島崎藤村 『新生』 「私から兄さんにお願いして置きたいと思いま…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『新生』

現代語化

「兄ちゃんにお願いしたいんだけど――」
「節ちゃんの今後のことはいずれ話が出ると思う。本人の希望は最優先で考えてやってくれ。そこは本人に自由に決めさせてくれ」
「それは当然だろ」
「人の意思を縛るのは嫌いだ。その点は節ちゃんの自由に任せるよ」
「無理強いすると、悲惨なことになるかもよ――」
「まぁ、台湾にでも連れてってやったら気が変わるかもしれない。その時その時だ」
「節ちゃんの怪我はもっと治してから連れて行ってあげればよかったけど、嘉代さんの病気でそうもいかなくなっちゃった。台湾で姉さんの手伝いがしっかりできたらいいけど――そこが心配なんだ」
「台湾は内地と違って暖かいから、節ちゃんの怪我も自然に治るだろうと思ってるよ」
「とにかく、節ちゃんが本当の意味で生きて出られるようにしてあげたい――それが俺の願いなんだ。元気になって出られれば、それ以上のことはねー」
「これで大体決まったね――」
「それともう一つ、節ちゃんが心残りがあったとしても、お前から餞別を渡すのはやめてくれ」
「了解した。俺の方では遠慮するよ。節ちゃんを台湾に連れて行ってあげるのが一番だと思う」
「義兄さんも賛成、お前も賛成だ。俺もこれで来た甲斐があった。節ちゃんも大喜びだぞ。もう俺について行くつもりで、今日は荷造りしてたよ――」

原文 (会話文抽出)

「私から兄さんにお願いして置きたいと思いますが――」
「節ちゃんがこれから先の方針のことで、いずれ話の出るような折もありましょう。あの人の意志だけは重んじてやって下さい。それだけは当人の自由に任せてやって下さい」
「そりゃ言うまでもない」
「人の意志を束縛するようなことは俺は嫌いだ。その点は節ちゃんの自由に任せるわい」
「無理なことをしますと、どういう悲劇が起らないともかぎりませんぜ――」
「まあ、台湾へでも連れて行って見たらばナ、どうまた気が変らんものでもあるまい。その時はその時サ」
「あの人の手は、もう少し治して置くと可かったんですが、嘉代さんの病気でそれなりに成っちまいました。台湾の方へ行って姉さんのお手伝いが十分に出来れば可いが――それを私は心配しています」
「ナニ、台湾の方は内地とは違って気候も熱いしナ、節ちゃんの手なぞも自然に好くなるだろうと俺は見てる」
「何方にしても、あの人がほんとうに生きて出られるようにしてやりたい――それが私の希望なんです。生きて出られさえすれば、それが何よりです」
「さあ、これで大体の事は決った――」
「もう一つ断って置くが、節ちゃんの方に心残りがあっても不可からナ、貴様から餞別を贈ることは見合せて貰いたい」
「承知しました。私の方では万事遠慮しましょう。台湾の方へあの人を連れて行って頂くのが何よりと思います」
「義雄も賛成、貴様も賛成だ。俺もまあこれで出て来た甲斐があった。節ちゃんも大悦びサ。もう俺に随いて行くつもりで、今日なぞは荷物をこしらえていたよ――」


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