岡本綺堂 『半七捕物帳』 「おい、忙がしいかね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「おい、忙しい?」
「焚き物をたくさん用意しとけ。今にも筑波颪が吹いてくるだろうから」
「やあ、おはようございます」
「本当に朝晩は急に寒くなりましたね。十三夜過ぎたら耐えられないでしょう。今朝はもう霜が降りたらしいよ」
「十三夜と言えば、あの晩に大変なことがあったそうですね。私もさっき御代官所の宮坂さんから詳しく話を聞いたんですが、働き盛りの若者が5人も一度に窒息したのは大変でしょう。刈り入れも近いのに、どこでも困るでしょうね。5人の墓は全部この寺にあるんですか?」
「そうですよ。先祖代々の墓が全部この寺にあるんです。でも、困ったことが起きてるんです」
「なんだ。何が困るんだい?」
「小女郎がやっぱり悪さをするらしいんです。毎晩のようにやって来て、5人の墓の前にある新しい塔婆を全部引き抜いてしまうんです。花筒の樒の葉は掻きむしってしまう。どうにも手に負えないんです。初七日を過ぎてまだ間もないし、親族の人達が参拝に来るかもしれないから、散らかしておくのもよくないので、私は毎朝綺麗に直すんですが、毎晩しつこく荒らされるんです。私も根負けして、昨日佐兵衛さんの兄貴が来た時にその事情を話して、もうそのままにしておくつもりですよ。今朝はまだ見に行ってないけど、きっとやられてるでしょうね。小女郎も執念深すぎる。5人の命まで奪ったんだから、もう許してやればいいのに……。生霊や死霊と違って、あの小女郎は和尚さんの法要や供養では効きません。本当に困ったもんです」
「村の者はみんな小女郎の仕業だと決めてるんですね?」
「まあ、そうですよ」
「やっぱり子狐を殺したのがいけなかったんですよ。死んだ者の親戚の人たちも諦めてるんですが、その中でたった一人、さっき言った佐兵衛さんの兄貴の善吉、あの男だけはまだそれを疑って、狐の仕業じゃないと言い張ってるんですが、他に証拠も手がかりもありませんから、どうすることもできないんです。どう考えても狐の仕業と決めてしまうしかないですよ」
「そうでしょうね。それにしても執念深く墓を荒らすのは良くないな。せっかくの新仏の墓を見せてくださいよ」

原文 (会話文抽出)

「おい、忙がしいかね」
「焚き物はたくさん仕込んで置くがいい。もう直き筑波が吹きおろして来るからね」
「やあ、お早うございます」
「まったく朝晩は急に冬らしくなりましたよ。なにしろ十三夜を過ぎちゃあ遣り切れねえ。今朝なんぞはもう薄霜がおりたらしいからね」
「十三夜といやあ、あの晩にゃあ飛んだことがあったそうだね。私もたった今、御代官所の宮坂さんから詳しいことを聞いて来たんだが、働き盛りの若けえのが五人も一度にいぶされちゃあ堪まらねえ。刈り入れを眼のまえにひかえて、どこでも困るだろう。五人の墓はみんなこの寺内にあるんだね」
「そうですよ。先祖代々の墓がみんなこの寺内にあるんだからね。ところが、どうも困ったことが出来てね」
「なんだ。何が困るんだ」
「小女郎がやっぱり悪戯をするらしい。毎晩のようにやって来て、五人の墓の前に立っている新らしい塔婆を片っぱしから引っこ抜いてしまうんですよ。花筒の樒の葉は掻きむしってしまう。どうにもこうにも手に負えねえ。初七日を過ぎてまだ間もねえことだし、親類の人達だって誰が参詣に来ねえとも限らねえから、あまりこう散らかして置いてもよくねえと思って、毎朝わしが綺麗に直して置くと、毎晩根よく掻っ散らして行く。こっちも根負けがしてしまって、きのうも佐兵衛どんの兄貴が来た時にその訳をよく話して、もうそのままに打っちゃって置くつもりですよ。けさはまだ行って見ねえが、きっとやっているに相違ねえ。小女郎もあんまり執念ぶけえ。五人の命まで奪ったら、もういい加減に堪忍してやればいいのに……。生霊や死霊とは違って、あの小女郎ばかりは和尚様の回向でも供養でも追っ付かねえ。ほんとうに困ったもんですよ」
「村の者はみんな小女郎の仕業と決めているんだね」
「まあ、そうですよ」
「なにしろ子狐を責め殺したのが悪かったんですよ。死んだ者の親戚の人達もまあ仕方がねえと諦めていたんだが、その中でたった一人、今も云った佐兵衛どんの兄貴の善吉、あの男だけはまだそれを疑って、どうも狐の仕業じゃあるめえと云い張っているんだが、ほかにはなんにも証拠も手がかりもねえことだから、どうにもしようがねえ。どう考えても狐の仕業と決めてしまうよりほかはありますめえよ」
「そうさ。それにしても執念ぶかく墓をあらすのは良くねえな。なにしろ、その新ぼとけの墓というのを拝ましてくれねえか」


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