岡本綺堂 『半七捕物帳』 「畜生、案の通りだ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「畜生、案の定だ」
「なあに、このくらい痛くねえよ」
「これが宮本無三四だか何かだったら、狒々退治って言って芝居や講釈で有名になるんだろうな」
「それから寺の小役人につれて行くと、みんなもびっくりして町内総出で見物に来ましたよ。なぜ私が猿公って見当をつけたと思いますか。それは半鐘をもう一度登った時に、火の見やぐらに獣の爪痕がたくさん残ってたからですよ。どうも猫でもなさそうだし。こいつは猿公の仕業じゃないかと、ふと思い付いたんです。囲い者の家に飛び乗ったり、物干し竿の赤い着物を盗んで行ったり、どうしても猿公の仕業っぽいんですからね。それで、その猿公がどこに隠れてるのか、私は稲荷神社だろうと見当をつけたんですけど、それはちょっと外れました。でも多分最初のうちは神社の奥に隠れてて、お供え物なんかを盗み食いしてたのが、だんだん調子に乗っていろんな悪戯をし始めて、そのうち囲い者の家が空いたから、その空き家に引っ越してまた悪さしたんでしょう。気の毒なのは権太郎で、普段の悪戯が祟ってひどい目に遭いましたけど、兄貴のことは私のほかに誰も知りませんでした。結局みんな猿公の悪戯ってことで片付いちゃいました。権太郎もその化け物を退治してから、町内の人たちにも可愛がられるようになってね。とうとう一人前の職人になりましたよ」
「そもそもその猿はどこから来たんですか」
「それが面白いんです。その猿公はね、両国の猿芝居の役者なんです。それがどうしたか逃げ出して、どこの屋根を伝ったか縁の下をくぐったか、この町内へまぐれ込んで来て、とうとうこんな騒ぎをやらかしたんですが、だんだん調べてみると、こいつは女形で八百屋お七を出し物にしてたんです。ねえ、面白いでしょう、普段から火の見やぐらに登って、「打てば打たるる櫓の太鼓、か何かやってたもんだから、同じいたずらをするにしても、火の見やぐらに駆け上がって、半鐘をがちゃがちゃ鳴らしたみたいなんです。猿公に芝居がかった悪戯をされたらたまったもんじゃねえですよ。はははははは。私も長い間、いろんな捕り物をしてきましたがね、猿公にお縄をかけたのは飛んだお笑いぐさですよ」
「その猿はどうなったんですか」
「その飼い主は1貫文の罰金、猿公は世間を騒がせた罪で遠島になって、永代橋から遠島船に乗って八丈島へ送られました。奴は芝居小屋なんかで窮屈な思いをするよりも、島へ行って野放しにされた方が幸せだったかもしれません。畜生のことですもの、島の役人だって厳重に縛ったりするわけないですよ、どこへか放しちゃいますよ」

原文 (会話文抽出)

「畜生、案の通りだ」
「なに、この位、痛かあねえ」
「これが宮本無三四か何かだと、狒々退治とか云って芝居や講釈に名高くなるんですがね」
「それから自身番へ引き摺って行くと、みんなもびっくりして町内総出で見物に来ましたよ。なぜわたしが猿公と見当をつけたかと云うんですか。それは半鐘をあらために登った時に、火の見梯子に獣の爪の跡がたくさん残っていたからですよ。どうも猫でもないらしい。こいつは猿公が悪戯をするんじゃないかと、ふいと思い付いたんです。囲い者の傘の上に飛び付いたり、物干のあかい着物を攫って行ったり、どうしても猿公の仕業らしゅうござんすからね。そこで、その猿公がどこに隠れているのか、わたくしは稲荷の社だろうと見当を付けたんですが、それはちっとはずれました。けれども多分最初のうちは社の奥にかくれていて、お供物なんぞを盗み食いしていたのが、だんだん増長していろいろの悪戯を始め出して、そのうちに囲い者の家があいたもんだから、その空店の方へ巣替えをして、またまた悪さをしたんだろうと思います。可哀そうなのは権太郎で、ふだんの悪戯が祟りをなして飛んだひどい目に逢いましたが、兄貴のことは私のほかに誰も知りません。なにもかもみんな猿公の悪戯ということになってしまいました。権太郎もその化け物を退治してから、町内の人達にも可愛がられるようになりましてね。とうとう一人前の職人になりましたよ」
「一体その猿はどこから来たんです」
「それが可笑しいんです。その猿公はね、両国の猿芝居の役者なんです。それがどうしてか逃げ出して、どこの屋根を伝ったか縁の下をくぐったか、この町内へまぐれ込んで来て、とうとうこんな騒ぎを仕出来したんですが、だんだん調べてみると、こいつは女形で八百屋お七を出し物にしていたんです。ね、面白いじゃありませんか、ふだんから火の見櫓にあがって、打てば打たるる櫓の太鼓、か何かやっていたもんだから、同じいたずらをするにしても、火の見梯子へ駈けあがって、半鐘をじゃんじゃん打っ付けたと見えるんですね。猿公に芝居がかりで悪戯をされちゃあ堪まりませんや。はははははは。わたくしも長年の間、いろいろの捕物をしましたがね、猿公にお縄をかけたのは飛んだお笑いぐさですよ」
「その猿はどうしました」
「その飼主は一貫文の科料、猿公は世間をさわがしたという罪で遠島、永代橋から遠島船に乗せられて八丈島へ送られました。奴は芝居小屋なんぞで窮屈な思いをしているよりも、島へ行って野放しにされた方が仕合わせだったかも知れません。畜生のことですもの、島の役人だって厳重に縛って置いたりするもんですか、どこへかおっ放してしまいますよ」


青空文庫現代語化 Home リスト