GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「その徳蔵というのは父親ですか?」
「いえ、徳次郎の兄です。父親も母親ももう亡くなって、今は兄の徳蔵……確か25歳だそうですが。それで家を継いでいます。普段は正直でおとなしい男ですが、今日は人間がまるで変わったみたいで、いくら主人の娘でもむやみに奉公人を殺して済むかというような、すごい剣幕で騒いで、主人たちも困っています。さっきも言った通り、私が面倒を見ていた時は一言も喋れなかったのに、家に帰ってからどうしてそんなことを言ったのか、どうもそこが怪しいんですが、徳蔵は確かにそう言ったと言います。要するにどちらの言い分も通らなくて、こちらでは知らないの一点張りで突き放せば、それまでなんですが、世間の評判もあるので、気になってしまいます」
「お察しします」
「本当に困りましたよ」
「こちらでも相当な香典を贈るつもりですが、相手の要求が法外で、300両よこせ、さもなければ親方を殺人の犯人に訴えると脅すんです。親方が確かに殺したなら、100両どころか1000両でもお支払いしますが、さっき言った通りの無茶苦茶な話で、こちらから疑えば……まあ強請にも、いがかりにも、思えます。主人に代わって私が交渉して、まずは15両か20両で決着させようと思ったんですが、相手は全く受け付けません。最後は仮の香典として、3両だけ受け取って、葬式が終わったらまた改めて交渉に来ると言って帰りましたが、親分さん、これはどうしましょう?」
原文 (会話文抽出)
「徳次郎が病気になりましたのは、ちょうどお雛様の宵節句の晩からでございまして、ほかの奉公人の話によりますと、夕方から何だか口中が痛むとか申して、夜食も碌々にたべなかったそうでございます。それが夜あけ頃からいよいよ激しく痛み出して、あしたの朝には口中が腫れふさがってしまいました。口をきくことは勿論、湯も粥も薬もなんにも通らなくなりまして、しまいには顔一面が化け物のように赤く腫れあがってしまいました。したがって、熱が出る、唸る、苦しむというわけで、医者も手の着けようがないような始末になりましたので、主人は勿論、手前共もいろいろと心配いたしまして、とうとう宿の方へ下げることに致しましたのでございます。こんな病気になるについては、なにか自分で心あたりがないかと、病中にもたびたび聞きましたが、ただ唸っているばかりで、なんにも申しませんでした。それが宿へ帰ってから、どうしてそんなことを申したのか、少し不思議にも思われますが、なにしろお此さんが殺したなぞとは実に飛んでもないことで……。けさほど宿許から徳蔵がまいりまして、仏の遣言というのを楯に取って、どうも面倒なことを申します」
「その徳蔵というのは親父ですかえ」
「いえ、徳次郎の兄でございます。親父もおふくろもとうに歿しまして、只今では兄の徳蔵……たしか二十五だと聞いております。それが家の方をやっているのでございます。ふだんは正直でおとなしい男ですが、きょうは人間がまるで変ったようでございまして、いくら主人の娘でも無暗に奉公人を殺して済むかというような、ひどい権幕の掛け合いに、主人方でも持て余して居ります。唯今も申し上げる通り、手前の方に居ります時には、ちっとも口の利けなかった病人が、家へ帰ってからどうしてそんなことを云いましたか、どうもそこが胡乱なのでございますが、徳蔵は確かにそう云ったと申します。いわば水かけ論で、こちちではあくまでも知らないと突き放してしまえば、まあそれまでのようなものでございますが、なにぶんにも世間の外聞もございますので、手前共が気を痛めて居ります」
「お察し申します」
「そりゃあお困りでしょう」
「勿論、手前方でも相当のとむらい料を遣わすつもりで居りますが、どうもその、相手方の申し条が法外でございまして、どうしても三百両よこせ、さもなければ、お此さんを下手人に訴えると申すのでございます。それもお此さんが確かに殺したものならば、百両が千両でも素直に出しますが、今申す通りの水かけ論で、こちらから疑えば……まあ強請とも、云いがかりとも、思われないこともございません。主人に代って、手前が対談いたしまして、まず十五両か二十両で句切ろうと存じたのでございますが、相手がどうしても承知いたしません。とどの詰りが当座のとむらい料と申し、三両だけ受け取りまして、いずれ葬式のすみ次第あらためて掛け合いにくると云って帰りましたが、親分さん、これはどうしたものでございましょう」