岡本綺堂 『半七捕物帳』 「山城屋は気の毒でした。折角無事に済ませた…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「山城屋さんは気の毒でしたね。せっかく事を収めたのに、この騒ぎで全部ばれてしまいました。奥さんはそれについてもちろん取り調べを受けましたが、小僧の一件はすべて私の推測通りで、犯人には取られずにとりあえず事は済みました。でも、こうなったからには縁も遠くなり、婿や嫁の話もなくなりました。山城屋さんも諦めて、番頭の利兵衛に無理やり婿になってもらうことにしました。利兵衛もいろいろ断りましたが、主人の方から私に頼んで来まして、利兵衛をどこかへ呼び出して、主人は土下座して頼み、私もそばから口添えをして、どうにか納得させたんです。娘さんも意外に素直に承知して、滞りなく結婚式も済ませ、夫婦仲もとても仲睦まじいので、まあ良かったと主人も安心し、私も陰ながら喜んでいましたが、その翌年に娘さんが亡くなりました」
「病気ですか?」
「いえ、確か6月頃だったでしょうか、ある晩そっと家を出かけて不忍池に身を投げたんです。死体が発見されていないなんていうのは嘘で、蓮の間で浮かんだ死体は確かに山城屋さんが引き取りました。死ぬなら婿を取る前に亡くなりそうなものですが、どういうわけか分かりません。弁天様の申し子は結局弁天様に連れ戻されたのだと世間では主に噂されていました。それで、巳の日の夜には池の上で娘さんの姿を見たものがあるとか言ってましたが、本当か嘘か知りません」

原文 (会話文抽出)

「山城屋は気の毒でした。折角無事に済ませたものを、この騒ぎのために何もかもばれてしまいました。お此はそれについて勿論吟味をうけることになりましたが、小僧の一件はすべてわたくしの鑑定通りで、下手人には取られずにまず事済みになりましたが、もうこうなったらいよいよ縁遠くなって、婿も嫁もあったもんじゃありません。山城屋でもあきらめて、番頭の利兵衛に因果をふくめて、無理に婿になって貰うことにしました。利兵衛もいろいろ断わったのですが、主人の方からわたくしの方へ頼んで来まして、利兵衛を或るところへ呼んで、主人は手を下げないばかりに頼み、わたくしもそばから口を添えて、どうにかまあ納得させたんです。娘も案外素直に承知して、とどこおりなく祝言の式もすませ、夫婦仲も至極むつまじいので、まあよかったと主人も安心し、わたくしも蔭ながら喜んでいましたが、そのあくる年に娘は死にました」
「病死ですか」
「いいえ、なんでも六月頃でしたろうか、ある晩そっと家をぬけ出して不忍の池へ身を投げたんです。死骸が見付からないなんていうのは嘘で、蓮のあいだに浮きあがった死骸はたしかに山城屋で引き取りました。いっそ死ぬならば、婿を取らないうちに死にそうなもんでしたが、どういうわけか判りません。弁天様の申し子はとうとう弁天様に取り返されたのだと世間では専ら噂していました。そうして、巳の日の晩には池のうえで娘の姿をみたものがあるとか云っていましたが、嘘かほんとうか知りません」


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