芥川龍之介 『好色』 「侍従はおれを相手にしない。おれももう侍従…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『好色』

現代語化

「侍従はおれを相手にしてくれない。おれももう侍従のことは諦めたよ。――」
「でも諦めても、侍従の姿が幻みたいに、必ず頭に浮かんでくる。おれは何かの雨の夜から、ずっとこの姿を忘れたいばかりに、いろんな神様にお願いしてきたよ。でも、加茂神社に行けば、おみこしの中に侍従の顔がくっきり見えてくる。清水寺の奥の院に行けば、観音様まで侍従に変身しちゃう。もしこの姿がいつまでも俺の頭から離れなかったら、俺絶対気が狂って死んじゃうよ。――」
「でもその姿を忘れるには、――たった一つの方法しかない。それはあの女の汚いところを見つけることだ。侍従も神様じゃないんだから、欠点だってあるはずだよ。そこを見つけられれば、女房に化けた狐のしっぽがバレたみたいに、侍従の幻も消えちゃう。俺の命はそれでようやく俺のものになるんだ。でもどこが汚いか、どこが欠点なのか、誰も教えてくれない。ああ、大慈大悲の観音様、どうかそこを教えてください。侍従がただの乞食婆さんと変わらない証拠を……」
「おや、あそこに歩いてるのは、侍従の付きの女中じゃないか?」

原文 (会話文抽出)

「侍従はおれを相手にしない。おれももう侍従は思ひ切つた。――」
「しかしいくら思ひ切つても、侍従の姿は幻のやうに、必ず眼前に浮んで来る。おれは何時かの雨夜以来、唯この姿を忘れたいばかりに、どの位四方の神仏へ、祈願を凝らしたかわからない。が、加茂の御社へ行けば、御鏡の中にありありと、侍従の顔が映つて見える。清水の御寺の内陣にはひれば、観世音菩薩の御姿さへ、その儘侍従に変つてしまふ。もしこの姿が何時までも、おれの心を立ち去らなければ、おれはきつと焦れ死に、死んでしまふのに相違ない。――」
「だがその姿を忘れるには、――たつた一つしか手段はない。それは何でもあの女の浅間しい所を見つける事だ。侍従もまさか天人ではなし、不浄もいろいろ蔵してゐるだらう。其処を一つ見つけさへすれば、丁度女房に化けた狐が、尾のある事を知られたやうに、侍従の幻も崩れてしまふ。おれの命はその刹那に、やつとおれのものになるのだ。が、何処が浅間しいか、何処が不浄を蔵してゐるか、それは誰も教へてくれない。ああ、大慈大悲の観世音菩薩、どうか其処を御示し下さい、侍従は河原の女乞食と、実は少しも変らない証拠を。……」
「おや、あすこへ来かかつたのは、侍従の局の女の童ではないか?」


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