三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「どうも骨格が違うの、是は妙だ、權六其の方…

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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

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「どうも骨格が違う。不思議だ。権六、お前が国で衆人のために宝物を壊したことは聞いている。感心だ。頭を上げろ。顔を上げろ。あれ、権六、どうした?何も言わない。返事もしない」
「はっ、これ、ご挨拶を…」
「なに?」
「ご挨拶ですよ。お言葉をいただいたので」
「ご挨拶だって…」
「もっと前に進め。遠いと話が分からない。ずっと前に来て、大声で遠慮なく言え。頭を上げろ」
「上げろって言うけど、顔を見ちゃダメだと言われたから困ります。どうにかそのまま前に押し出してほしい」
「そのまま押し出せだと?普通の人より大きいから、一人じゃ無理だ。あなた、尻を押してやってくれ」
「さ、もっと力を入れて押し出せ」
「あれ、何を…。そんなことしなくてもいいよ。自分で歩いて来い。なるほど、立派だな」
「え、まだ頭を上げるなってことですか?」
「富弥、あまり厳しく言うんじゃない。窮屈にさせると話ができなくなる。なるほど立派だ。昔の武将のようだ」
「へぇ、それはどういう意味ですか?」
「加藤清正とか黒田長政とかいうような人物だ。顔が全然違うな」
「へぇ、全然違いますね」
「全然違いますなんて、自分のことをそう言うもんじゃない」
「あれ、小声でそんなことをブツブつ言うな」
「衆人がそう言っている。へぇ、お嫁さんはとてもきれいだって」
「あれ、家内のことは聞かれてないので言わなくていい」
「だって話のついでに言っただけです」
「話のついでにってことがあるか?」
「あなたはどこの出身ですか?美作ではないと聞きましたが、そうなんですか?」
「何のことですか?」
「出身地のこと」
「はてな…何ですか?あの勝山にいる医者、木村章国ですか?」
「違います。生まれた場所はどこですか?」
「生まれは忍の行田ですが、小さい頃に両親が亡くなって、それからは頼れる親戚もいなくて、親しい人が連れて行ってくれたので、美作国に行って、18年間お世話になっていました」
「あれ、お世話さまなんて言うものじゃない」
「だって世話になったから」
「あれ、富弥、落ち着いて。いちいち咎めるんじゃない。なるほど、武州出身で、長く国に帰っていなかったのか。お前は力が強いそうだな」
「私がどのくらいの力があるか自分でも分かりません。相撲でも取りましょうか?」
「あれ、上と相撲なんて」
「だって、力が分からないって言ったから」
「生意気な奴だ。こっちにおいで。近くに置いておく」
「いや、それは困ります。この通り、粗野な人間です」
「構わんよ。正直潔白でいい。近くに置け」
「それは無理ですよ。窮屈な思いをするのはいやです。初めから断ったら、白酒屋さんの、えーと…」
「山川広か」
「その人よ」
「その人よなんてことがあるか?上の言葉に背くことはできない」
「背きたくないんです」
「背きたくないなんてことはない。無礼千万じゃないか」
「無礼千万だって背きたくない」
「富弥、落ち着け。いちいち文句を言うな。面白い奴だな」
「私は素米搗で何も知らない人間で、剣術も知らないし、学問もしたことがないので、どうやっても侍にはなれません。力は強いですが、領主様が無理やり召し抱えたいって言ってるのを断ると親や妻に迷惑がかかるので、それは困りますが、こうやっていいならと私が言うと、それでいいから来いと。それから参ったんですよ、ご前様…」
「ご前様というのはないよ。お主と呼びなさい」
「なに、お主って言うんですか?御飯とか御膳とかって誰にでも言うじゃないですか」
「あれ、富弥、止めろ。いいよ。お前もお主も同じことだ」
「そうなんですか?そんなことは知りません。それから私がこの家の家来になった。するとお主は私の大事なお人で、私は家来ですから、長くいるうちに気心が知れるようになります」
「あれ、気心が知れるってことがあるか?」
「そうするとお大名はすごく機嫌が悪いの?」
「あれ」
「富弥、また口を挟むか?いいから黙ってろ。お大名は機嫌が悪い。癇癪持ちだ。それから」

原文 (会話文抽出)

「どうも骨格が違うの、是は妙だ、權六其の方は国で衆人の為めに宝物を打砕いた事を予も聞いておるが、感服だのう、頭を擡げよ、面を上げよ、これ權六、權六、如何致した、何も申さん、返答をせんの」
「はっ、これ御挨拶を/\」
「えゝ」
「御挨拶だよ、お言葉を下し置かれたから御挨拶を」
「御挨拶だって……」
「もっと前へ進め、遠くては話が分らん、ずっと前へ来て、大声で遠慮なく云え、頭を上げよ」
「上げろたって顔を見ちゃアなんねえと云うから誠に困りますなア、何うか此の儘で前の方へ押出して貰いてえ」
「此の儘押出せと、尋常の人間より大きいから一人の手際にはいかん、貴方そら尻を押し給え」
「さアもっと力を入れて押出すのだ」
「これ/\何を致す其様なことをせんでも宜しいよ、つか/\歩いてまいれ、成程立派じゃなア」
「えゝ、まだ頭を上げる事はなんねえか」
「富彌、余り厳ましく云わんが宜い、窮屈にさせると却って話が出来ん、成程立派じゃなア、昔の勇士のようであるな」
「へえー、なんですと」
「古の英雄加藤清正とも黒田長政とも云うべき人物じゃ、どうも顔が違うのう」
「へえーどうも誠に違います」
「誠に違いますなんて、自分の事を其様な事を云うもんじゃア有りませんよ」
「これ/\小声で然うぐず/\云わんが宜い」
「衆人が然う云います、へえ嚊は誠に器量が美いって」
「これ/\家内の事はお尋ねがないから云わんでも宜い」
「だって話の序だから云いました」
「話の序という事がありますか」
「其の方生国は何処じゃ、美作ではないという事を聞いたが、左様か」
「何でごぜえます」
「生国」
「はてな……何ですか、あの勝山在にいる医者の木村章國でがすか」
「左様ではない、生れは何処だと申すのじゃ」
「生れは忍の行田でごぜえますが、少せえ時分に両親が死んだゞね、それから仕様がなくって親戚頼りも無えもんでがすが、懇意な者が引張ってくれべえと、引張られて美作国へ参りまして、十八年の長え間大くお世話さまでごぜえました」
「これ/\お世話さまなんぞと云う事は有りませんよ」
「だってお世話になったからよ」
「これ富彌控えて居れ、一々咎めるといかん、うん成程、武州の者で、長らく国許へ参って居ったか、其の方は余程力は勝れて居るそうじゃの」
「私が力は何の位あるか自分でも分りませんよ、何なら相撲でも取りましょうか」
「これ/\上と相撲を取るなんて」
「だって、力が分らんと云うからさ」
「誠にうい奴だ、予が近くにいてくれ、予が側近くへ置け」
「いえ、それは余り何で、此の通りの我雑ものを」
「苦しゅうない、誠に正直潔白で宜い、予が傍に居れ」
「それは御免を願いてえもんで、私には出来ませんよ、へえ、此様な窮屈な思いをするのは御免だと初手から断ったら、白酒屋さんの、えゝ……」
「山川廣か」
「あの人よ」
「あの人よと云う事が有るかえ、上のお言葉に背く事は出来ませんよ」
「背くたって居られませんよ」
「居られんという事は有りません、御無礼至極じゃアないか」
「御無礼至極だって居られませんよ」
「マ富彌控えて居れ、然う一々小言を申すな、面白い奴じゃ」
「私ア素米搗で何も知んねえ人間で、剣術も知んねえし、学問もした事アねえから何うにも斯うにもお侍には成れねえ人間さ、力はえらく有りますが、何でも召抱えてえと御領主さまが云うのを、無理に断れば親や女房に難儀が掛るというから、そりゃア困るが、これ/\で宜くばと己がいうと、それで宜いから来いと云われ、それから参っただねお前さま…」
「お前さまということは有りませんよ、御前様と云いなさい」
「なに御前と云うのだえ、飯だの御膳だのって何方でも宜いじゃアないか」
「これ富彌止めるな、宜しいよ、お前も御前も同じことじゃのう」
「然うかね、其様な事は存じませんよ、それから私が此処の家来になっただね、して見るとお前様、私のためには大事なお人で、私は家来でござえますから、永らく居る内にはお互えに心安立てが出て来るだ」
「これ/\心安立てという事がありますか」
「するとお大名は誠に疳癪持だ」
「これ/\」
「富彌又口を出すか、宜しい、控えよ、実に大名は疳癪持だ、疳癪がある、それから」


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