島崎藤村 『新生』 「岸本さんと来たら、随分手廻しの好い方だか…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 島崎藤村 『新生』

現代語化

「岸本さんって、手際がいいよねー」
「これが手際がいいんですかね――」
「いいよ。俺が海外に行く時は、カバンとか全部人に詰めてもらったもん」
「僕は一人だし、どうにか必要なものだけ揃えたよ」
「兄さん、あなたに置いていくものがあるんです」
「中には、お母さんの織った袷が入ってます。海外に行って部屋着にするつもりで、東京からわざわざ持ってきたんです。でもカバンが狭いから、これはあなたに置いていきましょう」
「それはいいものくれるな」
「お母さんのものはもう俺のとこには何も残ってない」
「俺のとこにも、その袷がたった1枚残ってた。でもずいぶん長いこと持ってた。10年以上大事にしておいて、毎年袷の時期には出して着たけど、まだしっかりしてる。木綿に糸が少し入ってて、俺の一番好きな着物なんだ。惜しいけどしょうがない。まあ、これは兄さんにあげよう」
「じゃ、俺がまたもらって着るよ」

原文 (会話文抽出)

「岸本さんと来たら、随分手廻しの好い方だからねえ」
「これでも手廻しの好い方でしょうか――」
「好い方ですとも。僕なぞが外国へ行く時は、鞄でも何でも皆人に詰めて貰ったものですよ」
「なにしろ私は一人ですし、どうにかこうにか要るものだけの物を揃えました」
「兄さん、私はあなたに置いて行くものが有ります」
「この中に、お母さんの織った袷が入っています。外国へ行って部屋着にでもする積りで、東京からわざわざ持って来たんです。いかに言っても鞄が狭いものですから、これはあなたに置いて行きましょう」
「そいつは好いものをくれるナ」
「お母さんのものは何物も最早俺のところには残っていない」
「私のところにも、その袷がたった一枚残っていました。でも随分長いこと有りました。十何年も大切にして置いて、毎年袷時には出して着ましたが、まだそっくりしています。木綿に糸がすこし入っていて私の一番好きな着物です。惜しいけれども仕方が無い。まあ、これは兄さんの方へ進げる」
「じゃ、俺がまた貰っといて着てやるわい」


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