GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「あの市子は狐を使うんだって?」
「よくは知らないけど、そんな噂があるよ」
「ここらにもしょっちゅう来るのかい?」
「この頃はずっと毎日来て、あの祠にお参りしてるから、ここらの人は気味悪がってっからよ」
「あの空き地の祠ってなんだよ?」
「俺も子どもの頃の話だから詳しいことは知らないんだけど、あの空き地には臼井様っていう小さな旗本のお屋敷があったんだって」
「なにかの理由でお殿様が切腹して、お屋敷は取り壊されて、それ以来ずっとあの通りの空き地になってるんだ。その時は祟りがあるとか言って誰も空き地に入らなかったんだけど、この頃は子どもたちが平気でトンボとかバッタとかを取りに行ってるよ。祠はその臼井様のお屋敷内にあったもので、お屋敷が取り壊される時にもそのまま残ったんだって。だから、一体なにを祀ってあるのか誰も知らない。ご覧の通りに荒れ果ててしまってるから、自然に崩れ落ちるんだろう。神様でもがれきの中で放置するのも悪いから、なんとか手入れをしようかと言う人もいるけど、眠っている神を起こしちゃいけないから、うかつに何かして祟られたら大変だと、まぁそのままになってるんだ。そこへこの頃、あの市子が毎日お参りに来るんだけど、狐を使うとかいう噂がある人だけに、なんだか気味悪いって近所の人も言ってるよ。子どもたちも市子の姿を見ると、狐使いが来たって言って逃げるんだ」
「市子の名前ってなんだっけ?」
「おころさんって言うらしいよ」
「おころ……。珍しい名前だな」
「おとといは大騒ぎだったんだってね」
「うん、大変だったみたいだよ」
「見知らぬ人を殺せって言って、大勢が追いかけてきたから、どうなることかと思った。それでもみんななんとか逃げたみたいだけど」
「5頭の馬はあの空き地に繋いであったのかい?」
「そうだよ。そのうちの2頭がいなくなったんだけど、どうしちゃったんだろうね?」
原文 (会話文抽出)
「狐使い」
「あの市子は狐を使うのかえ」
「よくは知りませんが、そんな噂があります」
「ここらへも始終来るのかえ」
「この頃は毎日のようにここへ来て、あの祠を拝んでいるので、ここらの者は気味悪がっています」
「あの空地の祠はなんだね」
「わたくしも子供の時のことですから、詳しい話は知りませんが、あの空地のところは臼井様とかいう小さいお旗本のお屋敷があったそうです」
「なにかの訳で殿様は切腹、お屋敷はお取り潰しになりまして、その以来二十年余もあの通りの空地になっています。その当座は祟りがあるとか云って、誰も空地へはいる者もなかったのですが、この頃は子供たちが平気で蜻蛉やばったなぞを捕りに行くようになりました。祠はその臼井様のお屋敷内にあったもので、お屋敷がお取り払いになる時にもそのままに残ったのですから、一体なにを祭ってあるのか誰も知っている者もありません。御覧の通りに荒れ果ててしまって、自然に立ち腐れになるのでしょう。仮りにも神様と名のつくものを打っちゃって置くのも良くないから、なんとか手入れをしようかと云う人もあるのですが、障らぬ神に祟り無しで、うっかりした事をして何かの祟りでもあるといけないというので、まあ其の儘にしてあります。そこへ此の頃あの市子さんが毎日御参詣に来るのですが、狐を使うなぞという噂のある人だけに、なんだか気味が悪いと近所の者も云っています。子供たちまでその姿をみると、狐使いが来たと云って逃げるのです」
「市子の名は何というのだね」
「おころさんと云うそうです」
「おころ……。めずらしい名だな」
「おとといは大騒ぎだったと云うじゃあねえか」
「ええ、たいへんな騒ぎでした」
「異人を殺してしまえと云って、大勢が追っかけて来るので、どうなる事かと思いました。それでもまあみんな無事に逃げたそうです」
「五人の馬はそこの空地につないであったのかえ」
「そうです。そのうちの二匹がなくなったというのですが、どうしたのでしょうかね」