岡本綺堂 『半七捕物帳』 「急に涼しくなりました」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「ヤバイ、マジ寒くなってきた」
「さっきから言ってるけど、善さん、コロリってヤツは?」
「まだ流行ってっけど」
「涼しくなってもすぐ止まんないよな。7、8月はヤられまくったじゃん」
「悪いヤツが逝くのはいいけど、いい人も逝くから困る」
「俺らの商売的には、悪いヤツが逝くのも困る。やっと追いかけたヤツが、コロリって逝っちまうと、意味ねえじゃん。この前の湯島のヤツとかさ……。追いつめて小石川まで行ったのに、大工のヤツがコロリ。マジ萎えたよ」
「オヤジ、今の小石川の話だけど。またちっさい噂聞いちゃった」
「どんな噂だ」
「あの殺人大工、水道町の煙草屋の裏に住んでたじゃん?」
「そこの家主って、関口屋って古い店で、金持ちで近所でも評判いいんだ。そこの女中のお由って若い子が、2、3日前に死んだんだって」
「コロリ?」
「いや、コロリじゃねえ。なんか急にばたんキューしたみたい。関口屋もすぐ医者呼んだんだけど間に合わなかったんだって。その死に方が怪しいらしくてさ、関口屋は従業員とか女中に口止めして、何も喋らせねえんだ。だから余計に噂が広まってる。世間で噂するだけならまだしも、お由の親が納得しねえで、娘の遺体を引き取ろうとしねえ。コロリが流行ってるから、遺体もいつまでも転がしてられねえじゃん。だから名主とか五人組が仲裁して、とりあえず遺体は引き取らせたけど、その後始末がまだついてねえんだって」
「なんで親が納得しねえんだ。遺体に何かの問題でもあんのか?」
「そうらしい。で、これがまたヘンな話なんだって。近所の噂じゃ、氷川の明神山の神様が祟ったらしいんだけどさ……。そんなの本当あんの?」
「氷川の神様って……」
「昔はよく聞いたけど、本当かどうかは知らねえ。そしたら、お由って子、明神山の神様に会ったのか?」
「関口屋の奥さんと娘とお由の3人で、氷川に行った帰りに会ったんだって。でも、神様じゃなくって、ハゲた女の子だったんだって」
「女の子?」
「お由は神様に祟られて急死したって話だけど。急死にもいろいろあるよな。どんな死に方したんだ?」
「いろいろ噂はあるけど、お千代って女中をだまして聞いた話だと、こんな感じらしい」

原文 (会話文抽出)

「急に涼しくなりました」
「今も云っているところだが、善さん、コロリはどうだね」
「まだ流行っていますよ」
「涼風が立ってもすぐには止みますめえ。七月から八月にかけて随分殺されましたね」
「悪い人の殺されるのは仕方がないが、善い人も殺されるから困るよ」
「わっしらの商売から云うと、悪い人の殺されるのも困る。折角お尋ね者を追いつめて、さあという時に相手がコロリと参ってしまわれちゃあ、洒落にもならねえ。現にこのあいだの湯島の一件……。ようやく突きとめて小石川まで出張って行くと、大工の奴はコロリ。実にがっかりしてしまいますよ」
「もし、親分。今の小石川ですがね。そこで又すこし変な噂を聞き込みました」
「変な噂とはなんだ」
「御承知の通り、人殺しの大工は水道町の煙草屋の裏に住んでいました」
「その家主の煙草屋は関口屋という古い店で、身上もよし、近所の評判も悪くない家です。そこの女中のお由という若い女が二、三日前に死にました」
「それもコロリか」
「いや、コロリじゃあねえ、まあ、頓死のようなわけで……。関口屋でもすぐに医者を呼んだが、もう間に合わなかったそうです。その死に方がなんだか可怪しいというのですが、関口屋じゃあ店の者や女中に口留めをして、なんにも云わせねえ。それだけに猶更いろいろの噂が立つわけです。世間でかれこれ云うばかりでなく、お由の親許でも不承知で、娘の死骸を素直に引き取らない。コロリの流行る時節に、死骸をいつまでも転がして置くわけには行かねえので、名主や五人組が仲へはいって、ともかく死骸だけは引き取らせることにしたが、その後始末が付かねえで、いまだにごたごたしているそうですよ」
「お由という女の親許では、なぜ不承知をいうのだ。死骸に何か怪しいことでもあるのか」
「どうもそうらしい。それが又、変な話で……。近所の噂じゃあ、氷川の明神山のかむろ蛇に祟られたのだそうで……。そんな事が本当にありますかね」
「氷川のかむろ蛇……」
「昔からそんな話を聞いてはいるが、噂か本当か請け合われねえ。そうすると、そのお由という女は明神山の蛇に出逢ったのか」
「関口屋の女房と娘とお由と三人連れで、氷川へ参詣に行って、その帰り路で出逢ったそうで……。蛇じゃあねえ、切禿の女の子だそうですが……」
「女の子か」
「お由は蛇に祟られて頓死したというのだな。頓死にもいろいろあるが、どんな死に方をしたのだ」
「それにもいろいろの噂があるのですが、わっしがお千代という女中をだまして聞いたところじゃあ、まあ、こんな話です」


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