岡本綺堂 『半七捕物帳』 「もう一度きくが、たしかになんにも知らねえ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「もう一度聞くけど、本当に何も知らないのか?」
「知りません」
「いいか、いつまでも隠すつもりなら仕方ない。ここで調べられないから、連れてくぞ」
「親分さん。ちょっと待って下さい。私が全部話しますから、この女を許してやって下さい」
「正直に話せば上に情けがあるかもしれないぞ」
「実はその政吉は私の甥で、瓦職人をしてるんです。この娘とは結婚する約束だったんですが、色々あって、娘は今は他の人に世話になってるんです。その政吉が昨日尋ねてきて、娘や私と火鉢の前で話してたんですけど……実は、下谷の旦那さんはケチで、決まったお小遣い以外は一銭もくれないんです。だからこの寒いのに困ってるって、娘や私が愚痴ってたところへ、旦那さんが通りかかって、外の話を聞いてしまったんです。それとも政吉がいるのを気にしたのか、玄関でちょっと話しただけだったんですけど。とにかく、すごく機嫌が悪かったみたいで、『これっきりになったら大変だ』って、あとで心配してたら、政吉も心配してくれて、『俺のせいで腹を立てられたのかな? だったら、無理やり旦那さんを呼び戻して、事情を説明しよう』って、私を止めずに提灯を持って出かけていったんです」
「なるほど。それで?」
「しばらくして帰ってきて……」
「雨降ってるし、真っ暗だったから、もう旦那さんの姿は見えなかったって言ってた。それから……途中でこんなの拾ったって、小判を2枚……」

原文 (会話文抽出)

「もう一度きくが、たしかになんにも知らねえか」
「存じません」
「よし、どこまでも隠し立てをするなら仕方がねえ、ここで調べられねえから一緒に来い」
「親分さん。どうぞお待ちくださいまし。わたくしから何もかも申し上げますから、どうぞ此女はお赦しねがいます」
「正直に云えば上にもお慈悲はある」
「実はその政吉はわたくしの甥で、瓦職人をいたして居ります。この娘と行くゆくは一緒にするという約束もございましたが、いろいろの都合がありまして、娘も唯今では他人さまのお世話になって居りますような訳でございます。その政吉が昨晩たずねてまいりまして、娘やわたくしと火鉢の前で話して居りまして……。実のところ、下谷の旦那はなかなか吝っていらっしゃる方で、月々の極めた物のほかには一文も余計に下さらないもんですから、この寒空にむかってほんとうに困ってしまうと、娘やわたくしが愚痴をこぼして居りますところへ、丁度に旦那がおいでになりまして、外で其の話をお聴きになったのですか、それとも政吉がいたのを妙にお取りになったものですか、門口で少しばかり口を利いてすぐに出て行っておしまいなさいました。どの道、御機嫌が悪かったようでございましたから、もし万一これぎりになっては大変だと、わたくしがあとで心配して居りますと、政吉も共々に心配いたしまして、自分のことをおかしく思ってのお腹立ちならばまことに迷惑だから、無理にも旦那をよび戻して来て、よくその訳をお話し申すと云って、わたくしが止めるのを肯かずに、提灯を持って出てまいりました」
「むむ、よく判った。それからどうした」
「やがてのことに帰ってまいりまして……」
「雨は降るし、真っ暗だもんだから、もう旦那のお姿が見えなくなったと申しました。それから……途中でこんなものを拾ったと云って、小判を二枚……」


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