岡本綺堂 『半七捕物帳』 「え、おい。あの餓鬼をどうかしてくれねえじ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「おい、おい。あいつをどうにかしないと困るじゃないか。見ろ、田の草を取ってた薄汚い女だ。気に入らないのはわかるけど、我慢しておいてくれ。あいつに逃げられると本当に困るんだ」
「あいつの足止めをするのは欲得だけちゃいけない。だから色男に頼むんだ。我慢して相手になってやってくれ。恋と情けのしがらみに、とか何とかいうのはこのことだ。一生の女房にするわけじゃないよ。少しの間の辛抱だよ」
「そんな罪なことはしたくないよ」
「ひどく聖人ぶってるな」
「おい、おい。嘘にも本当にもしろ、お嬢さんと駆け落ちした色男じゃないのか?見ろ、下水道にいるネズミみたいだ。今さらまじめな顔をしたって、毛の色は白くならないよ」
「私も今になって後悔してる。普段から目をかけてくれるおかみさんに言われて、仕方なく引き受けてしまったけど、ああ悪いことをしたと最近はとことん後悔してる。世間からは後ろ指をさされ、親たちには苦労をかけ、こんな間違いはない。もうこれ以上は誰が何を言っても、決してそんな相談には乗らないつもりだ。お通って女中もそんなに帰りたがるなら、素直に帰したらいいじゃないか」
「帰せればいいけど苦労がない」
「あんな奴でも口がある。うっかり帰したら世間で何しゃべるかわからない。ここはやっぱり色男にお願いして、足止めのおまじないをしてもらうしかないんだよ。おい、良さん。おめえ、どうしても嫌か?毒を食らわば皿まで、おめえも一度こういうことを引き受けた以上は、少し斬られるのも1寸斬られるのも血が出るだけだ。おい、おい、うまく言え。俺からまたおかみさんにいいように話しておく。おかみさんも野暮じゃない。手当てが出るのはわかってるんだから、素直に引き受けてくれ」
「いや、もう何を言われても私はやらない。誰かほかの人に頼んで……」
「ほかの人に頼めるくらいなら、口を閉じてないよ。今は堅気の寮番でくすぶってるけど、これでも左腕に嫌な刺青のある六蔵だ。俺が一度こう言い出したからには、嫌でも応でも言わせない。おい、良さん、そのつもりで返事してくれ」
「もし、大変賑やかですね」
「どうも騒がしくて申し訳ございません」
「若い者は道楽をして困りますから、少し脅かしてるんですよ」
「お察しします」
「でも、最近は世の中が逆さまになって、年寄りが言う方が間違ってることが多いですね。今の件なんかもそっちの若い人が言う方が道理っぽい。ねえ、良次郎さん。そうでしょう」
「左腕に何か嫌な刺青があるとかいう親父。そんなに若い者をつかまえて無理を言うなよ。見ろ、霊岸島からは縄付きが出るんだ。その道連れをたくさんこしらえるのは殺生だろうぜ」
「な、なんだ」
「おめえは誰だ」
「まあ、誰でもいいよ。俺はこれからお前の寮に行くんだ。案内してくれ」

原文 (会話文抽出)

「え、おい。あの餓鬼をどうかしてくれねえじゃあ困るじゃねえか。どうで田の草を取っていた日向くせえ女だ。気に入らねえのは判り切っているが、眼をつぶって往生してくれ。あいつに逃げられるとまったく困るから」
「あいつの足止めをするのは慾得ばかりじゃあいけねえ。そこで色男に頼むんだ。我慢して相手になってやってくれ。恋と情けのしがらみに、とか何とかいうのはここのことだ。なにも一生の女房にするというわけじゃあねえ。ちっとの間の辛抱だよ」
「そんな罪なことはしたくないから」
「ひどく聖人になり澄ましたな」
「ええ、おい。嘘にもほんとうにもしろ、お嬢さんと駈け落ちをしたという色男じゃあねえか。どうで溷鼠だ。今更まじめな面をしたって、毛の色は白くならねえぜ」
「わたしも今になって後悔している。ふだんから眼をかけて下さるおかみさんに口説かれて、よんどころなく引き受けてしまったが、ああ悪いことをしたと此の頃じゃあ切りに後悔している。世間からはうしろ指をさされ、親たちには苦労をかけ、こんな間違ったことはない。もう此の上は誰がなんと云っても、決してそんな相談には乗らないつもりだ。お通という女中もそれほど帰りたがるなら、すなおに帰してやったらいいじゃありませんか」
「帰してよければ苦労はない」
「あんな奴でも口がある。うっかり帰してやったら世間へ出て何をしゃべるか判らねえ。どうしてもここは色男にお頼み申して、足止めのおまじないをして貰うよりほかにはねえ。え、良さん。おめえ、どうしても忌か。毒くわば皿で、おめえも一度こういうことを引き受けた以上は、一寸斬られるのも二寸斬られるのも血の出るのは同じことだ。え、おい、器用にうんと云ってくれ。俺から又おかみさんの方へもいいように話してやる。おかみさんだって野暮じゃねえ。重た増しが出るのは判っているから、素直におとなしく引き受けてくれ」
「いや、もうなんと云われても私はあやまる。誰かほかの人に頼んで……」
「ほかの人に頼めるくらいなら、口をすぼめやあしねえ。今こそ堅気の寮番でくすぶっているが、これでも左の腕にゃあ忌な刺青のある六蔵だ。おれが一旦こう云い出したからにゃあ、忌も応も云わせねえ。おい、良さん、その積りで返事してくれ」
「もし、大層お賑やかですね」
「どうもお騒々しくってお気の毒さまでございます」
「若い者は道楽をして困りますから、ちっと嚇かしているところですよ」
「お察し申します」
「だが、この頃は世の中がさかさまになって、年寄りのいう方が間違っていることが随分あります。今の一件なんぞはそっちの若い人の云う方が道理らしい。ねえ、良次郎さん。そうでしょう」
「左の腕になにかいやな刺青があるとかいう小父さん。あんまり若けえ者をつかまえて無理を云わねえ方がいい。どうで霊岸島からは縄付きが出るんだ。その道連れを大勢こしらえるのは殺生だろうぜ」
「な、なんだ」
「おめえは誰だ」
「まあ、誰でもいい。おれはこれからお前のあずかっている寮へ行くんだ。案内してくれ」


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