岡本綺堂 『半七捕物帳』 「ああ、そうでしたか。番町のお屋敷に御奉公…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「あ、そうだったんですか。番町のお屋敷で奉公してたとき、お世話になりましたって……」
「まあ、どうぞあちらへ……」
「いや、もう大丈夫です。急いでるんで」
「さっそくですけど、お熊さんはどうしたんですか。お辰さんも心配して、私たちに聞いてきてくれって」
「ご親切にありがとうございます」
「じゃああなたも事情知ってると思いますが、お熊、とんでもない失敗しちゃって……お恥ずかしい」
「若いからしかたないよね」
「私もびっくりしました。9月頭に帰ってきたときは隠してたけど、様子が変だったんで聞いたら、結局こうこうこういうわけでクビになったって白状したんです。相手は誰かわかんないですけど、中間と付き合うなんて将来性ないですよって、私たちからも何度も言ったら、本人も目が覚めたみたいで、その男のことは諦めますって。でも田舎に帰ってもしょうがないから、また江戸で奉公に出してほしいって言うんで、不安でしたけど、本人が頼むから出すことにしたんです。お熊も思い切ったみたいで、万が一伝蔵って男が来ても、私の居場所は教えないでって頼んで出ました」
「それで、東京でどこで働いてるんですか?」
「下谷の遠州屋って道具屋で……」
「遠州屋……」
「そのあと1か月くらいして、10月の10日だったと思います」
「東京から役人が2人来て、お熊はどうした、伝蔵は来てるかって聞かれたんです。話を聞いて、びっくりしました。伝蔵って男、何て奴かって。妹には早く忘れてもらえてよかったって思いました。でもその後5、6日で、伝蔵が来ました」
「で、どうしたんですか?」
「伝蔵は近所で探ったみたいで、お熊がいないのを知ってました。どこ行ったって聞かれたけど、知らないって言いきりました。お熊は勝手に出て行って、今どこにいるかわからないって、最後まで言いはりました。じゃあ今夜だけ泊めてくれって、ここで1泊して、次の朝に出るときに旅費を貸してくれって言われたんですけど、うちにはお金なんてありません。それでも貸せって脅すから、300円かき集めました」
「それで、大人しく帰っていったんですか?」
「手配書が出てるから、うかうかしてられないって言っていました」

原文 (会話文抽出)

「ああ、そうでしたか。番町のお屋敷に御奉公中は、妹めがいろいろ御厄介になりましたそうで……。まあ、どうぞこちらへ……」
「いや、構わないで下さい。わたし達は急ぎますから」
「早速ですが、お熊さんはどうしました。お辰さんもそれを心配して、わたし達に訊いて来てくれと頼まれましたが……」
「御親切にありがとうございます」
「それではお前さんも大抵のことは御承知でございましょうが、お熊の奴め、飛んでもねえ心得違いを致しまして、なんとも申し訳ございません」
「若けえ者だから仕方がないようなものだが、それからいろいろのことが出来したらしいね」
「わたしも実にびっくりしました。九月のはじめにお熊が戻って来まして、始めは隠していましたが、どうも様子がおかしいので、だんだん詮議いたしますと、実はこうこう云うわけでお暇になったと白状いたしました。相手はどんな人か知らないが、お中間なんぞと係り合ったところで行く末の見込みは無いと、女房からも私からもよくよく意見を致しましたら、当人も眼が醒めた様子で、その男のことは思い切ると申していました。しかし田舎に帰っていても仕様がないから、もう一度お江戸へ奉公に出してくれと云いますので、わたし達はなんだか不安心に思いましたが、当人がしきりに頼みますので、とうとう又出してやることになりました。お熊はまったく思い切ったようで、万一その伝蔵という男がたずねて来ても、わたしの行く先を教えてくれるなと頼んで出ました」
「今度は江戸へ出て、どこへ奉公しているのだね」
「下谷の遠州屋という道具屋さんで……」
「遠州屋……」
「それから小ひと月も立ちまして、十月の十日とおぼえています」
「お江戸から御用聞きの方が二人づれでお出でになりまして、お熊はどうした、伝蔵は来ているかという御詮議で……。だんだんのお話をうかがいまして、実におどろきました。伝蔵という男は、まあ何という奴か。妹にも早く思い切らせて好かったと、その時つくづく思いました。ところが、お前さん。それから五、六日の後に、その伝蔵がたずねて来ましたので、わたし達はぎょっとしました」
「そこで、どうしたね」
「伝蔵はもう近所で探って来たと見えまして、お熊のいない事を知っていました。どこへ行ったと頻りに訊きましたが、わたし達は知らないと云い切ってしまいました。お熊は断わりなしに家出をして、今どこにいるか判らないと、飽くまでも強情を張り通しました。それでは今夜だけ泊めてくれと云いまして、ここの家にひと晩泊まりまして、あくる朝出るときに路用の金を貸してくれと云いましたが、わたし達の家に金なぞのある筈はありません。それでも幾らか貸せとゆすりますので、銭三百をかき集めてやりました」
「それで、おとなしく立ち去ったのか」
「お尋ねの身の上だから、うかうかしてはいられないと、自分でも云っていました」


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