岡本綺堂 『半七捕物帳』 「その晩はまあそれとして、その後にも別に気…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「その晩はまぁそれとして、その後にも何か変なことに気づかなかったかい?」
「それが親分」
「実は少し変だなと思うことがありまして……。その翌朝の夜明け頃、一人の男が仮橋の上に立って、しばらく水面を見ていたんです。その時はあまり気にも留めませんでしたが、御存知の通り、その日は朝の4時頃から雨が上がっていい天気になりました。すると、昼過ぎになってまたその男が橋に来て、さっきと同じように川を見ていたんです。それが2日も3日も続いたので、いよいよ変だと思って……。ねぇ、あんた。昨日女の死体が上がったじゃないですか。その死体はちょうどその男が立っていた橋の下あたりに沈んでたんですよ……。そうすると、その男は何らかの関係があって、女がそこに沈んでいるのを知ってて、何度も様子を見に来たんじゃないかって思うんですけど……」
「ふむ。そんなことがあったのか。で、その男はどんな奴だ?」
「もう40歳近くで、色黒の、がっしりした男で、そんなに野暮ったい感じもしませんでした。もちろん、証拠があるわけじゃないですけど、もしかしたら死んだ女の亭主で……」
「じいさん、ナイスだなぁ」
「私もその話を聞いて、すぐにそう思いました。よくある話で、女と夫婦喧嘩でもして飛び込んだのかもしれません。でも、やっぱり謎なのは金の蝋燭……。なんでそんなもの持ってたんでしょう」
「それがわかればすべてがわかる」
「いや、わからないところがおもしろいのかもしれねぇな。その男は今日も来たかい?」
「今日はまだ来てないようです」
「死体が上がってしまったので、もう来ないのかもよ」
「ふむ」
「その男は西から来たのか東から来たのか、つまり日本橋の方から来たのか、本所の方から来たのか、それもわからないかい?」
「いつも柳橋の方から来るみたいなので、あそこの人か、神田か浅草でしょうね」
「いや、ありがとう。お仕事中なのに、邪魔しちゃって悪かった。おい、じいさん。これは少ないけど、タバコでも買ってこい。逃がした魚に餌だ」
「親分、女の亭主ってもう来ないでしょうか?」
「来ねえだろうな。厄介なことに、人夫たちが発見しちゃったんだから、あちこち言いふらすだろう。そんな噂が立てば、奴らもきっと証拠を隠すだろうな。気が早い奴はどこかへ逃げ出すかもしれない。のんびりしてるとせっかくの魚に逃げられちまう。早く片を付けたいもんだなぁ」
「橋番の親父がもう少し気が利いてりゃよかったんですけどね」
「あんなぼけた親父に頼って、仕事がうまくいくわけねぇだろ」
「まぁ、とりあえず柳橋の方に行ってみよう」

原文 (会話文抽出)

「その晩はまあそれとして、その後にも別に気の付いたことは無かったかね」
「それがねえ、親分」
「実はすこし変だと思うことが無いでもないので……。その明くる日の朝、ようよう夜が明けた頃に、ひとりの男が仮橋の上に突っ立って、暫く水の上を眺めていたのです。その時はさのみ気にも留めませんでしたが、御承知の通り、その日は朝の四ツ頃から雨があがっていい天気になりました。そうすると、午過ぎになって又その男が橋の上に来て、今朝とおなじように水を眺めているのです、それが二日も三日も続いたので、いよいよ変だと思っていると……。ねえ、お前さん。きのう女の死体が揚がってみると、死体は丁度その男の立っていた橋の下あたりに沈んでいたわけで……。してみると、その男は何かの係り合いがあって、女がそこらに沈んでいることを知っていて、幾度も川を覗きに来たのじゃあないかと思われるのですが……」
「ふうむ。そんなことがあったのか。そこで、その男はどんな奴だ」
「もう四十近い、色の浅黒い、がっしりした男で、まんざら野暮な人でも無いようなふうをしていました。勿論、別に証拠があるわけじゃあありませんが、ひょっとすると死骸の女の亭主で……」
「爺さん、偉れえ」
「おれも其の話を聴いて、すぐにそう思った。世間によくある奴で、女は夫婦喧嘩でもして飛び込んだのかも知れねえ。それにしても、やっぱり判らねえのは金の蝋燭……。どうしてそんな物を抱えていたかな」
「それが判りゃあ仔細はねえ」
「いや、判らねえところが面白いのかも知れねえ。その男はきょうも来たかえ」
「きょうはまだ見えないようです」
「死骸が揚がってしまったので、もう来ないのかも知れませんよ」
「むむ」
「その男は西からか東からか、早く云えば日本橋の方から来たのか、本所の方から来たのか、それも判らねえかね」
「いつでも柳橋の方から来るようですから、あの辺の人か、それとも神田か浅草でしょうね」
「いや、ありがとう。御用とはいいながら、飛んだ邪魔をした。おい、爺さん。こりゃあ少しだが、煙草でも買いねえ。放し鰻の代りだ」
「親分、女の亭主という奴はもう来ねえでしょうか」
「来ねえだろうな。困ったことには、人足どもが見付け出したのだから、方々へ行ってしゃべるだろう。そんな噂が立つと、奴らもきっと用心して証拠物を隠してしまうに相違ねえ。気の早い奴はどこへか飛んでしまうかも知れねえ。ぐずぐずしていると折角の魚に網を破られてしまう。何とか早く埒を明けてえものだな」
「橋番のおやじがもう少し気が利いていりゃあ何とかなるのだが……」
「あんな耄碌おやじを頼りにしていて、上の御用が勤まるものか」
「まあ、柳橋の方へ行ってみよう」


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