三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』 「千代」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『菊模様皿山奇談』

現代語化

「千代」
「はい」
「昨日は大変おつかれだったな。お客さんも無事に帰ったから、今日は道具を点検しなきゃいかん」
「はい。お番付の分はだいたい片付けました」
「うん、皿はちゃんと点検しておかなきゃいかんから、何かと面倒だっただろう」
「一生懸命やらせていただきました」
「そうだろう。この通り三段の箱になってるけど、これはなかなか手に入らないものだよ。どこに行っても見られない。女だから分からないかもしれないけど、見ておくといい」
「はい、本当に素晴らしい道具を拝見できて光栄です」
「点検してみよう」
「ああっ。まずは無事で安心しました。あれは8年前にこれだけ割っちゃったのを金粉で修理してこうしてあるんだけど、残りは欠けちゃいけないから、どうか大切にしまっておいてほしい。これだけ破った奴がいて、かわいそうではあったけど、どうにも許せなくて、俺は中指を切ろうと思ったんだけど、それじゃかわいそうだからみんな薬指を切った」
「怖いことです。私はこの道具を扱うのは怖いですね」
「あれは珍しい皿なんだよ。野菊って言って、野菊の色みたいに紫色がかったところがあって、それでこの名前がついてるんだ。いろんな先祖からの記録もあるけど、とりあえず無事で私も安心した」
「お父さん」
「全部しまったか?」
「掛け軸は全部しまいました」
「お客さんはみんな道具を褒めてた?」
「すごく褒めてました。このくらいの名品を持っている人は、この国の中じゃ領主にもいないだろうって評判で、客の態度もすごく良かったですよ」

「みんないい道具が見たいから来るんだ。ただ呼んだって来るわけじゃない。権威を見せてさ。でも土産もとってもよかったな」
「はい、お父さん、あの皿をもう一度点検してください。野菊と白菊、両方見てください」
「さっき見たよ」
「見られたようですが、少し気になることがあります。棚の横にこんにゃく糊をお皿に溶いて置いてるんです。ベタベタしてるんで、なんか心配なんです。他の品では見かけませんから、もう一度調べたほうがいいですか?秋さん、あなたたちはあっちに行って。金造、裏の方をきれいに掃除しておいて。喜八、こっちに来ちゃだめだよ。もうだいたい蔵にしまったか?千代」
「はい。はい。はい」
「さっきお父さんが点検したそうだが、あの皿をこっちに持っておいで」
「はい、さっき見ましたよ」
「見てたけど、ちょっと気になるからもう一回私が点検するんだよ。祝福は千年続くって言うけど、お父さんが亡くなった後は家の宝物になるんだから、この品は私が守る大事な宝物だから、私も一応点検する」
「お爺様が点検して、大丈夫ですって言われたのに、あなたは何で点検するんですか?」
「さっきお父さんが点検しても、私は自分で点検しないと気が済まないんだ」
「どういうことですか?」
「どういうことってぼけるな。千代、お前が皿を割ったんだろ?」
「なんですか、急にそんなことをおっしゃって。私は割った覚えなんてありません。ちゃんと全部点検して、布で拭いて、全部きちんと包装して、お爺様に見ていただきました」
「いや、ごまかすな。それじゃあ棚に糊と板が置いてあるのはどういうことなんだ?」
「あれはお箱の蓋の蝶番が外れたので、米屋の権六さんに頼んで、急いで竹ひごを削ってもらって打ち付けました」
「ごまかすな。そんなことを言っても無駄だ。巧くごまかそうとしても、そんなわけにはいかないぞ。私はちゃんと気づいてるんだ。千代、お前の怪しいと見たから点検するんだ。早く箱を持ってこい」

原文 (会話文抽出)

「千代」
「はい」
「昨日は大きに御苦労であった、無事にお客も済んだから、今日は道具を検めなければならん」
「はい、お番附のございますだけは大概片付けました」
「うむ、皿は一応検めて仕舞わにゃならん、何かと御苦労で、嘸骨が折れたろう」
「私は一生懸命でございました」
「然うであったろう、此の通り三重の箱になってるが、是は中々得難い物だよ、何処へ往ったって見られん、女で何も分るまいが、見て置くが宜い」
「はい、誠に結構なお道具を拝見して有難い事で」
「一応検めて見よう」
「あゝー先ず無事で安心を致した、是れは八年前に是れだけ毀したのを金粉繕いにして斯うやってある、併し残余は瑕物にしてはならんから、どうかちゃんと存して置きたい、是れだけ破った奴があって、不憫にはあったが、何うも許し難いから私は中指を切ろうと思ったが、それも不憫だから皆な無名指を切った」
「怖い事でございます、私は此のお道具を扱いますとはら/\致します」
「是れは無い皿だよ、野菊と云って野菊の色のように紫がゝってる処で此の名が有るのじゃ、種々先祖からの書附もあるが、先ず無事で私も安心した」
「お父さま」
「残らず仕舞ったか」
「お軸物は皆仕舞いました」
「客は皆道具を誉めたろう」
「大層誉めました、此の位の名幅を所持している者は、此の国にゃア領主にも有るまいとの評判で、お客振りも甚く宜しゅうございました」
「皆良い道具が見たいから来るんだ、只呼んだって来るものか、権式振ってゝ、併し土産も至極宜かったな」
「はい、お父様、あの皿を今一応お検めを願います、野菊と白菊と両様共お検めを願います」
「彼は先刻検めました」
「お検めでございましょうが、少し訝しい事が有りますと云うは棚の脇に蒟蒻糊が板の上に溶いて有って、粘っていますから、何だか案じられます、他の品でありませんから、今一応検めましょうかね、秋、お前たちは其方へ往きなさい、金造、裏手の方を宜く掃除して置け、喜八、此方へ参らんようにして、最う大概蔵へ仕舞ったか、千代や」
「はい/\はい」
「先刻お父さんがお検めになったそうだが、彼の皿を此処へ持って来い」
「はい、先刻お検めになりました」
「検めたが、一寸気になるから今一応私が検めると云うは、祝いは千年だが、お父さまのない後は家の重宝で、此の品は私が守護する大事な宝物だから、私も一応検めます」
「大旦那さまがお検めになりまして、宜しい、少しも仔細ないと御意遊ばしましたのに、貴方何う云う事でお検めになります」
「先程お父さまがお検めになっても、私は私で検めなければ気が済まん」
「何う云う事で」
「何う云う事なんてとぼけるな、千代汝は皿を割ったの」
「何うもまア思い掛けない事を仰しゃいます私は割りました覚えはございません、ちゃんと一々お検めになりまして、後は柔かい布巾で拭きまして、一々彼の通り包みまして、大殿様へ御覧に入れました」
「いや耄けるなそんなら如何の理由で棚に糊付板が有るのだ」
「あれはお箱の蓋の棧が剥れましたから、米搗の權六殿へ頼みまして、急拵えに竹篦を削って打ってくれましたの」
「耄けるな、其様なことを云ったって役には立たん、巧く瞞かそうたって、然うはいかんぞ、此方は確と存じておる、これ千代、其の方が怪しいと認めが附いて居ればこそ検めなければならんのだ早く箱を持って来い/\」


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