岡本綺堂 『半七捕物帳』 「なにしろ困ったものでございます」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「本当に困ったものです」
「香道、茶道、琴、三味線などの芸事は一通り心得ていて、容姿もよく、生まれつきおとなしくて、申し分ありません。しかし、あの一件がネックになってどうにもなりません。もうすぐ27歳になります。一人娘なので、両親は特にかわいがり、大切に育てています。それでも本人は人通りの多い店のほうにいるのを嫌がって、最近は裏の隠居所の方で、今年81になる女隠居と二人で暮らしています」
「その隠居所には、隠居さんと娘さんのほかには誰もいないんですか?」
「食事は店のほうから運ばせますが、ほかには小女を一人つけています。お熊と言って、まだ15歳の山出しで、何も役に立ちません」
「隠居さんも、81とは長生きですね」
「はい。めでたい方です。でもやはり年なので、最近は耳も目も悪くなって、耳の方はほぼ聞こえません」
「そうでしょうね」
「本当に困りました。そのままにしておけませんから、何か手を打たなければなりません。それで、娘さんはもちろんあのことを知ってるんですか?」
「徳次郎が死んだことは知っていますが、兄が交渉に来たことは、まだ本人には伝えていません。たとえ嘘だとしても、自分が殺したと言われたことが本人に入ったら、何かまずいだろうと思って、まだ何も言っていません」
「分かりました。じゃあ、その方針で進めましょう。でも、番頭さん。隠居所の方には気の利いた者をもう一人やったほうがいいと思います」
「そうですか」
「そのほうが安全でしょう」
「はい」
「では、よろしく頼みます」
「つまり、親方が本当に小僧を殺したかどうかが分かればいいんですね。それが分かれば、こちらの言い分が通るわけですから、お金の問題はどうとでもなります」
「その通りです。やはり相談に来てよかったです。では、くれぐれもお願いします」

原文 (会話文抽出)

「なにしろ困ったものでございます」
「香花茶の湯から琴三味線の遊芸まで、みな一と通りは心得ていますし、容貌はよし、生まれ付きおとなしく、まず申し分はないのでございますが、右の一件でどうにもなりません。明けてもう二十七になります。ひとり娘ではあり、そういう訳でございますから、親たちもひとしお不憫が加わりまして、それはそれは大切に可愛がっているのでございます。それでも当人は人出入りの多い店の方にいるのを忌がりまして、この頃では裏の隠居所の方に引っ込んで、今年八十一になります女隠居と二人で暮らしております」
「その隠居所には、隠居さんと娘のほかに誰もいないんですか」
「三度のたべものは店の方から運ばせますが、ほかに小女を一人やってございます。それはお熊と申しまして、まだ十五の山出しで、いっこうに役にも立ちません」
「隠居さんも、八十一とは随分長命ですね」
「はい。めでたい方でございます。しかし何分にも年でございますから、この頃は耳も眼もうとくなりまして、耳の方はつんぼう同様でございます」
「そうでしょうね」
「なにしろ困ったことだ。そのままにしても置かれますまいから、まあ何とかしてみましょう。そこで、娘は無論そのことを知っているんでしょうね」
「徳次郎の死んだことは知って居りますが、それについて兄が掛け合いにまいりましたことは、まだ当人の耳へは入れてございません。たとい嘘にもしろ、自分が殺したなぞと云われたことが当人に聞えましては、どうもよくあるまいと存じまして、まだ何も聞かさないように致して居ります」
「判りました。じゃあ、まあその積りでやってみましょう。だが、番頭さん。隠居所の方へは誰か気の利いた者をもう一人やっておく方がようござんすね」
「そうでございましょうか」
「その方が無事でしょうよ」
「はい」
「では、なにぶん宜しくねがいます」
「つまりお此さんが確かに小僧を殺したか殺さないかが判ればいいんでしょう。それさえ判れば水かけ論じゃあねえ、こっちが立派に云い開きが出来るんですから、金のことなぞはどうとも話が付くでしょう」
「さようでございます。やっぱり御相談をねがいに出てよろしゅうございました。では、くれぐれもお願い申します」


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