岡本綺堂 『半七捕物帳』 「伝蔵はやっぱり江戸にいますよ。福田の屋敷…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「伝蔵、まだ東京にいますよ。福田の屋敷にいた曽根鹿次郎って侍が、今は牛込神楽坂の坂井金吾って旗本の屋敷に住んでます。その曽根が2、3日前に、小梅の光隆寺にお墓参りに行きました。光隆寺は福田の屋敷のお墓があるお寺だから、命日じゃなかったけど、曽根も仕事の合間にお墓参りに。お寺を出ると、どこからか伝蔵が尾けてきて、自分は指名手配されてるから商売もできないし、今日も困ってるから金くれって。その図々しさに、曽根も呆れました。昔の知り合いに出会ったとしても、顔を隠して逃げるのが普通なのに、自分から話しかけて金貸せって言うなんて、すっごい図々しい奴です。曽根も腹が立って斬ろうと思ったけど、自分も今は主人持ちですから、昔の主人の仇を討つのはちょっと面倒くさい。捕まえて番所へ突き出そうと思って、急に伝蔵の利き腕を捕まえて捻じると、伝蔵も腕っぷしが強くて振り払って取っ組み合いになっちゃったんですけど、そこは道が悪いし凍けてて滑りやすくて、曽根が膝をついたところを伝蔵が突き飛ばして、一目散に逃げたそうです」
「なるほど、殺人犯だから図々しいのも当然か」
「アホなのか、根性があるのか知らねえけど、そんな奴、どこからでも出てきそうだよ。東京にいるってわかったら、余計に注意しな」
「麹町4丁目の太田屋って酒屋は、福田の屋敷と長年取引してたそうです。その女将が娘と小僧を連れて、王子稲荷の初午にお参りに行くと、王子道の寂しいところで伝蔵に会ったそうです。これも同じような文句で、指名手配されてるから食べるものがねえから金くれって。こっちは女子供だから、怖くて巾着からお金全部出して2朱以上巻き上げられたそうですよ。ますます図々しい奴ですね」
「そんな奴を野放しにしておくと、上の威信にも傷がつくし、俺らも恥ずかしい。本気で早く捕まえろ」
「福田の屋敷にいたお辰って女が、今は四谷坂町の奥平宗悦って坊さんの家に奉公してるんです。そのお辰が2、3日前の夜、主人の用事で塩町まで出かける途中、例の伝蔵につかまって、主人の買い物の金を奪われたうえ、近くの空き地に引きずり込まれて、お熊の居場所を教えろって脅されたそうですよ。お辰は知らないって言っても、伝蔵は信じない。最後にはお辰の首を絞めて、早く言えって詰め寄せてる時に、近所の侍が2、3人通ったので、伝蔵も慌てて逃げたけど、お辰は半死半生で倒れてしまったそうです。ここは常陸屋の縄張りだから、それを聞いてすぐに網を張ったけど、伝蔵の姿はもう見えなかったそうで、常陸屋でも悔しがってるってさ」
「しょうがないな」
「ところで、お熊はどうした。まだ遠州屋にいるのか?」
「まだ道具屋で働いてるそうです」
「それじゃあどこからか聞きつけて、伝蔵が遠州屋に来るかもしれない。善八と相談して、その近所を監視してろ。でも、伝蔵を捕まえても、すぐ牢屋に連れてくんなよ。俺にひと声かけてくれ」
「わかりました」

原文 (会話文抽出)

「伝蔵はやっぱり江戸にいますよ。福田の屋敷にいた曽根鹿次郎という若侍が、当時は牛込神楽坂辺の坂井金吾という旗本屋敷に住み込んでいます。その曽根が二、三日前に小梅の光隆寺へ墓参に行きました。光隆寺は福田の屋敷の菩提寺ですから、命日というわけじゃあねえが、曽根も勤めの暇をみて、旧主人の墓参りに行ったのです。参詣を済ませて寺を出ると、どこから尾けて来たのか伝蔵が門の前に待っていて、自分はお尋ね者で商売に取り付くことも出来ず、その日にも困っているから、幾らか恵んでくれと云ったそうです。そのずうずうしいには、曽根も呆れました。たとい昔の知りびとに出逢っても、顔を隠して逃げるのが当然だのに、自分の方から声をかけて、いくらか貸せとゆするとは、まったく思い切ってずうずうしい奴です。曽根も腹立ちまぎれに斬ってしまおうかと思ったのですが、自分も今は主人持ちですから、旧主人のかたきを討つというのは少し面倒です。取り押さえて番所へ突き出そうと思って、不意にその利き腕をとって捻じあげると、伝蔵もなかなか腕っ節の強い奴で、振り払って掴み合いになりましたが、あの辺は路が悪い、霜どけ道に雪踏をすべらせて、曽根が小膝を突いたところを、伝蔵は突き放して一目散に逃げてしまったそうです」
「成程、主殺しでもするだけに、思い切ってずうずうしい奴だな」
「馬鹿か、図太いのか、なにしろそんな奴じゃあ、何処へのそのそ這い出して来るかも知れぬえ。江戸にいると決まったら、尚さら気をつけてくれ」
「麹町四丁目の太田屋という酒屋は、福田の屋敷へ長年の出入りだったそうです。その女房が娘と小僧を連れて、王子稲荷の初午へ参詣に行くと、王子道のさびしい所で、伝蔵に出逢ったそうです。これも同じような文句をならべて、お尋ね者で喰うに困るから幾らか恵んでくれと云う。こっちは女子供だから、怖いのが先に立って、巾着銭をはたいて二朱と幾らかを捲き上げられたそうですよ。いよいよ図太い奴ですね」
「そんな奴をのさばらせて置くと、上の威光にかかわるばかりか、おれ達の顔にもかかわる。本気になって早く狩り出してしまえ」
「福田の屋敷に勤めていたお辰という女は、このごろ四谷坂町の奥平宗悦というお城坊主の家に奉公しています。そのお辰が二、三日前の晩に、主人の使で塩町まで出て行く途中、例の伝蔵に取っ捉まって、主人の買い物をする金を取りあげられた上に、そこらの空地へ引き摺り込まれて、お熊の居どころを教えろと責められたそうですよ。お辰は知らないと云っても、伝蔵は承知しねえ。しまいにはお辰の喉を強く絞めて、さあ隠さずに云えと責め立てているところへ、近所の若侍が二、三人通りかかったので、伝蔵もあわてて逃げて行ったが、お辰は半死半生になって倒れてしまったそうです。ここらは常陸屋の縄張りだから、それを聞いてすぐに網を張ったが、伝蔵の姿はもう見えなかったそうで、常陸屋でも口惜しがっていると云うことですよ」
「仕様がねえな」
「そこで、そのお熊はどうした。相変らず遠州屋にいるのか」
「相変らず道具屋に勤めています」
「それじゃあ何処からか嗅ぎつけて、伝蔵は遠州屋へたずねて来るかも知れねえ。善八と相談して、その近所を見張っていろ。だが、伝蔵を召し捕っても、すぐに番屋へ引き摺って行っちゃあいけねえ。おれに一応知らせてくれ」
「承知しました」


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