GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 島崎藤村 『新生』
現代語化
「でも、カトリックの国じゃないと見られないような、古い、静かな礼拝堂だったよ。お参りに行く人もたくさんいるらしくて、その礼拝堂を囲む鉄柵には男と女の名前がいっぱい書きつけられてたっけ。そういうところは西洋も日本も同じだな。みんなあの2人の運命にあやかりたいんだね――」
「岸本さん、あなたはどう思います。あなたの年齢になると、まだ恋を想像したりするものですか」
「そりゃあね、年をとればとるほど、若い時とは違う、複雑な恋の形があるとは思うよ。でも、恋なんてものはもう二度と僕には来ないだろうね」
原文 (会話文抽出)
「この下宿には今、柳という博士も飯だけ食いに通って来ています。千村君の居たホテルに泊っています。矢張京都の大学の先生でサ。その柳博士に、隣に居る高瀬君に、僕と、三人でペエル・ラセエズを訪ねて見ましたよ。なかなか好い墓地でした。突当りには『死の記念碑』とした大理石の彫刻もあったし、丘に倚ったような眺望の好い地勢で、礼拝堂のある丘の上からは巴里もよく見えました。散々僕等は探し廻った揚句に、古い御堂の前へ行って立ちました。それが君、アベラアルとエロイズの墓サ。二人の寝像が御堂の内に置いてあって、その横手のところには文字が掲げてありました。この人達は終生変ることのない精神的な愛情をかわしたなんて書いてありましたっけ。まあ比翼塚のようなものですね。でも君、青苔の生えた墓石に二人の名前が彫りつけてでもあって、それを訪ねて行くんなら比翼塚の感じもするが、どうしてそんなものじゃない。男と女の寝像が堂々と枕を並べているから驚く。『さすがにアムウルの国だ』なんて、高瀬君が言って笑いましたっけ」
「しかし、カトリックの国でなければ見られないような、古めかしい、物静かな御堂でしたよ。御参りに行くような人も君、沢山あると見えて、その御堂を囲繞いた鉄柵のところには男や女の名が一ぱいに書きつけて有りましたっけ。ああいうところは西洋も日本も同じですね。皆あの二人の運命にあやかりたいんですね――」
「岸本さん、あなたはどう思うんです。あなたの年齢になっても、まだ恋を想像するようなものでしょうか」
「そりゃ君、年をとれば取ったで、ずっと若い時分とは違った、複雑な恋愛の境地があるとは僕も考えるね。しかし、恋なんてことは最早二度と僕には来そうも無い」