谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「譲治さん、あたしいくらかせいが伸びた?」…

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青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「ねえ、譲治、あたしちょっと背伸びたと思わない?」
「うん、確かに伸びたよ。もうあんまり身長変わんないね」
「そのうちあたし、譲治よりも高くなるんだから。この前体重測ったら、53キロくらいあったよ」
「マジで? すごいね。俺だって60キロないくらいだよ」
「でも譲治、あたしより重いんだ。ちびのくせにさ」
「そりゃそうさ、ちびでも男は骨がしっかりしてるからね」
「じゃあさ、今でもあたしをおんぶできる勇気ある? 前はよくやってくれたじゃん。あたしが背中に乗ってさ、タオルを手綱みたいにして『はいはいどーどー』って言いながら部屋中回ってたじゃん」
「うん、あの頃は軽かったもんな、たぶん45キロくらいだったんじゃない?」
「今なら譲治、ペシャンコになるよ」
「そんなわけないでしょ。信じられないなら乗ってみなよ」
「よし、じゃあ馬になってよ!」

原文 (会話文抽出)

「譲治さん、あたしいくらかせいが伸びた?」
「ああ、伸びたとも。もうこの頃じゃ僕とあんまり違わないようだね」
「今にあたし、譲治さんより高くなるわよ。この間目方を計ったら十四貫二百あったわ」
「驚いたね、僕だってやっと十六貫足らずだよ」
「でも譲治さんはあたしより重いの? ちびの癖に」
「そりゃ重いさ、いくらちびでも男は骨組が頑丈だからな」
「じゃ、今でも譲治さんは馬になって、あたしを乗せる勇気がある?―――来たての時分にはよくそんなことをやったじゃないの。ほら、あたしが背中へ跨って、手拭いを手綱にして、ハイハイドウドウって云いながら、部屋の中を廻ったりして、―――」
「うん、あの時分には軽かったね、十二貫ぐらいなもんだったろうよ」
「今だったらば譲治さんは潰れちまうわよ」
「潰れるもんかよ。嘘だと思うなら乗って御覧」
「さ、馬になったよ」


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