岡本綺堂 『半七捕物帳』 「それほど思い詰めたら仕方がねえ。まあ、思…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「それほど思い詰めてるなら仕方ない。まぁ、思う通りに仇討ちをさせてやろう」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「で、その伝蔵の居場所を突き止めて、俺たちの手で捕まえられれば問題ないが、お前の手で討つとなると、仕事がちょっと面倒だ。伝蔵って奴は腕が立つのか?」
「何を、たいしてできる奴でもないようですが……」
「それが主人を一刀で斬って、続いてお関さんも斬ってしまうってのは、あまりにも手際が良すぎるようにも思われる。それには何か因縁があるんじゃないか……。ねぇ、鶴さん」
「母は因縁だと申していますが……」
「どんな因縁だ?」
「今どきこんな話をすると、他人は笑うかもしれませんが……」
「伝蔵は主人の枕元にある脇指で斬ったそうですが、その脇指が吉良上野殿の指料だったそうです。その由来は知りませんが、先祖代々伝わっているのだそうです」
「先祖伝来はともかくも、好んでそんなものを差すってのは、よっぽどの物好きだな」
「物好きといえば物好きです。吉良の脇指というので、代々の殿様は差したこともなく、土蔵の中に仕舞ってあったのを、先年虫干しの時に、今の殿様がご覧になって、どこが気に入ったのか、自分の指料にするとおっしゃいました。そんなものは止めた方が良いでしょうと申し上げた者もありましたが、殿様はお聞きになりません。それは刀が悪いのじゃなくて、差し手が悪いんだ。吉良が悪かったから討たれたんだ。俺は吉良みたいな悪いことはしない、吉良の良いところにあやかって四位の少将にでも昇進するんだなどと仰って、とうとうその脇指を自分の指料になさいました。それから4、5年の間は何事もなかったのですが、図らずも今度のようなことが起きて、殿様も姉もその脇指で殺されました。姉は普段からその脇指のことを気にしていまして、吉良の脇指なんてのは縁起が悪いと申していましたが、やっぱり虫が知らせていたのかもしれません」
「刀の祟りってのは、昔からよく言いますが、吉良の脇指なども良くないんでしょうね」
「吉良の脇指も村正と同じようなものかな」
「で、その脇指はどうなったんだ?伝蔵が持ち逃げか?」
「いえ、庭先に捨ててありました」
「お屋敷の後始末をするときに、こんなものは縁起が悪いから、折るとかいうことでしたので、私が形見に頂戴してまいりました。それで伝蔵を討ちたいと思いますが、どうでしょう?」
「それも良いだろう。吉良の脇指で仇討ちをしたら、世の中も変わったものだと、泉岳寺にいる連中も驚くかもしれない」

原文 (会話文抽出)

「それほど思い詰めたら仕方がねえ。まあ、思い通りにかたき討ちをおしなせえ」
「有難うございます。ありがとうございます」
「そこで、その伝蔵のありかを突き留めて、わたしらの手で押さえるならば仔細はねえが、おまえさんの手で討つとなると、仕事がちっと面倒だ。伝蔵という奴は腕が出来るのかえ」
「なに、たいして出来る奴でも無さそうですが……」
「それが主人を一刀で斬って、つづいてお関さんも斬ってしまうと云うのは、あんまり手ぎわが好過ぎるようにも思われます。それには何だか因縁がありそうで……。ねえ、鶴さん」
「母は因縁だと申していますが……」
「どんな因縁だね」
「今時こんなお話をいたしますと、他人さまはお笑いになるかも知れませんが……」
「伝蔵は主人の枕元にある脇指で斬ったのですが、その脇指が吉良上野殿の指料であったと云うことです。その由来は存じませんが、先祖代々伝わっているのだそうです」
「先祖伝来はともかくも、好んでそんな物をさすと云うのは、よっぽどの物好きだね」
「物好きといえば物好きです。吉良の脇指というので、代々の殿さまは差したこともなく、土蔵のなかに仕舞い込んであったのを、先年虫ぼしの節に、今の殿さまが御覧になって、どこが気に入ったのか、自分の指料にすると仰しゃいました。そんな物はお止めになったが好かろうと云った者もありましたが、殿さまはお肯きになりません。それは刀が悪いのではなく、差し手が悪いのだ。吉良が悪いから討たれたのだ。おれは吉良のような悪い事はしない、吉良の良い所にあやかって四位の少将にでも昇進するのだなぞと仰しゃって、とうとうその脇指を自分の指料になさいました。それから四、五年のあいだは何事もなかったのですが、図らずも今度のようなことが出来しまして、殿さまも姉もその脇指で殺されました。姉はふだんから其の脇指のことを気にしていまして、吉良の脇指なんぞは縁起が悪いと云っていましたが、やっぱり虫が知らせたのかも知れません」
「刀の祟りということは、昔からよく云いますが、吉良の脇指なども良くないのでしょうね」
「吉良の脇指も村正と同じことかな」
「そこで、その脇指はどうなったね。伝蔵が持ち逃げかえ」
「いえ、庭さきに捨ててありました」
「お屋敷の後始末をする時に、こんな物はいよいよ縁起が悪いから、折ってしまうとか云うことでしたから、わたくしがお形見に頂戴いたして参りました。わたくしはそれで伝蔵を討ちたいと思いますが、いかがでしょう」
「それもよかろう。吉良の脇指でかたき討ちをしたら、世の中も変ったものだと、泉岳寺にいる連中が驚くかも知れねえ」


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