岡本綺堂 『半七捕物帳』 「実はね、親分」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「やべえ、親分」
「今、この番頭さんから相談されたんだけど、聞いてくれませんか?」
「迷惑だろうけど、頼むわ。若旦那の民次郎が22になって、道楽もしてるみたいなんだ。そんで、先月から戸沢長屋のお葉ってのが店に来て、若旦那を呼び出して何か話して帰るのよ。なんか金を無心してるみたいで、おかしいなって思ってたら、こないだは知らない男連れてきて、また若旦那を外に呼んで、脅してたみたい。2人が帰ったあと、若旦那は真っ青だったんだ。不気味だから、内緒で若旦那に聞いてみたけど、何も教えてくれなくて、ため息ばっかついてる。親分も知ってると思うけど、お葉は松五郎って女衒の女房で、堅気の私たちとは関係ないはずなんだ。それがよく来るし、お金の話をするなんて、おかしいよな。若旦那より年上だけど、お葉もきれいだから、もしかして付き合ってるのかなって思って、いろいろ聞いてみたけど、そういうことはないって言う。そうするとますますわかんねえ。実は若旦那に、最近、京橋の同業者から縁談が来てて、まとまりそうなんだ。そんな時に、お葉みたいなのが近づいてきて、縁談を邪魔されたら困るな。親方も若旦那を問い詰めたけど、黙ってるだけで話さない。心配になって親方と相談して、お葉の家に直接聞きに行こうってなったんだけど、そこで庄太さんに会って……。庄太さんは、お葉はやり手だから、安易に接触するとつけ込まれるかもしれない。親分に相談した方がいいって言われたから、忙しいところ悪いんだけど、相談に乗ってください」
「それで、どうする?親分」
「番頭さんが行くより、俺が身代わりで行って、お葉と直接話した方が無難だと思うんだが……」
「そんで、まさか若旦那とお葉が付き合ってるわけじゃないよな。向こうは旦那持ちだから、そこをハッキリさせておかないと面倒なことになる」
「うーん、俺にはよくわかんねえが……」
「さっきも言った通り、本人は付き合ってないって言ってるよ」

原文 (会話文抽出)

「実はね、親分」
「今この番頭さんから頼まれた事があるのですが、お前さん、まあ聴いてやってくれませんか」
「御迷惑でございましょうが、まあお聴きを願いたいのでございます。手前の主人のせがれ民次郎は当年二十二になりまして、若い者の事でございますから、少しは道楽もいたします。ところが、先月以来戸沢長屋のお葉という女が時々に店へ参りまして、若主人を呼び出して何か話して帰ります。それがどうも金の無心らしいので、手前もおかしく思って居りますと、おとといは見識らない男を連れて参りまして、相変らず若主人を表へ呼び出して、なにか強面に嚇かしていたようで、二人が帰ったあとで若主人は蒼い顔をして居りました。あまり不安心でございますから、手前は人のいない所へ若主人をそっと呼びまして、これは一体どういう事かといろいろに訊きましたが、若主人はその訳を打ち明けてくれませんで、唯ため息をついているばかりでございます。御承知でもございましょうが、お葉は松五郎という女衒の女房で、手前どものような堅気な町人に係り合いのあろう筈はございません。それが毎度たずねて来て、なにか無心がましいことを云うらしいのは、どうも手前どもの腑に落ちません。年上ではありますが、お葉もちょいと垢抜けのした女ですから、もしや若主人とどうかしているのではないかと思いまして、それもいろいろ詮議したのでございますが、決してそんな覚えはないと若主人は申します。そうなるといよいよ理窟がわかりません。実を申しますと、若主人にはこの頃、京橋辺の同商売の店から縁談がございまして、目出たく纏まりかかっております。その矢先きへお葉のような女がたびたび押しかけて参りまして、その縁談の邪魔にでもなりましては甚だ迷惑いたします。主人夫婦も若主人を詮議いたしましたが、やはり黙っているばかりで仔細を明かしません。あまり心配でございますので、主人とも相談いたしまして、いっそお葉の家へ行って聞きただした方がよかろう。仔細によっては金をやって、はっきりと埒を明けた方がよかろう。こういうつもりで唯今出てまいりますと、丁度そこで庄太さんに逢いまして……。庄太さんの仰しゃるには、お葉もなかなか食えない女だから、お前さんたちが迂闊に掛け合いに行くと、足もとを見て何を云い出すか判らない。これは親分に一応相談して、いいお知恵を拝借した方がよかろうと申されましたので、お忙がしいところをお引き留め申しまして、まことに恐れ入りました」
「そこで、どうでしょう、親分」
「なまじい番頭さんなぞが顔を出すよりも、わっしが名代に出かけて行って、ざっくばらんにお葉に当たってみた方が無事かと思いますが……」
「そこで、よもやとは思うが、若旦那とお葉とはまったく色恋のいきさつは無いのですね。相手は亭主持ちだから、そこをよく決めて置かないと、事が面倒ですからね」
「さあ、わたくしには確かなことは判りませんが……」
「唯今も申す通り、本人は決してそんな覚えはないと申しております」


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