GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「むむ。ちょっとはあるんだけど、まだ確証が持てなくて困ってるよ」
「そうですか。いや、それについて面白い話があるんですよ。やっぱり、確かめるまでは喜んじゃダメですね」
「お前の面白い話はたいして面白くないが、どうした」
「ウチの町内に万助っていう古着屋がいるんです。そいつは絵とか骨董にも詳しくて、商売の合間に屋敷や町屋に行って、書画や古道具を売って儲けてるらしいです。その万助がどこからか探幽の掛け物を手に入れたって噂を聞いて調べたら、おっかしいことに、それは鬼の図だったんです」
「むむ」
「で、どうしたんですか」
「それで早速万助のところへ行って調べたら、万助のやつ、ぼんやりしてんですよ。どうしたんだって聞いたら、その探幽が偽物だったそうで……」
「ははは、それは面白いですね」
「どうも2、3日前、あいつが御成道の横町を歩いてたら、古道具屋と紙屑屋が道で話してたらしいんです。そしたら古道具屋が古い掛け物を広げて紙屑屋に見せてたんで、万助が近づいて見てみると、それが探幽の鬼の図だったんです。万助のやつ、急に商売っ気が出て、その古道具屋と交渉して、無理して安く買ってきたんです。古道具屋の方も、探幽が何だかよく分かってなかったみたいで、安値で売っちゃったみたいで、万助は大喜び。すごい掘り出し物をして儲かったって喜んでたんです。でも、自分でもまだ確証が持てなかったから、詳しい人に鑑定してもらったら、確かに偽物だって言われちゃって、万助しょんぼりしちゃったんです。やれやれ、千両の宝くじが当たったつもりでいたのに、大外れだったんですからね。ははははは。でも、万助だけじゃなくて、私もびっくりしましたよ」
「いや、びっくりするなよ」
「仙吉。お前の調査力はすごいな。もう一度万助のところに行って、その偽物を売った古道具屋がどんな奴か聞いてきてくれ」
「でも親分、それは偽物ですよ」
「偽物でも構わない。売った奴が分かったら、すぐに居場所を突き止めてこい。とにかく急げ」
「分かりました」
原文 (会話文抽出)
「親分。探幽の一件はまだ心当りが付きませんかえ」
「むむ。ちっとは心当りがねえでもないが、どうもまだしっかりと掴むわけにも行かねえので困っているよ」
「そうですか。いや、それについて飛んだお笑いぐさがありましてね。なんでも物を握って見ねえうちは、糠よろこびは出来ませんね」
「おめえ達のお笑いぐさはあんまり珍らしくもねえが、どうした」
「それがおかしいんですよ。わっしの町内に万助という糴呉服屋があるんです。こいつはちっとばかり書画や骨董の方にも眼があいているので、商売の片手間に方々の屋敷や町屋へはいり込んで、書画や古道具なんぞを売り付けて、ときどきには旨い儲けもあるらしいんです。その万助の奴がどこからか探幽の掛物を買い込んだという噂を聞いて、だんだん調べてみると、それがおまえさん、鬼の図だというんでしょう」
「むむ」
「それからどうした」
「それからすぐに万助の家へ飛び込んで、よく調べてみると、万助の奴め、ぼんやりしている。どうしたんだと訊くと、その探幽が贋物だそうで……」
「まったくお笑いぐさですよ」
「なんでも二、三日まえ、あいつが御成道の横町を通ると、どこかの古道具屋らしい奴と紙屑屋とが往来で立ち話をしている。なに心なく見かえると、その古道具屋が何だか古い掛物をひろげて紙屑屋にみせているので、そばへ寄って覗いてみると、それが鬼の図で狩野探幽なんです。万助の奴め、そこで急に商売気を出して、その古道具屋にかけ合って、なんでも思い切って踏み倒して買って来たんです。古道具屋の方も、探幽か何だか、碌にわからねえ奴だったと見えて、いい加減に廉く売ってしまったので、万助は大喜び、とんだ掘り出しものをして一と身代盛りあげる積りで、家へ帰って女房なんぞにも自慢らしく吹聴していたんですが、実は自分にもまだ確かに見きわめが付かねえので、ある眼利きのところへ持って行って鑑定して貰うと、なるほどよく出来ているが真物じゃあない、これはたしかに贋物だと云われて、万助め、がっかりしてしまったんです。野郎、千両の富籤にでも当った気でいたのを、大番狂わせになったんですからね。はははははは。いや、万助ばかりじゃあねえ、わっしも実はがっかりしましたよ」
「いや、がっかりすることはねえ」
「仙吉。おめえにしちゃあ大出来だ。これからもう一度万助のところへ行って、その贋物を売った道具屋はどんな奴だか、よく訊いて来てくれ」
「でも親分、それは贋物ですぜ」
「贋物でもいい。それを売った奴が判ったら、それからすぐにそいつの居どこを突きとめて来てくれ。なるたけ早いがいいぜ」
「承知しました」