GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「はい」
「そうか。実はお前に会いたかったんだ。おい、松。ここには構わずに、お前たちは早く行ってきてくれ」
「お前はここに何しに来たんだ」
「俺たちのあとを尾けてきたのか。緑屋の爺さんから何か聞いたので、あとを尾けてきたんだろう。それともこの寺に何か探し物でもあるのか。お前も博打を打つ男らしいから、人の前でものが言えないほどおとなしい人間でもないだろう。はっきり答えてくれ」
「じゃあ、まぁ、そのことは後回しにして、俺の質問に答えてくれ」
「緑屋の爺さんの話によると、お前は十五夜の晩に田んぼを歩いていると、頬かぶりをした若い女に出会って、それを神明さまの近くまで送って行く途中で、お前にその女がいたずらをした。そこへ2人の虚無僧が出てきて、お前はひどい目に遭った。話の筋はまぁそうだね。それからお前は3人のあとを付けて行くと、3人はこの寺に入った……。そこで、お前はどうした」
「帰りました」
「寺に入るのを確認しただけで、すぐ帰ったのか」
「帰りました」
「真っすぐ帰ったのか。確かに帰ったのか」
「緑屋の爺さんは騙されても、俺は騙されない。お前は最後まで3人のあとを尾けて、この寺のなかまで入ったんだろう。隠すと、お前のためにならないぞ。正直に言え。それから何か聞き耳を立てたりしなかったか」
「まったくすぐに帰ったので……。あとのことは知りません」
「こいつ、遊び人のくせにあっけらかんとした野郎だな。おい、元八。お前はお鎌って婆さんから小遣いを貰って、口を拭ってるんだろう。念のために言うが、緑屋の爺さんとこの半七は相手が違うぞ。そのつもりで答えろ」
「さぁ、ヤクザ。この腕に縄がかかるか、かからないかの瀬戸際だ。答えろよ。答えねぇのかよ」
「親分の仰る通り、実は3人のあとを尾けて……」
「寺のなかまで入ったな。それからどうした」
「3人は案内もなく上がって行きました」
「坊主はいたのか」
「住職と納所もいました。3人は住職の部屋に通って……」
「この6畳か」
「そうです。住職と納所と虚無僧と女、みんなで集まって、ここで酒を飲み始めました」
「お前はそれをどこから覗いてた」
「庭から回って、あの大きな芭蕉の木の陰で……。すると、いきなり袖を掴んで引っ張る奴がいるので、驚いて振り返ってみると……」
「お鎌婆さんか」
「お鎌は私を無理やり引きずって、表の玄関まで連れて行って、私の手に1歩の金を握らせて、さぁ早く出て行け、ぐずぐずしてるとお前の命はないと……。私もなんだか嫌な感じがして、慌てて逃げて帰りました」
「お前はお鎌と仲がいいのか」
「別に仲がいいわけじゃないですけど、あの婆さんはお金持ってるんで、時々ちょっと小遣いを借りることもあります。いえ、なに、踏み倒すなんてことはできません。あの婆さん、かなり厳格ですから……」
原文 (会話文抽出)
「おめえは元八じゃねえか」
「へえ」
「そうか。実はおめえにも逢いてえと思っていたのだ。おい、松。ここには構わずに、おめえ達は早く行って来てくれ」
「おめえはここへ何しに来たのだ」
「おれ達のあとを尾けて来たのか。緑屋の爺さんから何か聞いたので、あとを尾けて来たのだろう。それともこの寺に何か探し物でもあるのか。おめえも小博奕の一つも打つ男だそうだから、人の前で物が云えねえ程のおとなしい人間でもあるめえ。はっきりと返事をしてくれ」
「じゃあ、まあ、その詮議はあと廻しにして、これから俺の訊くことに応えてくれ」
「緑屋の爺さんの話を聞くと、おめえは十五夜の晩に田圃をあるいていると、頬かむりをした若い女に逢って、それを神明さまの近所まで送って行く途中で、おめえがその女に悪ふざけをした。そこへ二人の虚無僧が出て来て、おめえはひどい目に逢わされた。話の筋はまあそうだね。それからおめえは三人のあとを付けて行くと、三人はこの寺へはいった……。そこで、おめえはどうした」
「帰りました」
「寺へはいるのを見届けただけで、すぐに帰ったのかえ」
「帰りました」
「真っ直ぐに帰ったかえ。確かに帰ったかえ」
「緑屋の爺さんは欺されても、おれは欺されねえ。おめえは何処までも三人のあとを尾けて、この寺のなかまではいり込んだろう。隠すと、おめえの為にならねえぜ。正直に云え。それから何か立ち聴きでもしたか」
「まったく直ぐに帰りましたので……。あとの事は知りません」
「こいつ、道楽者のくせにあっさりしねえ野郎だな。やい、元八。てめえはあのお鎌という婆さんから鼻薬を貰って、口を拭っているのだろう。くどくも云うようだが、緑屋の爺さんと此の半七とは相手が違うぞ。その積りで返事をしろ」
「さあ、野郎。この腕に縄が掛かるか、掛からねえかの分かれ道だ。返事をしろよ。返事をしねえかよ」
「親分の仰しゃる通り、実は三人のあとを尾けて……」
「寺のなかまではいり込んだな。それからどうした」
「三人は案内も無しに上がり込みました」
「坊主はいたのか」
「住職、納所もいました。三人は住職の居間へ通って……」
「この六畳だな」
「そうです。住職も納所も虚無僧も女も、みんな一緒に寄り集まって、ここで酒を飲み始めました」
「おめえはそれを何処で覗いていた」
「庭から廻って、あの大きい芭蕉の蔭で……。すると、だしぬけに袂を掴んで引っ張る奴があるので、驚いて振り返ると……」
「お鎌婆さんか」
「お鎌はわたしをむやみに引き摺って、表の玄関の方まで連れ出して、わたしの手に一歩の金を握らせて、さあ早く出て行け、ぐずぐずしているとお前の命が無いというので……。わたしも何だか気味がわるくなって、忽々に逃げて帰りました」
「おめえはお鎌と心安くしているのか」
「別に心安いというわけでもありませんが、あの婆さんは小金を持っているので、時々ちっとぐれえの小遣いを借りることもあるのです。いえ、なに、借り倒すなんていう事は出来ません。あの婆さん、なかなか厳重ですから……」