岡本綺堂 『半七捕物帳』 「三月二十八日のお午過ぎでございました。浅…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「3月28日の午後ね。浅草から来たって、粋な格好のオバさんが来てさ、『次郎兵衛に会わせてくれ』って言うんだ。家出したなんて言えないから、テキトーに断わったら、向こうは私隠してると思ってるのか強情に『こうだ、ああだ』って言ってくって。私もムカついちゃって、ついついデカい声出しちゃったんだよ」
「それで女の人は素直に帰ったんだな」
「うん、帰ったけど、帰る時に何か怖いこと言ってたよ」
「何て言ってたの」
「『あの人に伝えて。私はあなたをただじゃおかないから。怖いなら浅草に会いに来なさい……』って」
「あの女、江戸の人だね」
「着物も喋り方も下町の人みたいで、何か商売でもしてるみたいだった。初めて江戸に出た弟が、どうしてあんな人と知り合いなのか、ホント不思議でさ」
「お前の弟って田舎者ってもカッコイイんだってさ。だから江戸の女にすぐ目付けられちゃったのかもよ」
「女の人は浅草ってだけしか言わなかったんだ」
「言わなかったの?次郎兵衛は知ってるんだろうよ」
「あと、別に若い女も来たんだって。そっちはどうなったの」
「それはあのさ……」
「それはお前も知ってる女だろ。村の人か」
「なんで黙ってんの。その女は弟を追いかけて来たのか」
「いや、そういうわけじゃ……」
「でも、お前も知ってる女だろ。名前はなんだ」
「お磯って言うんだけど、村の人でも家が違うし、私達も昔に村を出たからよく知らなくてさ。親の名前を言われて初めて分かったくらいなの。これも江戸に出て浅草の方にいるらしいんだけど、詳しいことは言わなかった」
「これも浅草か」
「これも弟に会わせてくれって言うから、なかなか帰らなくて、私が怒って追い返したよ」
「お前の弟ってモテモテだな」
「オバさんに惚れられて、娘に追いかけられて、豊作すぎだろ。だから天狗にさらわれるんだよ。それで、女2人は来なくなったんだな」
「来てないよ」
「それっきり姿を見せないんだ」
「お磯の親は誰だ」
「駒八って言うんだ」
「じゃあ、今日はこの辺にしとこう」
「お前、このことで旦那と夫婦喧嘩でもしてない?」
「弟をかばって、旦那と喧嘩したりしてない?普段からだけど、こういう時は夫婦喧嘩はダメだよ。仲良くしなきゃダメよ」
「はい」

原文 (会話文抽出)

「三月二十八日のお午過ぎでございました。浅草の者だと云って、粋な風体の年増の人が見えまして、次郎兵衛に逢いたいと云うのでございます。まさかに家出をしましたとも云えませんので、まあいい加減に断わりますと、むこうではわたくしが隠しているとでも疑っているらしく、強情に何のかのと云って立ち去りませんので、わたくしもしまいは腹が立って来まして、つい大きい声を出すようにもなりました」
「女はとうとう素直に帰ったのだな」
「はい。帰るには帰りましたが、帰りぎわに何だか怖いことを云って行きました」
「どんなことを云った」
「あの人にそう云ってくれ。あたしは決しておまえを唯では置かない。それが怖ければ浅草へたずねて来いと……」
「その女は江戸者だな」
「着物から口の利き方まで確かに下町の人で、なにか水商売でもしている人じゃあないかと思います。初めて江戸へ出て来た弟がどうしてあんな人を識っているのかと、まったく不思議でなりません」
「おめえの弟は田舎者でもきりりとしていると云うから、素早く江戸の女に魅こまれたのかも知れねえ」
「女は浅草とばかりで、居どころを云わねえのだな」
「云いませんでした。次郎兵衛は知っているのでございましょう」
「それから、また別に若けえ女が来たと云うじゃあねえか。それはどうした」
「それは、あの……」
「それはおめえも識っている女だな。おなじ村の者か」
「なぜ黙っているのだ。その女は弟のあとを追っかけて来たのか」
「いえ、そういうわけでは……」
「それにしても、おめえも識っている女だろう。名はなんというのだ」
「お磯と申しまして、おなじ村の者ではございますが、家が離れて居りますのと、わたくしどもは久しい以前に村を出ましたのでよくは存じません。親の名を云われて、初めて気がついたくらいでございます。これも江戸へ奉公に出て来て、浅草の方にいるとばかりで、くわしいことを申しませんでした」
「これも浅草か」
「これもやはり弟に逢わせてくれと申しまして、なかなか素直に帰りませんのを、わたくしが叱って追い帰しました」
「おめえの弟はよっぽど色男らしいな」
「年増に魅こまれ、娘に追っかけられ、あんまり豊年過ぎるじゃあねえか。それだから天狗に攫われるのだ。そうして、女二人はそれっきり来ねえのか」
「まいりません」
「それぎりで再び姿を見せません」
「お磯の親はなんというのだ」
「駒八と申します」
「じゃあ、まあ、きょうはこの位にしよう」
「おめえは今度のことに就いて、亭主と夫婦喧嘩でもしやあしねえか」
「弟の肩を持って、亭主と喧嘩でもしやあしねえか。ふだんもそうだが、こういう時に夫婦喧嘩は猶さら禁物だ。仲好くしねえじゃあいけねえぜ」
「はい」


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