GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「留吉は俺の子分だ。お前もその留吉と仲良くしてるんだから、俺ともさしたる他人ってわけじゃねえ。だから、ここまで来てもらって、お前が知ってる限りのことを……」
「その留吉だって、最近知り合っただけだ。別に仲がいいってわけじゃねえ」
「どこまでも喧嘩腰だな」
「それじゃもう何も聞くまい。こっちの方ではお前を他人とは思わんから、ただ一言だけ言っておく。お前、あの屋敷には長くいない方がいいぞ」
「なぜだ」
「白魚河岸の吉田幸之助ってのは、お前の主人が親戚で、普段から出入りしてるうちに、お近さんと仲良くなった。それがまた不思議な巡り合わせで、近所の御賄屋敷に養子に来ることになったんだ。女房になるはずのお勝って娘は病気で、すぐに結婚式もできないうちに、隣の娘とできてしまった。それがお近さんに知れて、嫉妬で騒ぎになった。まあ、それまではいいとして、それが原因で幸之助は身を隠すし、お勝って娘は自殺するし、お北って娘は川に飛び込むし、お近さんは殺される。これほどの騒動が起きてしまったら、黙って済むわけがねえ。まとめてみれば分かることだ。気の毒だが、お前の主人も関係してるから、何かの迷惑は免れねえだろう。そういう屋敷にずっといると、お前たちもどんなとばっちりを食らうか分かんねえ。まあそうじゃねえか」
「そればかりじゃない。この頃話題になってる、白い蝶の謎もほぼ解けたんだ。火の番の娘のお冬って奴が、菅糸を付けて飛ばしてるに違いない」
「お前はどうしてそんなことを言うんだ」
「そのくらいのことも知らねえようじゃ、上の仕事は務まらねえよ」
「もうこうなったら仕方がねえ。あちこちに迷惑をかけることになるが、お前も覚悟しとけよ」
「脅すなよ。俺は何にも知らねえってのに……」
「俺は別に覚悟するほどの悪いことはしてねえ」
「これだけ言っても、お前が分からなけりゃあ、もういいよ。そんなつまんねえ話は止めて、ゆっくり飲もうぜ」
原文 (会話文抽出)
「まったくおめえの云う通りだ。屋敷奉公のおめえ達をこんな所へ連れ込んで、むやみに調べるという訳じゃあねえ」
「留吉はおれの子分だ。おめえもその留吉と心安くしている以上、おれともまんざらの他人という筋でもねえ。それだから、ここまで来て貰って、おめえの知っているだけのことを……」
「その留吉だって昨日きょうの顔なじみだ。別に心安いという仲じゃあねえ」
「どこまで行っても喧嘩腰だな」
「それじゃあもうなんにも訊くめえが、おれの方じゃあおめえを他人と思わねえから、唯ひと言云って置くことがある。おめえ、あの屋敷に長くいるのは為にならねえぜ」
「なぜだ」
「白魚河岸の吉田幸之助というのは、おめえの主人とは縁つづきで、ふだんから出入りをしているうちに、お近さんと仲好くなった。それが又、不思議な廻り合わせで、近所の御賄屋敷へ養子に来るようになった。女房になる筈のお勝という娘は病気で、直ぐには婚礼も出来ねえそのうちに、隣りの娘と出来合ってしまった。それがお近さんに知れたので、やきもち喧嘩で大騒ぎだ。まあ、それまではいいとしても、それが為に幸之助は身を隠す、お勝という娘は自害する、お北という娘は身を投げる、お近さんは殺される。これほどの騒動が出来しちゃあ、唯済むわけのものじゃあねえ。積もってみても知れたことだ。お気の毒だが、おめえの主人も係り合いで、なにかの迷惑は逃がれめえと思う。そんな屋敷に長居をすりゃあ、おめえ達もどんな巻き添えを喰わねえとも限らねえ。まあそうじゃあねえか」
「そればかりじゃあねえ。このごろ世間を騒がしている、白い蝶々の種もすっかり挙がっているんだ。火の番の娘のお冬という奴が、菅糸を付けて飛ばしているに相違ねえ」
「おめえはどうしてそんなことを云うんだ」
「そのくらいの事を知らねえようじゃあ、上の御用は勤まらねえ」
「もう斯うなったら仕方がねえ。方々に迷惑する人が出来るのだ。おめえも覚悟していてくれ」
「嚇かしちゃあいけねえ。おれはなんにも知らねえと云うのに……」
「おれは別に覚悟するほどの悪いことをしやあしねえ」
「これだけ云っても、おめえに判らなけりゃあ、もういいや。そんな野暮な話は止めにして、まあゆっくりと飲むとしようぜ」