岡本綺堂 『半七捕物帳』 「季節になったせいか、寒さがこたえますね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「寒くねえ?冬っつうとさ」
「おう、 歳末は寒いよ」
「で、あんま急ぎじゃねえけど、あんたの手伝いが必要なんだ。お前の仕事ぶり、見て知ってるからさ」
「なんで?」
「仇討ちの助っ人みたいな話だ」
「それって芝居みたいだな」
「こういうときはさ、オラも少し芝居っぽくしてみたくなる。本当は坊主みたいな格好で出たいとこだけど、そうもいかねえ。まあ、聞いてくれ」
「なるほど、芝居か。じゃあ、どこから始めるの?」
「これ、四谷の常陸屋ってとこが関係してんだよ。向こうも探ってんだろうけど、俺らも独自に調べねえとならん。直七と鶴吉の言うには、その伝蔵ってやつは秩父の生まれらしい。金もねえから故郷に帰れねえし、江戸にいるのも危ねえってことで、どっか逃げちまったみてえだ。もう3月前だから、足跡追うのメンドクセえが」
「伝蔵とつき合ってんだねえ、女ってどこにいるの?」
「お熊って女で、19歳。堀江ってとこだ」
「堀江ってどこ?」
「千葉だけど、東京から遠くないんだ。行徳の近くと思えばいい。浦安って村があって、そこの堀江とか猫実……」
「わかった。堀江、猫実……。東京から釣りとか潮干狩りに来る人がいるとこでしょ?」
「そう、そう。江戸川の終わりくらいで、海に近いんだ。昔は堀江千軒って呼ばれるくらい栄えてたみたいだけど、今は行徳とか船橋に負けてさびれちゃったらしい。漁師町だけど、百姓もいる。お熊は宇兵衛って百姓の妹なんだってさ。で、オラの推理じゃ、お熊が8月に追い出されたとき、伝蔵は会いに来て、主人から金盗んで逃げようとしたみてえなんだ」
「それで、伝蔵はお熊の家に隠れてるのか?」
「そこなんだよ」
「それで、金盗めたら堀江まで来てたろうけど、金ねえならどうだろう。そもそもお熊がすぐ帰ったのか、東京で奉公して伝蔵の連絡待ってんのかもわかんねえし」
「堀江まで行ってもムダ?」
「ムダかもしんねえ。でも、ムダとわかっててもムダなことをするのが、商売ってもんなんだ。すぐ仕事ねえし、明後日くらい行ってみるかな」
「あんたも行くの?」
「一緒の方が、おめえも寂しくねえだろ。行くなら深川から行徳まで船で行けば楽だ。寒いけどしかたねえ。朝は7時に集合な」
「じゃあ、それで」

原文 (会話文抽出)

「季節になったせいか、寒さがこたえますね」
「御同様に歳の暮れというものは暖くねえものだ」
「その節季に気の毒だが、一つ働いて貰いてえ事がある。急ぎと云うものでもねえが、急がねえでもねえ。まあ、せいぜいやってくれ」
「なんですね」
「かたき討ちの助太刀と云ったような筋だ」
「芝居がかりですね」
「こういうことになると、おれもちっと芝居気を出したくなる。本当ならば虚無僧にでも姿をやつして出るところだが、真逆にそうも行かねえ。まあ、聴いてくれ」
「成程、こりゃあいよいよお芝居だ。そこで、先ずどこから手を着けますね」
「この一件は四谷の常陸屋の係りだ。如才なく、ひと通りの探索はしているだろうが、こっちはこっちで新規に手を伸ばさなけりゃあならねえ。直七と鶴吉の話によると、その伝蔵という奴は秩父の生まれだそうだが、一文無しで故郷へ帰ることも出来めえ。といって、江戸にいるのもあぶねえと云うので、どっかへ草鞋を穿いたかも知れねえ。なにしろ三月も前のことだから、その足あとを尾けるのがちっと面倒だ」
「伝蔵と係り合いの女はどこにいるでしょう」
「それはお熊という女で、年は十九、宿は堀江だそうだ」
「堀江とは何処ですね」
「下総の分だが、東葛飾だから江戸からは遠くねえ。まあ、行徳の近所だと思えばいいのだ。そこに浦安という村がある。その村のうちに堀江や猫実……」
「判りました。堀江、猫実……。江戸から遠出の釣りや、汐干狩に行く人があります」
「そうだ、そうだ。つまり江戸川の末の方で、片っ方は海にむかっている所だ。むかしは堀江千軒と云われてたいそう繁昌した土地だそうだが、今は行徳や船橋に繁昌を取られて、よっぽど寂れたということだ。漁師町だが、百姓も住んでいる。お熊はその宇兵衛という百姓の妹だそうだ。そこで、おれの鑑定じゃあ、お熊が八月に屋敷を出された時、いずれ伝蔵がたずねて行くという約束でもあって、伝蔵は主人の金をぬすんで逃げ出そうとしたのだろう」
「そうすると、伝蔵はお熊の宿に隠れているのでしょうか」
「さあ、そこだ」
「望み通りに金を盗めば、堀江までたずねて行ったろうが、これも一文無しじゃあどうだろうか。第一、お熊がすぐに国へ帰ったか、それとも江戸のどっかに奉公して伝蔵のたよりを待っているか、それも判らねえ」
「堀江まで踏み出しても無駄でしょうか」
「無駄かも知れねえ。だが、無駄と知りつつ無駄をするのも、商売の一つの道だ。さしあたって急用もねえから、念晴らしに明後日あたり踏み出してみるかな」
「おまえさんも行きなさるかえ」
「道連れのある方が、おめえもさびしくなくて好かろう。行くなれば、深川から行徳まで船で行くほうが便利だ。ちっと寒いが仕方がねえ。朝は七ツ起きだ」
「じゃあ、そうしましょう」


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