谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「だがいいですよ、まあ一遍はああ云う女に欺…

OpenAIのAI「GPT-4o」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「でもさ、たまにはあんな女に騙されてみるのも悪くないんじゃない?」
「それな! 俺もあの子のおかげで初恋の味を知ったしさ、短い間でもめっちゃキレイな夢見させてもらったんだから、感謝しなきゃだよね」
「でも、これからあの子どうなっちゃうんだろう?」
「んー、どんどん堕ちてくだけだろうね。熊谷の話じゃ、マッカネルのとこに長くいれるわけないし、数日したらまたどっか行くだろうってさ。しかも、あいつんとこに荷物もあるから、もしかしたら戻ってくるかもって言ってたけど、ナオミって自分の家ないの?」
「家は浅草の酒屋だよ。俺もかわいそうだと思って今まで誰にも言わなかったけどさ」
「あぁ、そうなんだ…やっぱり育ちは隠せないんだね」
「ナオミは、もともと旗本の侍の家系で、生まれた時は立派な家に住んでたって言ってたよ。『奈緒美』って名前もおばあちゃんがつけてくれたらしくて、そのおばあちゃんは昔、鹿鳴館でダンスしてたハイカラな人だったんだって。でも、どこまで本当かわかんないけどね。家庭環境が悪かったのは確かだよ、俺も今になってしみじみ思うけどさ」
「そう聞くと、なんか怖くなってくるね。ナオミって生まれつきああいう運命だったのかもね、せっかく君に救い出してもらったのにさ」
「浜田君、君この後電車で帰る?」
「いやー、歩いて帰るのはちょっとキツイかな」
「そりゃそうだな。俺は京浜電車で帰るよ。横浜にナオミがいるかもだし、省線のほうは危ない気がする」
「じゃあ、俺も京浜電車にしよっかな。でもナオミ、あちこち飛び回ってるから、どっかでバッタリ会っちゃいそうだよね」
「そうなると、外歩くのも気が抜けないな」
「ダンスホールに出入りしてるだろうし、銀座あたりが一番危ないかも」
「大森も結構危険だよ。横浜も近いし、花月園もあるし、あの曙楼もあるしさ…。俺、いっそあの家を畳んで、しばらく下宿生活しようかな。このゴタゴタが落ち着くまでナオミの顔なんて見たくないしさ」

原文 (会話文抽出)

「だがいいですよ、まあ一遍はああ云う女に欺されて見るのも」
「そりゃそうですとも! 僕はとにかくあの人のお蔭で初恋の味を知ったんですもの。たとい僅かの間でも美しい夢を見せて貰った、それを思えば感謝しなけりゃなりませんよ」
「だけども今にどうなるでしょう、あの女の身の行く末は?」
「さあ、これからどんどん堕落して行くばかりでしょうね。熊谷の話じゃ、マッカネルの所にだって長く居られる筈はないから、二三日したら又何処かへ行くだろう、己ンとこにも荷物があるから来るかも知れないッて云っていましたが、全体ナオミさんは、自分の家がないんでしょうか?」
「家は浅草の銘酒屋なんですよ、―――彼奴に可哀そうだと思って、今まで誰にも云ったことはありませんがね」
「ああ、そうですか、やっぱり育ちと云うものは争われないもんですなあ」
「ナオミに云わせると、もとは旗本の侍で、自分が生れた時は下二番町の立派な邸に住んでいた。『奈緒美』と云う名はお祖母さんが附けてくれたんで、そのお祖母さんは鹿鳴館時代にダンスをやったハイカラな人だったと云うんですが、何処まで本当だか分りゃしません。何しろ家庭が悪かったんです、僕も今になって、しみじみそれを思いますよ」
「そう聞くと、尚更恐ろしくなりますなあ、ナオミさんには生れつき淫蕩の血が流れていたんで、ああなる運命を持っていたんですね、折角あなたに拾い上げて貰いながら、―――」
「浜田君、君は省線で帰りますか?」
「さあ、これから歩くのは大変ですから、―――」
「それはそうだが、僕は京浜電車にしますよ、彼奴が横浜にいるんだとすると、省線の方は危険のような気がするから」
「それじゃ僕も京浜にしましょう。―――だけどもいずれ、ナオミさんはああ云う風に四方八方飛び廻っているんだから、きっと何処かで打つかりますよ」
「そうなって来ると、うッかり戸外も歩けませんね」
「盛んにダンス場へ出入りしているに違いないから、銀座あたりは最も危険区域ですね」
「大森だって危険区域でないこともない、横浜があるし、花月園があるし、例の曙楼があるし、………事に依ったら、僕はあの家を畳んでしまって下宿生活をするかも知れません。当分の間、このホトボリが冷めるまでは彼奴の顔を見たくないから」


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