三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「是れは權六、来たかえ、さア此方へ入んな」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「やあ、権六、来たのか。こっちに来いよ」
「はい、ちょっと寄らせてもらいます。最近忙しくて、ご無沙汰しちゃって」
「この間、お母さんが体調悪いって言ってたけど、もう良くなった?」
「はい。この季節の変わり目って弱い人には辛いですね。あなたはいつも元気そうで何よりです」
「さて、権六、最高の知らせがあるんだ」
「え、僕ですか?おかげさまで食べるのに困らず、好きな女房ももらって、おまけに旦那さんの紹介で、本当は嫌だっただろうけど、お千代も僕の女房になってくれてます」
「いや、彼女は嫌どころか、お前の気持ちを見抜いて結婚したんだ。人は見た目より心が大切だ。それに、命を助けてくれた恩人だもんな。断る理由はないよ」
「でも、夫婦になったら、嫌々でも僕を大事にしてくれるでしょう?」
「今さら調子に乗ってもいいけど、とにかく夫婦仲が良ければ、それ以上の幸せはないよ。ところで、権六、最近ごっつい良いことが続くな?」
「はい、そうですね」
「知ってるかい?」
「はい。あんなに運がいい奴はいないですよね。民右衛門様ですよ。宝くじが当たって、すぐに村の長になったんですって」
「違うよ、お前だ」
「え?」
「お前のことが幸だというってわけは、粂野美作守様に雇われるんだって。お召しだって」
「えー、ありがとうございます」
「お礼じゃない」
「まだ腹も空いてないのに」
「なに?」
「ごはんを食べさせてくれるって言うから」
「はっは……ごはんじゃないよ、お召し抱えだよ」
「あ、そうなんですか。藁で包んで背負って歩くんですか?」
「何を言ってるんだ。勝山の城主、2万3千石の粂野美作守様が、小皿山の事件を役人から聞いて、お前をぜひ雇いたいって言ってるんだ。人足頭になるっていうんで、お前なら土地勘もあるし適任だろうって。最初は棒を持って見回りをするんだけど、江戸屋敷の侍じゃないとダメだっていうんで、お召し抱えになった。つまり、今からお前は侍になるんだよ」
「ははは、それはご勘弁ください」
「ご勘弁も何も、絶対だ」
「絶対でも侍にはなれませんよ。第一に字も読めなきゃ、剣術も知ってなきゃダメでしょ。それに僕は馬が嫌いなんです。たまに乗ることはありますが、それだって疲れたときの気分転換に1、2里乗るくらい。それでも嫌なんです。やっぱり自分で歩く方がいいですね。それにいろはのいの一字も書けない奴が侍になっても無駄ですよ」
「それは全部、先方様に伝えてあるよ。山川広様っていう方に、お前の身の上を話して、学問もしてませんし、剣術も知らんですが、力はあります。人からは立臼の権六ってあだ名で呼ばれてるほどで、両手で臼を持って片付けられるんですから、力はわかってもらえると思いますって。この山川広っていうのは偉い人なんだぞ」
「えー、酒屋ですか?」
「山川広(つぶやきながら)山川白酒と聞違えてるな」
「へー、そっちの方が納得できます。粂野様の家来になるんですね」
「うん、下っ端だけど、今回の件で上役の作事奉行も来てくれてるよ。ありがたいことだよ」
「ありがたいのはありがたいんですが、僕は田舎者で、偉い人に上手に出たり、お行儀良く座ってたりできないんです。やっぱり胡坐をかいて疲れたら寝転がって、腹が減ったら胡坐をかいて、塩鮭でお茶漬けを食べるのが好きなんです」
「そういうことを言っちゃ困る。絶対に承知してくれ」
「とりあえず母親と相談してみましょう。お千代は反対すると思いますが、母親もいますし、年を取ってるから、あなたから安心できる話をしてもらわないと納得しません。だから、その前に僕が役人さんに会って、これだけの人間ですが、それでもよければ務めますと言って、あなたも立会って証人になってください。そうすれば三人でゆっくり話し合えます」
「鼎足っていう言い方はないよ。わかった、じゃお母さんには私が話しておくから、すぐに呼んだらいいよ」
「お屋敷にお抱えになるなんて、この上ない幸せですね」

原文 (会話文抽出)

「是れは權六、来たかえ、さア此方へ入んな」
「はい、ちょっくら上るんだが、誠に御無沙汰アしました、私も何かと忙しくってね」
「此の間中お母さんが塩梅が悪いと云ったが、最う快いかね」
「はい、此の時候の悪いので弱え者は駄目だね、あなた何時もお達者で結構でがす」
「扨て權六、まア此の上もない悦び事がある」
「はい、私もお蔭で喰うにゃア困らず、彼様心懸の宜い女を嚊にして、おまけに旦那様のお媒妁で本当は彼のお千代も忌だったろうが、仕方なしに私の嚊に成っているだアね」
「なに否どころではない、貴様の心底を看抜いての上だから、人は容貌より唯心じゃ、何しろ命を助けてくれた恩人だから、否応なしで」
「併し夫婦に成って見れば、仕方なしにでも私を大事にしますよ」
「今此処で惚けんでも宜い兎に角夫婦仲が好ければ、それ程結構な事はない、時に權六段々善い事が重なるなア」
「然うでございます」
「知っているかい」
「はい、あのくらい運の宜い男はねえてね、民右衞門さまでございましょう、無尽が当って直に村の年寄役を言付かったって」
「いや左様じゃアない、お前だ」
「え」
「お前が倖倖だと云うは粂野美作守様からお抱えになりますよ、お召しだとよ」
「へえ有難うごぜえます」
「なにを」
「まだ腹も空きませんが」
「なに」
「お飯を喰わせるというので」
「アハ……お飯ではない、お召抱えだよ」
「えゝ然うでござえますか、藁の中へ包んで脊負って歩くのかえ」
「なにを云うんだ、勝山の御城主二万三千石の粂野美作守さまが小皿山の一件を御重役方から聞いて、貴様を是非召抱えると云うのだが、人足頭が入るというので、貴様なら地理も能く弁えて居って適当で有ろうというのだ、初めは棒を持って見廻って歩くのだが、江戸屋敷の侍じゃアいかないというので、お召抱えになると、今から直に貴様は侍に成るんだよ」
「はゝゝそりゃア真平御免だよ」
「真平御免という訳にはいかん、是非」
「是非だって侍には成れませんよ、第一侍は字い知んねえば出来ますめえ、また剣術も知らなくっちゃア出来ず、それに私ゃア馬が誠に嫌えだ、稀には随分小荷駄に乗かって、草臥休めに一里や二里乗る事もあるが、それでせえ嫌えだ、矢張自分で歩く方が宜いだ、其の上いろはのいの字も書くことを知らねえ者が侍に成っても無駄だ」
「それは皆先方さまへ申し上げてある、山川廣様というお方に貴様の身の上を話して、学問もいたしません、剣術も心得ませんが、膂力は有ります、人が綽名して立臼の權六と申し、両手で臼を持って片附けますから、あれで力は知れますと云ってあるが、其の山川廣と云うのはえらい方だ」
「へえ、白酒屋かえ」
「山川廣(口の中にて)山川白酒と聞違えているな」
「へえー其の方が得心で、粂野さまの御家来になるだね」
「うん、下役のお方だが、今度の事に就いては其の上役お作事奉行が来て居ますよ、有難い事だのう」
「有難い事は有難いけんども、私ゃア無一国な人間で、忌にお侍へ上手を遣ったり、窮屈におっ坐る事が出来ねえから、矢張胡坐をかいて草臥れゝば寝転び、腹が空ったら胡坐を掻いて、塩引の鮭で茶漬を掻込むのが旨えからね」
「其様ことを云っては困る、是非承知して貰いたい」
「兎に角母にも相談しましょう、お千代は否と云いますめえが、お母も有りますし、年い老っているから、貴方から安心の往くように話さんじゃア承知をしません、だから其の前に私がお役人さまにも会って、是れだけの者だがそれで勤まる訳なら勤めますとお前さまも立会って証人に成って、三人鼎足で緩くら話しをした上にしましょう」
「鼎足という事はありませんよ、宜しい、それではお母には私が話そうから、直に呼んだら宜かろう」
「お屋敷へお抱えに成るとは此の上ない結構な事で」


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