GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「商売してても、雨だと出歩きが面倒で困る」
「大木戸の方はどうなった?」
「まだ手掛かりがなくて困ってる。だから、こっちの件は……」
「伝馬町の牢抜けは二人捕まったよ」
「誰と誰だ?」
「二本松の惣吉と川下村の松之助だ」
「二人は中仙道を落ちようとして板橋まで来たけど、金がなくて。そこらを四、五日うろついた挙句に、宗慶寺って寺に入って、住職と納所にケガさせて15両くらい奪ったところから足がついて、昨夜板橋の女郎屋で捕まったんだって。金ができたらすぐに逃げればいいのに、娑婆に出ると遊びたくなる。やっぱ運の尽きだね」
「他の奴らの行方は?」
「二人の話によると、六人は牢を出るとすぐにバラバラになって、誰がどこに逃げたかわからないって言ってるんだ。惣吉と松之助だけが組んで、本郷から板橋の方に行ったんだって……。旦那衆も厳しく調べたみたいだけど、二人は本当に知らないみたい」
「じゃあ、手がかりはなし?」
「その通り」
「残りの四人のうち、兼吉と勝五郎は行方不明だけど、藤吉と金蔵は牢にいる時から仲が良かったから、この二人はつながってるかもって話だ。松之助の話によると、金蔵はこんなこと言ってたんだって。『俺には江戸で恨みのある奴がいるから、そいつに仕返ししないと高飛びできない』って……」
「仕返しをするの?」
「それがさ、親分」
「どうも三甚を狙ってるらしいんだ。金蔵って見栄っ張りな奴で、三甚みたいな若造に捕まったのは、自分の面目に関わるだとか、自分の名が汚れるだとか言って、むやみやたらと腹を立ててるんだって……。牢から逃げ出した以上、どうせ死ぬのは決まってるんだから、恨みのある三甚を殺して、それから逃げるつもりなんじゃないかと思うんだけど……。そう考えると、三甚も災難だな」
「悪党らしくない、情けない奴だな」
「そう聞くと、さっきの女房の話も嘘じゃないのかも。金蔵に似た奴が西久保の切通しあたりをうろついてるのを見た人がいるらしい」
「藤吉も一緒?」
「それはわからないけど、もしかしたら藤吉に手伝わせて、何をするかわからない。三甚も用心してるみたいだけど、厄介な奴に絡まれたもんだ」
原文 (会話文抽出)
「よく降りますね」
「いくら商売でも、降ると出這入りが不便でいけねえ」
「大木戸の方はどうなりました」
「どうも眼鼻が付かねえで困っている。そこで、どうだ、こっちの一件は……」
「伝馬町の牢抜けは二人挙げられました」
「誰と誰だ」
「二本松の惣吉と川下村の松之助です」
「この二人は中仙道を落ちるつもりで板橋まで踏み出したが、路用がねえ。そこらを四、五日うろ付いた揚げ句に、宗慶寺という寺へはいって、住職と納所に疵を負わせて十五両ばかりの金を取ったのから足が付いて、ゆうべ板橋の女郎屋で挙げられたそうです。路用が出来たらすぐに伸してしまえばいいものを、娑婆へ出ると遊びたくなる。やっぱり運の尽きですね」
「ほかの奴らのゆくえは知れねえのか」
「二人の申し立てによると、六人は牢屋敷の外へ出ると、すぐにばらばらになってしまったので、誰がどっちへ行ったか知らねえと云うのです。惣吉と松之助だけがひと組になって、本郷から板橋の方向へ行ったのだそうで……。旦那方もずいぶん厳重に調べたようですが、二人はまったく知らねえらしいのです」
「それじゃあ、ちっとも手がかり無しか」
「そうですよ」
「残る四人のうちで、兼吉と勝五郎はどうしたか判らねえが、藤吉と金蔵は牢内にいる時から仲が好かったから、この二人は繋がっているかも知れねえと云うことです。松之助の申し立てによると、金蔵はこんなことを云っていたそうです。おれは江戸に恨みのある奴があるから、そいつに意趣返しをした上でなけりゃあ高飛びは出来ねえと……」
「意趣返しをする」
「それがね、親分」
「どうも三甚を狙っているらしいのです。金蔵は妙なところへ見得を張る奴で、三甚のような小僧ッ子に召捕られたのは、おれの顔にかかわるとか、おれの名折れになるとか云って、むやみに口惜しがっているのだそうで……。牢抜けをする以上、どうで命はねえに決まっているから、恨みのある三甚を殺らして置いて、それから高飛びをする料簡じゃあねえかと思うのですが……。そうなると、三甚もいい面の皮です」
「悪党らしくもねえ、未練な奴だな」
「そう聞くと、さつきの女房の話も嘘じゃああるめえ。金蔵に似た奴が西の久保の切通し辺をうろ付いているのを見た者があるそうだ」
「藤吉も一緒でしょうか」
「それは判らねえが、ひょっとすると藤吉に助太刀をたのんで、何をするか判らねえ。三甚も如才なく用心しているだろうが、飛んだ奴に魅こまれたものだ」