島崎藤村 『新生』 「叔父さんは私が何に上りましたか、お解りで…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『新生』

現代語化

「叔父さんは私が何に驚いたか、わかりますよね」
「俺の書いたもの読んだのか」
「読みました。びっくりしました。まさかあんなことを書くとは思わなかったですー誰だって叔父さんのために惜しくないものはないです」
「…………」
「でも私が親しくしている家はみんなあれを読んでるんですよ。なんか、変変って思ってるうちに、いきなりあんなことが出てきて……私にそれをみろって、ある家の奥さんが出してくれたときは、ちょうど節ちゃんのことが書いてあるところだったんです」
「でも俺もそれなりに覚悟して書いたんだ」
「そりゃ誰だってそう言うでしょうね。よくよく考えないでこんなことは書けませんって。叔父さんは自分でやったことを自分で書いているんだから、それでもいいかもしれませんが、妹さんがかわいそうです。どこに行ってもそれを言われます。本当にあんなことを書いて、節ちゃんをどうしてくれるんですか」
「でも節ちゃんは知ってるよ。節ちゃんの同意を得た上で、発表したんだ」
「そりゃ、そうかもしれませんがーもう少しどうにかならないですかねえ。あるところのご主人とかも言ってるんですよ、これじゃ妹さんがかわいそうだ、何とかならないだろうかって。『夢だった』とかにするわけにはいかないのかなって、そこのご主人も言ってるんです」
「そうお前たちに心配かけて、俺も悪いと思う。でも、迷惑って言うなら、一番迷惑するのは俺じゃないか」
「でも叔父さんがそういうものを書くのを傍で見てるわけにもいかないんです。あんなものを出されたら、人はどう思うでしょうね。これは本当のことだと思って読むでしょうか。それとも作り話だと思うでしょうか」
「それは俺にもわからない。こういう人生もあると思って読んでくれる人もいるだろう」
「まあ、人の噂も75日って言うから、そのうち消えちゃうでしょうーもうこんな話はやめましょう」

原文 (会話文抽出)

「叔父さんは私が何に上りましたか、お解りでしょう」
「俺の書いたものを読んで見たかね」
「拝見いたしました。実に驚いてしまいました。まさかあんなことをお書きに成ろうとは思いませんでした――誰だって叔父さんの為に惜まないものは有りません」
「…………」
「生憎また私の御懇意に願ってるような家では皆あれを読んでます。何だか、おかしいおかしいと思ってるうちに、ポカッとあんなことが出てしまった……私にそれを見ろッて、ある家の奥さんが出して下すった時は、丁度また節ちゃんのことが出ている時じゃありませんか」
「しかし俺だって、相応に覚悟して掛ったことだ」
「そりゃ誰方だってもそう言いますサ。よくよく考えた上でなければこんなことは書けないッて。叔父さんは御自分で為すったことを御自分でお書きなさるんですから、それでも好いかも知れませんが、唯妹さんが可哀そうだッて――何処へ私が伺ってもそれを言われます。ほんとにあんなことをお書きになって、節ちゃんをどうして下さいます」
「でも節ちゃんは承知なんだ。節ちゃんの承諾を得た上で、俺はあれを発表した」
「そりゃ、まあそうかも知れませんけれど――もう少しどうにか成らないものですかねえ。あるところの旦那さんなんかも仰るには、これじゃ妹さんが可哀そうだ、何とか成らないものだろうかッて。『夢だった』とでもする訳には行かないものかッて、そこの旦那さんも仰るんですよ」
「そうお前達に心配を掛けて、それは俺も済まないと思う。しかし、誰が迷惑するッて言ったって、一番迷惑するのは俺じゃないか」
「何しろ当人の叔父さんがそれをお書きなさるものを側でどうすることも出来ないようなものですけれど……ああいうことをお出しになって、人は何と思うでしょうねえ。これは実際のことだと思って読むでしょうか。それとも作り話だと思うでしょうか」
「それは俺にも解らないサ。こういう人生もあると思って読んでくれる人もあるだろうサ」
「まあ、人の噂も七十五日ッて言いますから、今に何処かへ消えちまう時もまいりましょう――もうこんな話は止しましょう」


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