GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「なんだ。早いな」
「実は庄太と手分けをして、私が築地の三河屋の近くで張り込みをしていましたら、昨夜のかれこれ午後10時頃でしょう。あの船宿から頬かむりをして出て行く奴がいる。少し尾行して、本願寺橋のたもとで思い切って『おい、兄貴』と声をかけると、そいつはびっくりしたように振り返る。よく見ると、見覚えのある深川の寅という奴で……」
「深川の寅……。どんな奴だ?」
「やっぱり船頭で、清澄町石置場近くの虎吉という奴です。船頭といっても、博打が本職で、一歩間違えれば伝馬町にぶち込まれるような奴で……。そいつが三河屋から出て来たので、これは調べものだと膏を絞ってみたのですが、友達の千太を訪ねてきたと言うばかりで、ほかには何も言いません。千太はいるかと聞くと、このところ姿を隠しているので、三河屋でも探していると彼は言います。何の用で千太を訪ねてきたと聞くと、例の件以来、清澄町の方にも顔を出さないので、どうしているのかと心配して来たと言うんです。いつまでも押し問答しても埒が明かないので、ひとまず放してやりましたが、後でよくよく考えてみると、千太を訪ねて来たというのは嘘で、実は千太の使いで来たんじゃないかと思います……」
「そうすると、寅という奴は千太の居場所を知ってるわけだな?」
「そうです。捕まえてしまいましょうか?」
「まあ、急ぐな」
「迂闊に寅の奴を捕まえると、肝心の千太が逃げ出して、どこかへ消えてしまうかもしれません。当分このままにしておいて、動きを見張っておけ」
「わかりました」
原文 (会話文抽出)
「お早うございます。早速ですが、ゆうべちっと変なことがありましてね」
「なんだ。馬鹿に早えな」
「実は庄太と手分けをして、わっしは築地の三河屋の近所に張り込んでいると、ゆうべのかれこれ四ツ(午後十時)頃でしたろう。あの船宿から頬かむりをして出て行く奴がある。小半町ばかり尾けて行って、本願寺橋の袂でだしぬけに『おい、兄い』と声をかけると、そいつはびっくりしたように振り返る。よく見ると、まんざら知らねえ奴でもねえ、深川の寅という野郎で……」
「深川の寅……。どんな奴だ」
「やっぱり船頭で、大島町の石置場の傍にいる寅吉という奴です。船頭といっても、博奕が半商売で、一つ間違えば伝馬町へくらい込むような奴で……。そいつが三河屋から出て来たから、こりゃあ詮議物だと思って、いろいろに膏を絞ってみたのですが、友達の千太をたずねて来たと云うばかりで、ほかにはなんにも云わねえのです。千太は居たかと訊くと、このあいだから姿を隠しているので、三河屋でも探していると云うのです。なんの用で千太をたずねて来たと云うと、例の一件以来、大島町の方へも顔も見せねえので、どうしているのかと案じて来たと云うのです。いつまで押し問答をしていても果てしがねえから、一旦はそのまま放してやりましたが、あとでよくよく考えると、千太をたずねて来たと云うのは嘘で、実は千太の使に来たのじゃあねえかとも思うのですが……」
「そうすると、寅という奴は千太の居所を知っているわけだな」
「そうです。いっそ挙げてしまいましょうか」
「まあ、急くな」
「迂濶に寅の野郎を引き挙げると、肝腎の千太が風をくらって、どこかへ飛ばねえとも限らねえ。まあ、当分はそのままにして置いて、出這入りを見張っていろ」
「ようがす」