岡本綺堂 『半七捕物帳』 「おまえはお熊か。なんでも正直に云え。この…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「おめえはお熊か。正直に言えよ。この間、伝蔵来なかったか?」
「白状します」
「おとといの夜、町のお風呂に行ったら、帰りに伝蔵に会いました」
「伝蔵は何て言った?」
「俺と一緒に逃げろって」
「どこへ逃げるんだ?」
「それは言いませんでした。これから一緒に逃げるから、自分の金や服持って来いってだけ」
「おめえは何て答えた?」
「嫌だって断りました。あんたみたいな怖い人と一緒には行けないって」
「それで伝蔵は諦めたのか?」
「あんな恐ろしいことをやったのもお前のためなんだ。絶対来なきゃ、主人もお前も許さないぞって、怖い顔で脅してきました」
「なんで主人を恨んでるんだ?」
「お前の主人に伝蔵が恨まれるような理由でもあるのか?」
「あの人は勘違いしてるんです」
「勘違いじゃあるまい」
「恨まれるだけの事情があるんだろう。そうでなきゃ、主殺しの指名手配犯と付き合ってた女を、そのまま働かせて置くわけないでしょ」
「昔のことなんて関係ねえから、ここで働いてろって主人が言ってるんだろ?」
「そう言うには理由があるでしょう。おれは全部知ってる。ここの主人は去年の暮れ、なんで堀江まで行ったんだ?」
「旦那は商売で……」
「商売って何だ?」
「雁の羽を取りに……」
「雁の羽……」
「はい。お茶会とかで使います」
「雁の羽をどうするんだ?」
「三つ羽箒にします」

原文 (会話文抽出)

「おまえはお熊か。なんでも正直に云え。この頃に伝蔵は来なかったか」
「参りました」
「おとといの晩、町内のお湯屋へ参りますと、その帰りに伝蔵に逢いました」
「伝蔵はなんと云った」
「おれと一緒に逃げろと云いました」
「どこへ逃げるのだ」
「それは申しません。これから一緒に逃げるから、自分の金や着物を持ち出して来いと云っただけでございます」
「おまえは何という返事をした」
「いやだと断わりました。お前のような恐ろしい人と一緒には行かれないと申しました」
「それで伝蔵は承知したか」
「その恐ろしい事をしたのもお前の為だ。どうしても肯かなければ、主人もお前も唯は置かないぞと、怖い顔をして嚇かしました」
「なぜ主人を恨むのだ」
「お前の主人は伝蔵に恨まれるような筋があるのか」
「あの人は思い違いをしているのでございます」
「思い違いじゃああるめえ」
「恨まれるだけの因縁があるのだろう。さもなければ、主殺しの兇状持ちに係り合いのあった女を、そのまま奉公させて置く筈があるめえ」
「昔のことは構わないから、ここの家に勤めていろと主人が申しました」
「そう云うには訳があるだろう。おれはみんな知っている。ここの主人は去年の暮れ、なんで堀江まで出かけたのだ」
「旦那は商売のことで……」
「商売の事とは何だ」
「雁の羽を取りに……」
「雁の羽……」
「はい。お茶の湯に使います」
「雁の羽をどうするのだ」
「三つ羽箒にいたします」


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