芥川龍之介 『首が落ちた話』 「何だい、これは」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『首が落ちた話』

現代語化

「何だよ、これ」
「面白いだろ。こんなこと中国以外じゃあり得ないよ」
「どこにもあるわけねーだろ」
「しかもさらに面白いのは――」
「俺、その何小二ってやつ知ってるんだ」
「知ってる? それはびっくりだ。まさか駐在武官のくせに、新聞記者と組んで、適当な嘘をデマってるわけじゃないよね」
「誰そんなつまんねーことすんだよ。俺はあの頃――屯の戦いでケガした時に、その何小二ってやつも、俺たち軍の野戦病院に入院してたから、中国語の勉強がてら2、3回話したことがあるんだ。首にケガしたって言ってたから、大体あいつに違いない。偵察か何かに行って、俺たちの騎兵とぶつかって首に日本刀くらったんだって」
「へー、縁だね。でもこの新聞だと、あいつチンピラって書いてあるじゃん。そんなやつはあの時死んでった方が、世間にとってはどれだけ助かったことか」
「あれはあの頃は、超真面目でお人好しで、捕虜の中でもあんな大人しい奴は珍しかったよ。だから軍医とかみんな妙にあいつを気に入って、特別手厚く治療してくれたみたい。あいつはまた自分の生い立ちとか話してくれて、なかなか面白かったんだ。特にあいつが首に大ケガして、馬から落ちた時の気持ちをおれに話してくれたのは、今でもちゃんと覚えてるよ。川の近くの泥の中に転がってる時、ヤナギの木の隙間から空を見ると、母親の服とか、女の素足とか、花が咲いたゴマ畑とかが、くっきりと空に見えたんだって」

原文 (会話文抽出)

「何だい、これは」
「面白いだろう。こんな事は支那でなくっては、ありはしない。」
「そうどこにでもあって、たまるものか。」
「しかも更に面白い事は――」
「僕はその何小二と云うやつを知っているのだ。」
「知っている? これは驚いた。まさかアッタッシェの癖に、新聞記者と一しょになって、いい加減な嘘を捏造するのではあるまいね。」
「誰がそんなくだらない事をするものか。僕はあの頃――屯の戦で負傷した時に、その何小二と云うやつも、やはり我軍の野戦病院へ収容されていたので、支那語の稽古かたがた二三度話しをした事があるのだ。頸に創があると云うのだから、十中八九あの男に違いない。何でも偵察か何かに出た所が我軍の騎兵と衝突して頸へ一つ日本刀をお見舞申されたと云っていた。」
「へえ、妙な縁だね。だがそいつはこの新聞で見ると、無頼漢だと書いてあるではないか。そんなやつは一層その時に死んでしまった方が、どのくらい世間でも助かったか知れないだろう。」
「それがあの頃は、極正直な、人の好い人間で、捕虜の中にも、あんな柔順なやつは珍らしいくらいだったのだ。だから軍医官でも何でも、妙にあいつが可愛いかったと見えて、特別によく療治をしてやったらしい。あいつはまた身の上話をしても、なかなか面白い事を云っていた。殊にあいつが頸に重傷を負って、馬から落ちた時の心もちを僕に話して聞かせたのは、今でもちゃんと覚えている。ある川のふちの泥の中にころがりながら、川楊の木の空を見ていると、母親の裙子だの、女の素足だの、花の咲いた胡麻畑だのが、はっきりその空へ見えたと云うのだが。」


青空文庫現代語化 Home リスト