岡本綺堂 『半七捕物帳』 「親分でございましたか。まあ、どうぞこちら…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「親分でしたか。まあ、こちらへお通しください……」
「どうも悪いことが続いて、気の毒ですね」
「そこで清吉。今夜は依頼があって来たんですから、きちんと答えてください」
「まず聞きたいんですけど、お前の姪のお信は先月の事件以来、1か月近くどこに隠れていたんだね」
「知りません」
「実はどこから出て来たのか、私も不思議に思ってるんですよ。1か月も連絡がなかったので、遺体は遠くの沖に流されて、もうこの世にはいないものと思って諦めてたのに、突然現れて、しかもここの川岸であんな事件を起こすなんて……。なんだか夢のようです」
「本当に悪い夢ですね。実は私も変な夢を見たんですよ」
「へえ」
「その夢を話しましょうか?」
「へえ」
「まあ、夢の話ですから、辻褄が合わないかもしれません。とにかく聞いてください。大きな屋敷があって、正妻の奥さんと妾の奥さんがいる。奥さんもいい人で、妾もいい人なんです。これでは揉め事が起こるはずがないと思うでしょう。ところが、ここで困ったことが1つあります。奥さんの産んだ嫡男の若殿様がすごい美男子なんです。どこに行っても美男子にはもてるもの。奥さんに付き従う女中がその若殿様に惚れてしまったんです。昔よく言われるように、恋に上下の差はない。女は夢中になって若殿様にすり寄り、とうとうねんごろになってしまった。もちろん正妻にはなれないのはわかっています。でもこうなった以上、せめて妾でもなって、若殿様のそばから一生離れまいと……。これは仕方のないことですが、それが難しい。もともと妾ですから、身分の詮索が必要なわけではありませんが、女は男より年上で、おまけにしっかり者なので、間違えば家の中で揉め事を起こしかねない人物です。そんな女を若殿様に押し付けるのがいいのか悪いのか。こうなると、少しややこしくなってくるでしょう?」

原文 (会話文抽出)

「親分でございましたか。まあ、どうぞこちらへ……」
「どうも悪いことが続いて、お気の毒だね」
「そこで清吉。今夜は御用で来たのだから、そのつもりで返事をしてくれ」
「早速だが、おめえに訊きてえことがある。姪のお信は先月の一件以来、小ひと月のあいだ何処に忍んでいたのだね」
「存じません」
「実は何処から出て来たのかと、わたくしも不思議に思っている位でございます。小ひと月も便りがありませんので、死骸は遠い沖へ流されてしまって、もう此の世にはいないものと諦めて居りましたのに、それが不意に出て来まして、しかもここの河岸であんな事を仕出来しまして……。なんだか夢のようでございます」
「まったく悪い夢だ。実はおれも可怪しな夢を見たよ」
「へえ」
「その夢を話して聞かそうか」
「へえ」
「なにしろ夢の話だから、辻褄は合わねえかも知れねえ。まあ、聴いてくれ。ここに大きい屋敷があって、本妻の奥さまとお部屋のお妾がある。奥さまも良い人で、お妾も良い人だ。これじゃあ御家騒動のおこりそうな筈がねえ。ところが、ここに一つ困ったことは、その奥さまの腹に生まれた嫡子の若殿さまというのが素晴らしい美男だ。どこでもいい男には女難がある。奥さまにお付きの女中がその若殿さまに惚れてしまった。昔から云う通り、恋に上下の隔てはねえ。女は夢中になって若殿さまにこすり付いて、とうとう出来合ってしまったという訳だ。どうで本妻になれる筈はねえが、こうなった以上、せめてはお部屋さまにでもなって、若殿さまのそばを一生離れまいという……。こりゃあ無理もねえことだが、さてそれがむずかしい。勿論お妾だから、身分の詮議は要らねえようなものだが、女は男よりも年上で、おまけになかなかのしっかり者で、まかり間違えば御家騒動でも起こしそうな代物だ。そんな女を若殿さまに押し付けて善いか悪いか。こうなると、ちっと事面倒になるじゃあねえか。ねえ、そうだろう」


青空文庫現代語化 Home リスト