岡本綺堂 『半七捕物帳』 「なにか落とし物でもしなすったかね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「あれ落とし物かい?」
「あのちょうちょは俺も時々見る。なんか不気味なんだよな。今夜は寺の墓地に飛び込んでったね」
「誰かの魂がちょうちょになって、墓から出てきてるんじゃないか」
「いや、墓から出てるんじゃなくて、どこかから飛んでくるんだよ。墓場に入るのは今夜が初めてぽい」
「でも、ちょうちょがどこから飛んで来て、どこに行くのか、見たやついないんだって。そもそも、あのちょうちょってなんか本物じゃないらしいよ」
「生きてないってこと?」
「飛んでる姿を見ると生きてるみたいだけどさ……。俺の考えじゃ、あのちょうちょは紙でできてるみたいなんだ。本物には思えない」
「そっちは気づかなかったな……」
「紙でできてるのかな。だって、あのチョウチョ売りが売りに来るやつとは違うみたいだし」
「チョウチョ売りが売りに来るのは、子供のオモチャだ。あれほど安っぽくはないけど、どう見ても生きてるちょうちょには思えない。白い紙か……それとも白い絹みたいなやつか……どっちにしても、作り物っぽいよ。でも、その作り物がなんで生きてるみたいに飛んでるのか、それがわかんない。とにかく不思議だ。あんなのは見たくないな。見るとなんか悪いことが起きそうな気がするから。でも、俺は商売だから、毎晩こういう時間帯に歩いてるから、嫌でも時々見ちゃうことがあるんだ。気がするんだけど、あのちょうちょを見た翌日は、なんか気分が悪いんだよね……」
「もう行こうよ」
「そうだね、行こう」
「そうだ。だんだん夜が更けてくる。お嬢さんたちを送ってあげようか」

原文 (会話文抽出)

「なにか落とし物でもしなすったかね」
「その蝶々はわたしも時々に見るがな。なんだか気味がよくない。今夜はこの寺の墓場へ飛び込んだかね」
「誰かの魂が蝶々になって、墓の中から抜け出して来るんじゃないかね」
「なに、墓から出るんじゃない、ほかから飛んで来るんだよ。墓場へはいるのは今夜が初めてらしい」
「だが、蝶々が何処から飛んで来て、どこへ行ってしまうか、誰も見とどけた者は無い。第一、あの蝶々はどうも本物ではないらしいよ」
「生きているんじゃ無いのか」
「飛んでいるところを見ると、生きているようにも思われるが……。わたしの考えでは、あの蝶々は紙でこしらえてあるらしいね。どうも本物とは思われないよ」
「わたしもそこまでは気が付かなかったが……」
「紙で拵えてあるのかな。だって、あの蝶々売が売りに来るのとは、違うようだぜ」
「蝶々売が売りに来るのは、子供の玩具だ。勿論、あんな安っぽい物じゃあないが、どうも生きている蝶々とは思われない。白い紙か……それとも白い絹のような物か……どっちにしても、拵え物らしいよ。だが、その拵え物がどうして生きているように飛んで歩くのか、それが判らない。なにしろ不思議だ。あんな物は見たくない。あんなものを見ると、なにか悪いことがありそうに思われるからね。といって、わたしは商売だから、毎晩こうして廻っているうちに、忌でも時々見ることがある。気のせいか、あの蝶々をみた明くる日は、なんだか心持が悪くって……」
「もう行きましょうよ」
「ええ、行きましょう」
「そうだ。だんだんに夜が更けて来る。お嬢さんたちはお屋敷の前まで送ってあげましょうよ」


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