夏目漱石 『三四郎』 「小川さんおもしろい話がある。ぼくの知った…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『三四郎』

現代語化

「小川さん、面白い話がある。俺の知ってる男で、奥さんがいやになって離婚を申し込んだ奴がいるんだけど、奥さんが納得しなくて、『私はこの家と縁があって嫁いできたので、あなたに追い出されても私は絶対に出ていきません』って言い張ったらしいよ」
「里見さん、単衣を着てくれないと、着物が着にくくて困る。いい加減にやってるみたいで、大胆すぎますよ」
「お気の毒さま」
「でさ、奥さんが離婚するには重すぎたみたいで、友人が奥さんに向かって、『出るのが嫌なら出なくてもいい。ずっと家にいればいい。その代わり俺が家から出るよ』って言ったらしいんだ。里見さん、ちょっと立ってみて。団扇はいいから、立って。そう。ありがとう。――奥さんが、『私が家にいても、あなたが出てしまったら困ります』って言ったら、『かまわないよ。お前は勝手に再婚したらいい』って答えたんだって」
「それで、どうなったんですか?」
「どうにもなってないよ。だから結婚は慎重に考えなあかん。別れも出会いも自由じゃないでしょ。広田先生を見ても、野々宮さんを見ても、里見恭助君を見ても分かるでしょ。ついでに俺を見ても。みんな結婚してない。女が偉くなると、こういう独身者がどんどん増えてくるんだよね。だから社会のルールは、独身者が出すぎないように、女は適度に偉くならなきゃダメだね」
「でも兄は近々結婚するんですよ」
「おや、そうなんですか。じゃああなたは?」
「わかりません」
「わかりません。わかりません――そう」

原文 (会話文抽出)

「小川さんおもしろい話がある。ぼくの知った男にね、細君がいやになって離縁を請求した者がある。ところが細君が承知をしないで、私は縁あって、この家へかたづいたものですから、たといあなたがおいやでも私はけっして出てまいりません」
「里見さん。あなたが単衣を着てくれないものだから、着物がかきにくくって困る。まるでいいかげんにやるんだから、少し大胆すぎますね」
「お気の毒さま」
「それでね、細君のお尻が離縁するにはあまり重くあったものだから、友人が細君に向かって、こう言ったんだとさ。出るのがいやなら、出ないでもいい。いつまでも家にいるがいい。その代りおれのほうが出るから。――里見さんちょっと立ってみてください。団扇はどうでもいい。ただ立てば。そう。ありがとう。――細君が、私が家におっても、あなたが出ておしまいになれば、後が困るじゃありませんかと言うと、なにかまわないさ、お前はかってに入夫でもしたらよかろうと答えたんだって」
「それから、どうなりました」
「どうもならないのさ。だから結婚は考え物だよ。離合集散、ともに自由にならない。広田先生を見たまえ、野々宮さんを見たまえ、里見恭助君を見たまえ、ついでにぼくを見たまえ。みんな結婚をしていない。女が偉くなると、こういう独身ものがたくさんできてくる。だから社会の原則は、独身ものが、できえない程度内において、女が偉くならなくっちゃだめだね」
「でも兄は近々結婚いたしますよ」
「おや、そうですか。するとあなたはどうなります」
「存じません」
「存じません。存じません――じゃ」


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