岡本綺堂 『半七捕物帳』 「親分。大抵のことは判りました」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「親分。大体分かった」
「お、ご苦労さん。ちょっと休憩して話してくれ」
「まず次郎兵衛の方から説明します」
「次郎兵衛の家には母親と兄貴がいて、普通の農家です。本人は江戸に出て屋敷奉公したいってことで、2月晦日に家を出て、午後3時の船に乗ったそうです。兄貴が河岸の船場まで送ったらしいから、間違いはないでしょう」
「2月晦日に船に乗ったら、翌日の昼頃に着くはずだ。でも、次郎兵衛は3日に姉のところを訪ねたそうだから、2日間のズレがある。その2日間でどこで何してたのか。それからお磯はどうだ」
「お磯の家はまあまあの農家だったけど、親父の駒八の代になってからだんだん落ちぶれて、長男のお熊に婿を取ったけど、乳飲み児を残してその婿が亡くなって。不運が続いて、とうとう妹のお磯を吉原に売ることになったそうです」
「お磯は売られたのか」
「そのお磯と次郎兵衛は何かあったのか」
「そうだと噂する人もいれば、ただの友達だという人もいて、はっきりとはしてないけど、とにかく親密だったらしく、次郎兵衛が江戸に出るときは、お磯も河岸まで送って来て、なんか怪しかったそうだから、多分何かあったんでしょうね」
「川越あたりで今回のことを知ってるか?」
「城下では知ってる人もいましたが、田舎の人は知りませんでした。どっちにしても、城でこんなことがあったらしい程度の噂で、川越の次郎兵衛とは誰も結びつけてないようです。本人の親や兄貴もまだ知らないみたいで、みんな普通に暮らしてました。近いようでも田舎ってそういうとこですね」
「お磯の勤め先は吉原のどこだ」
「それがよく分かってなくて……」
「江戸の女衒が人材を見に来て、2月晦日に一旦帰って、3月27日にまた来て金を渡して連れて行ったそうですが、駒八の家では勤め先を秘密にしてるので、正確には分かりません。脅せば言わせることもできますが、邪魔になるといけないと思って、今回は様子伺いに帰ってきました。すぐそこだから、必要があればまた行けますよ」
「その女衒って誰だ」
「戸沢長屋のお葉です」
「女か」
「夫は化け地蔵の松五郎と言って、女衒仲間で有名でしたが、2、3年前から病気で動けなくなりました。妻のお葉は品川の元遊女で、しっかりした女性です。表面上は夫の名で仕事してますが、どうも彼女の方が交渉が上手らしく、いい人材を見つけてくるらしいです。35歳で、垢抜けた女性ですよ」
「番太郎に次郎兵衛を尋ねてきたのは、そのお葉だな」
「そう違いありません。明日すぐに会いに行きましょう」
「よし。今度はおれも同行する」

原文 (会話文抽出)

「親分。大抵のことは判りました」
「やあ、御苦労。まあ、ひと息ついて話してくれ」
「まず本人の次郎兵衛の方から片付けましょう」
「次郎兵衛の家にはおふくろと兄貴がありまして、まあ、ひと通りの百姓家です。本人は江戸へ出て屋敷奉公をしたいと云うので、二月の晦日に家を出て、午の八ツ半(午後三時)の船に乗ったそうです。兄貴が河岸の船場まで送ったと云うから、間違いは無いでしょう」
「二月の晦日に船に乗ったら、明くる日の午頃には着く筈だ。ところが、次郎兵衛は三日に姉のところへ尋ねて来たと云う。そのあいだに二日の狂いがある。その二日のあいだに、どこで何をしていたかな。それからお磯の方はどうだ」
「お磯の家は相当の百姓だったそうですが、親父の駒八の代になってから、だんだんに左前になって総領娘のお熊に婿を取ると、乳呑児ひとりを残して、その婿が死ぬ。重ねがさねの不仕合わせで、とうとう妹娘のお磯を吉原へ売ることになったそうです」
「お磯は売られて来たのか」
「そこで、そのお磯は次郎兵衛と訳があったのか」
「そうじゃあねえと云う者もあり、そうらしいと云う者もあり、そこははっきりしねえのですが、なにしろ仲好く附き合っていて、次郎兵衛が江戸へ出るときは、お磯も河岸まで送って来て、何かじめじめしていたと云いますから、恐らく訳があったのでしょうね」
「川越辺では今度の一件を知っているのか」
「城下では知っている者もありましたが、在方の者は知りません。どっちにしても、お城にこんな事があったそうだ位の噂で、川越の次郎兵衛ということは誰も知らないようです。本人の親や兄貴もまだ知らないと見えて、みんな平気でいました。近いようでも田舎ですね」
「お磯の勤め先は吉原のどこだ」
「それがよく判らねえので……」
「江戸の女衒が玉を見に来て、二月の晦日にいったん帰って、三月の二十七日にまた出直して来て、金を渡して本人を連れて行ったそうですが、その勤めさきを駒八の家では秘し隠しにしているので、どうも確かに判りません。御用の声でおどかせば云わせる術もありますが、なにかの邪魔になるといけねえと思って、今度は猫をかぶって帰って来ました。なに、近いところだから造作はねえ、用があったら又出掛けますよ」
「その女衒はなんという奴だ」
「戸沢長屋のお葉です」
「女か」
「亭主は化け地蔵の松五郎といって、女衒仲間でも幅を利かしていた奴ですが、二、三年前から中気で身動きが出来なくなりました。女房のお葉は品川の勤めあがりで、なかなかしっかりした奴、こいつが表向きは亭主の名前で、自分が商売をしているのですが、女の方が却って話がうまく運ぶと見えて、いい玉を掘り出して来るという噂です。年は三十五で、垢抜けのした女ですよ」
「番太郎へ次郎兵衛をたずねて来たのは、そのお葉だな」
「それに相違ありません。あしたすぐに行ってみましょう」
「むむ。今度はおれも一緒に行こう」


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