岡本綺堂 『半七捕物帳』 「お察しの通り、藤代の御屋敷へ行くんですが…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「お察しの通り、藤代様のお屋敷に行くんですけど、まだ誰にも知り合いがいないんで、このお兄さんに連れて行ってもらわないと……」
「ダメですよ。何かと理由をつけて誘い出すなんて……。誰が何を言おうと、うちの人はそんなところへはもう行かせませんよ」
「長さんは本当に留守なんですか?」
「嘘だと思うなら家の中を調べてみてください。今日は外出してますよ」
「そうですか」
「おかみさん。煙草の火、貸してください」
「主人は留守なんです」
「留守でもいいんです。実はね、私の知り合いの本郷の人が、こないだの夜に森川宿を通ると、化け銀杏の下に女の幽霊が立ってたんですって。奴は臆病者だからよく見ずに逃げちゃったんですよ。いや、情けない奴で……。江戸のど真ん中に化け物がいるわけないでしょ。私がいたら捕まえて正体を暴いでやったのに、残念ですよ。はははは」
「もちろん私が見たわけじゃないんで、間違ってたらごめんなさいよ」
「ねえ、おかみさん。その幽霊ってあなたじゃないんですか?」
「冗談でしょ」
「どうせ私みたいなのは幽霊みたいに見えるんでしょ」
「いや、冗談じゃなく、本当ですよ。その幽霊は藤代様のお屋敷に浮気相手の旦那さんを迎えた帰りに見たんじゃないかな。恋人は博奕ばかり打って、それで父親が機嫌が悪い。両親と浮気相手の間で苦労してるのは幽霊だけなんですよ。ねえ、おかみさん。その幽霊が真っ青な顔してるのも無理ないですよ。よく分かります」

原文 (会話文抽出)

「お察しの通り、藤代の御屋敷へ行くんですが、まだ誰にも馴染がないもんですから、こちらの大哥に連れて行って貰わなければ……」
「いけませんよ。なんのかのと名をつけて誘い出しに来ちゃあ……。誰がなんと云っても、内の人はもうそんなところへはやりませんよ」
「長さんはほんとうに留守なんですかえ」
「嘘だと思うなら家じゅうをあらためて御覧なさい。きょうは用達しに出たんですよ」
「そうですか」
「おかみさん。済みませんが煙草の火を貸しておくんなさい」
「内の人は留守なんですよ」
「留守でもいいんです。実はね、わたしの知っている本郷の者が、このあいだの晩に森川宿を通ると、化け銀杏の下に女の幽霊の立っているのを見たんです。野郎、臆病なもんだから碌々に正体も見とどけずに逃げてしまったんですよ。いや、いくじのねえ野郎で……。江戸のまん中に化け物なんぞのいる筈がねえ。わたしなら直ぐに取っ捉まえてその化けの皮を剥いでやるものを、ほんとうに惜しいことをしましたよ。ははははは」
「勿論わたしが見た訳じゃあねえんだから、間違ったら、ごめんなさいよ」
「ねえ、おかみさん。その幽霊というのはお前さんじゃありませんでしたかえ」
「冗談ばっかり」
「どうせわたしのようなものはお化けとしか見えませんからね」
「いや、冗談でねえ、ほんとうのことだ。その幽霊は藤代の屋敷へ自分の亭主を迎えに行ったんだろうと思う。惚れた亭主は博奕ばかり打っている。それが因で父っさんの機嫌が悪い。両方のなかに挟まって苦労するのは、可哀そうにその幽霊ばかりだ。ねえ、おかみさん。その幽霊が真っ蒼な顔をしているのも無理はねえ。かんがえると実に可哀そうだ。わたしも察していますよ」


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