GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「さっき大和屋の旦那からいろいろなお話を伺っているうちに、若旦那とおふゆさんのことが耳に止まりました。それから芝居のときに若旦那と同じ部屋にいたという和吉が気になりました。若旦那とおふゆさんと和吉と、この3人を結びつけると、どうしても何か男女のトラブルがあるらしく思われたので、まずはおふゆさんに会ってそれとなく聞いてみると、和吉が親切にたびたび見舞いに来てくれるというんです。ますます怪しいと思いましたから、店に行ってわざと聞こえるように怒鳴りました。大和屋の旦那はさぞ乱暴な奴だと思ったでしょうが、正直のところ、私は店のことを思って言ったんです……。私があいつを縛って行くのは簡単ですが、あいつが入牢して調べられる。罪状が決まって江戸じゅうをを引き回される。調べられてる間もいろいろ問い合わせられたりしてこちらが迷惑をこうむるでしょうし、まずこのお店から引き回しの罪人が出たと噂になれば、お店の看板に傷が付き、自然とこれからの商売にも支障をきたすだろうと考えたので、どうにかしてあいつを捕まえたくない。あいつだって引き回したり磔刑にされるより、いっそのこと1思いに死んだ方がマシだろうと思いましたので、わざとああ言って脅かしたんです。もう1つには、私自身も確かにあいつが犯人だという立派な証拠を握ってはいないので、手探り状態で無茶苦un lshkia あんなことを言ったんです……。もし、本当に本人に覚えがないことなら、他の人たちと同じようにただ聞き流すでしょうし、もし覚えがあることなら、とてもじっとしてはいられないだろう、こう思ったのがうまく図にあって、あいつもとうとう覚悟を決めたんです。詳しいことはおふゆさんから聞いてください」
「はんしちさん。いや、恐れ入りました」
「罪人を捕まえるのがあなたの役目なのに、自分の手柄を捨てて家の看板に傷をつけまいとしてくださる。そのお礼をどう申し上げたらいいのか。それに甘えてもう1つお願いですが、どうか表向きは言わずに、和吉はあくまでも気が狂ったということにして……」
「かしこまりました。ご両親やご親戚の立場になったら、逆に磔刑にしても足りないと思われるでしょうが、どんなむごい仕置きをしたって、亡くなった若旦那が蘇るわけではありませんから、これも何かの縁だと思って、和吉のことはまあいいようにしてやってくださいませ」
「重ね重ねありがとうございます」
「ですが、旦那、このことはもちろん内密にいたしますが、江戸中にたった1人、正直に言って聞かせなければいけない者がいるので、それだけは最初からお断りしておきます」
「江戸じゅうに1人」
「この場ではちょっと言いづらいことですが、シタヤにいるモンジキヨって常磐津の師匠です」
「あの女も今回のことについては、いろいろ勘違いをしているようですから、納得のいくように私からよく説明しなければなりません」
「それから余計なお世話ですが、若旦那がご存命の間はいろいろご都合もあったでしょうが、もうこうなった以上は、あの女にも出入りを許してやって、少し面倒を見てあげてください。あの年になっても夫を持たず、年々老いていきます。頼りない女は可哀そうですからね」
「まったく私の気が回りませんでした。明日にも早速尋ねて行って、これからは姉妹のように付き合います」
「すっかり暗くなりました」
「おふゆさんはその後もイズミヤに奉公していましたが、その後大和屋の仲介で、イズミヤの娘分ということにしてアサクサの方へ縁付けされました。モンジキヨもイズミヤに出入りをするようになって、2、3年後には師匠をやめて、やはり大和屋の世話でシバの方へ縁付けられました。大和屋の主人は親切で世話好きな人でした。 イズミヤは妹娘のお照に婿を取りましたが、この婿がなかなか働き者で、江戸が東京になると同時に、すぐに商売替えをして、時計屋になりまして、今でも高級住宅地で立派に営業してるんです。昔の縁で、私も時々遊びに行きますよ。 八笑人でもお馴染みの通り、江戸時代には素人の狂言やお芝居が流行って、その中には忠臣蔵の五段目六段目がよく上演されました。衣装や小道具が簡単だったからでしょう。私もやむを得ない義理で、何度か見させられたこともありましたが、このイズミヤの事件があってから、不思議と六段目が上演されなくなりました。やっぱり何だか気持ちよくないと見えるんですね」
原文 (会話文抽出)
「首を縊るか、川へはいるか、いずれそんなことだろうと思っていました」
「さっき大和屋の旦那からいろいろのお話を伺っているうちに、若旦那とお冬どんのことが耳に止まりました。それから芝居のときに若旦那と同じ部屋にいたという和吉のことが気になりました。若旦那とお冬どんと和吉と、この三人を結びつけると、どうしても何か色恋のもつれがあるらしく思われましたから、まずお冬どんに逢ってそれとなく訊いて見ますと、和吉が親切にたびたび見舞に来てくれるという。いよいよおかしいと思いましたから、店へ行ってわざと聞けがしに呶鳴りました。大和屋の旦那はさぞ乱暴なやつだとも思召したでしょうが、正直のところ、わたくしは店のためを思いましたので……。私が彼奴を縛って行くのは雑作もありませんが、あいつが入牢して吟味をうける。兇状が決まって江戸じゅうを引き廻しになる。吟味中もいろいろの引き合いでこちらが御迷惑をなさるでしょうし、第一ここのお店から引き廻しの科人が出たと云われちゃあ、お店の暖簾に疵が付きましょうし、自然これからの御商売にも障るだろうからと存じましたから、どうかして彼奴を縄付きにしたくない。あいつとても引き廻しや磔刑になるよりも、いっそ一と思いに自滅した方がましだろうと思いましたので、わざとああ云って嚇かしてやったんです。もう一つには、わたくしも確かに彼奴と見極めるほどの立派な証拠を握ってはいないんですから、まあ手探りながら無暗にあんなことを云って見たんで……。もし、まったく本人に何の覚えもないことならば、ほかの人達と同じように唯聞き流してしまうでしょうし、もし覚えのあることならば、とてもじっとしてはいられまいと、こう思ったのが巧く図にあたって、あいつもとうとう覚悟を決めたんです。詳しいことはお冬どんからお聴きください」
「半七さん。いや、恐れ入りました」
「科人を縛るのがお前さんのお役でありながら、自分の手柄を捨ててこの家の暖簾に疵を付けまいとして下すった。そのお礼はなんと申していいか、それに甘えてもう一つのお願いは、どうかこれを表向きにしないで、和吉は飽くまでも乱心ということにして……」
「よろしゅうございます。親御さんや御親類の身になったら、逆磔刑にしても飽き足らねえと思召すでもございましょうが、どんなむごい仕置きをしたからと云って、死んだ若旦那が返るという訳でもございませんから、これも何かの因縁と思召して、和吉の後始末はまあ好いようにしてやって下さいまし」
「重ね重ねありがとうございます」
「だが、旦那、このことは無論内分にいたしますが、江戸中にたった一人、正直に云って聞かせなけりゃあならない者がございますから、それだけは最初からお断わり申して置きます」
「江戸じゅうに一人」
「この席じゃあちっと申しにくいことですが、下谷にいる文字清という常磐津の師匠です」
「あの女も今度のことについては、いろいろ勘違いをしているようですから、得心の行くように私からよく云って聞かせなけりゃあなりません」
「それから余計なお世話ですが、若旦那のお達者でいるあいだは又いろいろ御都合もございましたろうが、もう斯うなりました上は、あの女にもお出入りを許してやって、ちっとは御面倒を見てやって下さいまし。あの年になっても亭主を持たず、だんだん年は老る、頼りのない女は可哀そうですからねえ」
「まったくわたしが行き届きませんでした。あしたにも早速たずねて行って、これからは姉妹同様に附き合います」
「すっかり暗くなりました」
「お冬はその後も和泉屋に奉公していまして、それから大和屋の媒妁で、和泉屋の娘分ということにして浅草の方へ縁付かせました。文字清も和泉屋へ出入りをするようになって、二、三年の後に師匠をやめて、やはり大和屋の世話で芝の方へ縁付きました。大和屋の主人は親切な世話好きの人でした。 和泉屋は妹娘のお照に婿を取りましたが、この婿がなかなか働き者で、江戸が東京になると同時に、すばやく商売替えをして、時計屋になりまして、今でも山の手で立派に営業しています。むかしの縁で、わたくしも時々遊びに行きますよ。 八笑人でもお馴染みの通り、江戸時代には素人のお座敷狂言や茶番がはやりまして、それには忠臣蔵の五段目六段目がよく出たものでした。衣裳や道具がむずかしくない故もありましたろう。わたくしもよんどころない義理合いで、幾度も見せられたこともありましたが、この和泉屋の一件があってから、不思議に六段目が出なくなりました。やっぱり何だか心持がよくないと見えるんですね」