岡本綺堂 『半七捕物帳』 「今ここにいたのは菊園のお乳母さんかえ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「今ここにいたのは菊園の乳母さんですか?」
「そうです」
「菊園の子供が誘拐されたって聞きましたけど」
「もうそんな噂が知れ渡ってるんですか?」
「ちょっと耳にしましたよ」
「その子はまだ戻ってないんですか?」
「さっき乳母さんが来たんですけど、まだわからないそうです……。こっちも隣人なんで、なんだか気になっちゃって……」
「じゃあ、奥さんも一緒だったんですね」
「はい。だから余計心配で……。まだ戻らないみたいなので、誘拐されてしまったんでしょうね。玉ちゃんは色白でかわいい子ですから、悪い人に目をつけられたのかもしれません」
「それで、手がかりは何もないんですか?」
「そのことについて、こんな話聞いたんです……」
「昨日のおやつ時頃、玉ちゃんが池の端を歩いてるのを見た人がいるんだそうです……。一人じゃなくて、カンカラ太鼓を売る人と一緒だったのが、菊園の玉ちゃんによく似てたんだって。おやつ時頃って、神社の境内であちこち玉ちゃんを探してた頃だから、やっぱり玉ちゃんだったんじゃないかなって思うんですけど……」
「乳母さんにその話しましたか?」
「しました。でも乳母さんはまだ疑ってるみたいで、首をかしげてました。うちの玉ちゃんは知らない行商人について行くなんてしないって言うんです。そう言われても、子供のことですからね」
「あの乳母さん、かわいらしい人だけど、男遊びとかするタイプですか?」
「そんなことないと思います。真面目ですから……」
「玉ちゃんがいなくなったせいで、ご飯も食べないくらい心配してるんです。あの人は本当に忠義者ですからね」

原文 (会話文抽出)

「今ここにいたのは菊園のお乳母さんかえ」
「そうです」
「菊園の子供はさらわれたと云うじゃあねえか」
「おまえさん、お隣りのことをもう御存じなのですか」
「そんな噂をちょいと聞きましたよ」
「その子供はまだ帰って来ないのかね」
「いまもお乳母さんが来ましたが、まだ知れないそうで……。わたくし共も一緒だけに、なんだか係り合いで……」
「じゃあ、おかみさんも一緒だったのかえ」
「ええ。それだけに余計お気の毒で……。いまだに帰って来ないのを見ると、大かた攫われたのでしょうね。玉ちゃんは色の白い、女の子のような綺麗な子ですから、悪い奴に魅こまれたのかも知れません」
「それで、ちっとも手がかりは無いのかね」
「それに就いて、こんな話を聞いたのですが……」
「きのうの八ツ半(午後三時)頃に、玉ちゃんが池の端を歩いているのを見た人があるそうで……。一人じゃあない、カンカラ太鼓を売る人と一緒に歩いていたのが、どうも菊園の玉ちゃんらしかったと云うのです。八ツ半頃というと、天神さまの御境内でみんなが玉ちゃんを探していた頃ですから、それがやっぱり玉ちゃんだろうと思うのですが……」
「お乳母さんにそれを話したのかえ……」
「話しました。それでもお乳母さんはまだ疑うような顔をして、首をかしげていました。家の玉ちゃんは識らない大道商人のあとへ付いて行くような筈は無いと云うのです。そう云っても、子供のことですからねえ」
「あの乳母さん、小粋な人だが、色男でもあるのかね」
「そんなことは無いでしょう。堅い人ですから……」
「玉ちゃんが見えなくなったので、御飯も食べないくらいに心配しているのです。あの人はまったく忠義者ですからねえ」


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