岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お早うございます。早速ですが、親分、両国…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「親分、おはようございます。早速なんですけど、両国の一件って聞きました?」
「両国の一件……。4、5日前だったか。誰かが落ちたんだってな。あの長い仮橋のまん中に、提灯ひとつぶら下げてるだけじゃ危ねぇもんな」
「で、その死体が上がったんですか?」
「まぁ、上がったようなもんだ……。実は昨日の昼過ぎに、仕事の都合で上流の方の水をちょっとせき止めたんで、西寄りの仮橋の辺が浅くなって干上がった。そしたら、女の死体が沈んでるって人夫どもが大騒ぎ……。まぁ、聞いてくださいよ。これがおかしいんですよ」
「その女は風呂敷包みを大事そうに抱えてる……。その包みを開けてみると、大きな蝋燭が5、6本……いや、確か5本だったそうです。ところが、その蝋燭が異様に重いので、これは変だってんで、人夫の一人がその一本を近くの杭に叩きつけてみたんです。そしたら、そりゃ重いはずですわ。芯が純金の棒で、その上に蝋を薄く流して、蝋燭に見せかけてる。これにはみんなも驚いて、すぐに役人に訴えた。それからだんだん調べてみると、どの蝋燭も芯が純金の作り物……。どうですか、おかしいでしょう」
「んー、確かに。で、その死体はどういう女なんです?」
「俺は見てないんだけど、なんでも32、3の小粋な女房で、風呂敷包みの他に何も持ってなかったそうです。体に傷はなく、水を飲んでる。自殺に違いないって言うけど、あの蝋燭がわからない。芯が純金でできた蝋燭なんて、この世にはないはずでしょう。一体あの女がなんでそんなものを持ってたのか、調べないとダメだと思うんですけど、どうですか?」
「お前の言う通り、これは放っておけないな」
「おい、幸。気を引き締めてかかれよ。これは大物かもしれないぞ」
「どうもただ事じゃなさそうですね」
「とりあえず良い情報を持ってきたな。さあ、気合いを入れ直して取りかかるか」

原文 (会話文抽出)

「お早うございます。早速ですが、親分、両国の一件を聴きましたかえ」
「両国の一件……。四、五日前の晩に誰か落ちたというじゃあねえか。あの長げえ仮橋のまん中に、提灯一つぶら下げて置くだけじゃあ不用心だ」
「そこで、その死骸でも揚がったのか」
「まあ、揚がったようなわけで……。実はきのうの午すぎに、何かの仕事の都合で上の方の流れを少し堰いたので、西寄りの仮橋の裾の方が浅くなって干上がった。そうすると、女の死骸が沈んでいるというので人足どもは大騒ぎ……。まあ、お聴きなせえ。それがおかしい」
「その女は風呂敷包みを大事そうにしっかり抱えている……。その包みをあけて見ると、大きい蝋燭が五、六本……いや、確かに五本あったそうです。ところが、その蝋燭が馬鹿に重いので、こいつは変だなと云って、人足のひとりがその一本をそこらの杭に叩き付けてみると、なるほど重い筈だ。芯は金無垢の伸べ棒で、その上に蝋を薄く流しかけて、蝋燭のように見せかけてある。これにはみんなも驚いて、早速に係りの役人衆に訴え出る。それからだんだんに調べてみると、どの蝋燭も芯は金無垢の拵え物……。どうです、まったくおかしいじゃありませんか」
「むむ、おかしいな。そこで、その死骸はどんな女だ」
「わっしは見ませんが、なんでも三十二三の小粋な女房で、その風呂敷包みのほかにはなんにも持っていなかったそうです。からだに疵は無し、水を嚥んでいる。たしかに身投げに相違ねえというのですが、さてその蝋燭がわからねえ。芯が金無垢でこしらえた蝋燭なんていう物が、この世の中にある筈がねえ。一体その女がどうしてそんな物を抱えていたのか、ひと詮議しなけりゃあなるめえと思うのですが、どうでしょう」
「おめえの云う通り、こりゃあ打っちゃって置かれねえな」
「おい、幸。しっかりしなけりゃあいけねえ。魚は案外に大きいかも知れねえぞ」
「どうも唯事じゃあ無さそうですね」
「なにしろ、いいことを嗅ぎ出して来てくれた。さあ、帯を絞め直して取りかかるかな」


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