2君に仕えるなどというのは立派な武士の言うことで、どうかこうやって店借をして、易者で生涯を送るのは心外なことで、たとえどんな下役や小禄でも、主に取り立てられて家名を立てたいという気持ちもありますが、知り合いもいなければ、手蔓もありません。先達て権六に会って、なるほどそうだったのかと納得し、「あなたはうらやましいですね。遠山に養子に行ってもともと米搗きをしていた身の上の人が大禄を取るようになったのも、全くあなたの心がけが良かったからです。私は早く親と離れ離れになったというような不幸な生まれなので、とてもそんな身分にはなれませんが、どんなところでもいいから、再び武家になりたい。口があるなら世話をしてくれませんか?」と権六にも頼んでおいたくらいです。別にどんなに小禄の旗本でもいいのですが、手蔓があるなら、どうかお引き立てのほどを。このことは権六にも頼んでおきましたが、お役の高いあなた様なら、さぞかしお人脈も広いことと存じます」
「承知いたしました。いや、本当に昔は貞女両夫に見えずの教訓を守っていましたが、それではご先祖様にも不孝になるということでした。私の主人の美作守は小禄ではございますが、今から屋敷へ帰って主人にも話しをしてみましょう。あなたの器量は私がよく知っていますが、家老たちはまだ知らないことでしょう。初めからあなたが越後様にお仕えになっていたときのように大禄とはいきませんが、小禄でもよろしければ、心配してご推薦いたします」
「どうも、それはありがたいことです」

原文 (会話文抽出)

「先ず御機嫌宜しゅう、えゝ過日は図らずも飛鳥山で何とも御迷惑をかけ、彼の折はあゝいう場所でござって、碌々お礼も申上げることが出来んで、屋敷へ帰っても此娘が又どうか早うお礼に出たいと申しまして、実に容易ならん御恩で、実に辱けない事で、彼の折は主名を明すことも出来ず、怖い事も恐ろしい事もござらんが、女連ゆえ大きに心配いたし居りました、実に其の折は意外の御迷惑をかけまして誠に相済みません事で」
「いえ/\何う致しまして、再度お礼では却って恐入ります、殊に御親子お揃いで斯様な処へおいでは何とも痛入りましてござる」
「えゝ此品は(と盆へ載せた品を前へ出し)何ぞと存じましたが、御案内の通りで、下屋敷から是までまいる間には何か調えます処もなく、殊に番退けから間を見て抜けて参りましたことで、広小路へでも出たら何ぞ有りましょうが、是は誠にほんの到来物で、粗末ではござるが、どうか御受納下さらば……」
「いや是は恐入ったことで……斯様な御心配を戴く理由もなし、お辞のお礼で十分、どうか品物の所は御免を蒙りとう、思召だけ頂戴致す」
「いえ、それは貴方の御気象、誠に御無礼な次第ではあるけれども、ほんのお礼のしるしまでゞございますから、どうかお受け下さるように……甚だ何でござるが御意に適った色にでもお染めなすって、お召し下されば有難いことで、甚だ御無礼ではござるが……」
「何ともどうも恐入りました訳でござる然らば折角の思召ゆえ此の羽二重だけは頂戴致しますが、只今の身の上では斯様な結構な品を購るわけには迚もまいりません、併し此のお肴料とお記しの包は戴く訳にはまいりません」
「左様でもござろうが、貴方が何でございますなら御奉公人にでもお遣わしなすって下さるように」
「それは誠に恐入ります、嬢さま誠に何とも……」
「いえ親共と早くお礼に上りたいと申し暮し、私も種々心ならず居りましたが、何分にも番がせわしく、それ故大きに遅れました、彼の節は何ともお礼の申そうようもございません、喜六やお前一寸此方へ出て、宜くお礼を」
「はい旦那さま、彼の折は何ともはアお礼の云う様もござえません、私なんざアこれもう六十四になりますから、何もこれ彼奴等に打殺されても命の惜いわけはなし、只私の不調法から旦那様の御名義ばかりじゃアねえ、お屋敷のお名前まで出るような事があっちゃア済まねえと覚悟を極めて、私一人打殺されたら事が済もうと思ってる所へ、旦那様が出て何ともはアお礼の申ようはありません、見掛けは綺麗な優しげな、力も何もねえようなお前様が、大の野郎を打殺しただから、お侍は異ったものだと噂をして居りました」
「然う云われては却って困る、これは御奉公人で」
「はい私ア何でござえます、お嬢さまが五才の時から御奉公をして居り、長え間これ十五年もお附き申していますからお馴染でがす、彼の時お酒が一口出たもんだから、お供だで少し加減をすれば宜かったが、急いで飲っつけたで、えら腹が空ったから、二合出たのを皆な酌飲んじまい、酔ぱらいになって、つい身体が横になったところから不調法をして、旦那様に御迷惑をかけましたが、先生さまのお蔭さまで助かりましたは、何ともお礼の申上げようはござえません」
「えゝ今日は直にお暇を」
「何はなくとも折角の御入来、素より斯様な茅屋なれば別に差上るようなお下物もありませんが、一寸詰らん支度を申し付けて置きましたから、一口上ってお帰りを」
「いや思召は辱けないが、今日は少々急ぎますから、併し貴方様はお品格といい、先達て三人を相手になすったお腕前は余程武芸の道もお心懸け、御熟練と御無礼ながら存じました、どうか承わりますれば新規お抱えに相成った權六と申す者と前々から知るお間柄ということを一寸屋敷で聞きましたが、御生国は矢張美作で」
「はい、手前は津山の越後守家来で、父は松蔭大之進と申して、聊か高も取りました者でござるが、父に少し届かん所がありまして、お暇になりまして、暫くの間黒戸の方へまいって居り又は權六の居りました村方にも居りました、それゆえに彼とは知る仲でございます」
「実にどうも貴方は惜いことで、大概忠臣二君に事えずと云う堅い御気象であらっしゃるから、立派な処から抱えられても、再び主は持たんというところの御決心でござるか」
「いえ/\二君に仕えんなどと申すは立派な武士の申すことで、どうか斯うやって店借を致して、売卜者で生涯朽果るも心外なことで、仮令何様な下役小禄でも主取りをして家名を立てたい心懸もござりますが、これという知己もなく、手蔓等もないことで、先達て權六に会いまして、これ/\だと承わり、お前は羨しい事で、遠山の苗字を継いでもと米搗をしていた身の上の者が大禄を取るようになったも、全くお前の心懸が良いので自然に左様な事になったので、拙者などは早く親に別れるくらいな不幸の生れゆえ、とても然ういう身の上には成れんが、何様な処でも宜しいから再び武家になりたい、口が有ったら世話をしてくれんかと權六にも頼んで置きましたくらいで、何の様な小禄の旗下でも宜しいが、お手蔓があるならば、どうか御推挙を願いたい、此の儀は權六にも頼んで置ましたが、御重役の尊公定めしお交際もお広いことゝ心得ますから」
「承知致しました、えゝ宜しい、いや実に昔は何か貞女両夫に見えずの教訓を守って居りましたが、却ってそれでは御先祖へ対しても不孝にも相成ること、拙者主人美作守は小禄でござるけれども、拙者これから屋敷へ立帰って主人へも話をいたしましょう、貴方の御器量は拙者は宜く承知しておるが、家老共は未だ知らんことゆえ、始めから貴方が越後様においでの時のように大禄という訳にはまいりません、小禄でも宜しくば心配をして御推挙いたしましょう」
「どうもそれは辱けない事で」


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