GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『三四郎』
現代語化
「文芸時評から原稿料をもらったか」
「原稿料って、原稿料は全部もらったよ」
「だってこの間は月末にもらうって言ってたじゃないか」
「そうかな、それは勘違いだろう。もう一円ももらうもんはない」
「おかしいな。だって本当にお前、そう言ったぜ」
「何を、前借りしようって言ったんだ。でも貸してくれないよ。俺に貸すと返さないと思ってる。ふざけるな。たった20円くらいの金額だぜ。いくら偉大なる暗闇を書いたって信用しない。つまらない。もうイヤになっちまった」
「じゃあお金はないのか」
「いや、他に借りたよ。お前が困るだろうと思って」
「そうか。それはご苦労だった」
「でも困ったことが起きた。お金はここにないんだ。お前が取りに来なきゃ」
「どこへ」
「実は文芸時評がダメだから、原口とかあっちこっち3軒くらい回ったけど、どこも月末で都合が悪い。そんで最後に里見のところへ行って――里見って知ってるか。里見恭助。法学士だ。美禰子さんの兄貴だ。あそこへ行ったんだけど、今度は留守でやっぱり要領を得ない。そのうち腹が減って歩くのが面倒になったから、とうとう美禰子さんに会って話をしたんだ」
「野々宮さんの妹が嫌とは言わないか」
「大丈夫だよ。昼過ぎだから学校に行ってる頃だ。それに応接間だから問題ない」
「そうか」
「それで美禰子さんが、引き受けてくれたんだけど」
「あの子って自分の金があるのかい」
「それは知らないけど。でもとにかく大丈夫だよ。引き受けたんだから。あの子は妙な女で、年が若いのに姉さんみたいなことをするのが好きだから、引き受けさえすれば、安心だ。心配しなくていい。うまく頼んでおけばいい。でも最後に、お金はここにありますが、あなたには渡せませんって言われたから、驚いたね。俺ってそんなに信用できないんですか?って聞いたら、そうですって笑ってるんだ。もうイヤになっちまった。じゃあ小川のところへお金を持って行きます?ってまた聞いたら、はい、小川さんにお渡ししましょうって言われた。どうでも好きにしろ。お前、取りに行けるかい」
「取りに行かないと、国に電報でも打つんだな」
「電報は止めてくれ。バカらしい。いくらお前だってお金借りに行けるだろう」
「行けるよ」
原文 (会話文抽出)
「待っていやしないか。君のことだから下宿の勘定を心配しているだろうと思って、だいぶ奔走した。ばかげている」
「文芸時評から原稿料をくれたか」
「原稿料って、原稿料はみんな取ってしまった」
「だってこのあいだは月末に取るように言っていたじゃないか」
「そうかな、それは間違いだろう。もう一文も取るのはない」
「おかしいな。だって君はたしかにそう言ったぜ」
「なに、前借りをしようと言ったのだ。ところがなかなか貸さない。ぼくに貸すと返さないと思っている。けしからん。わずか二十円ばかりの金だのに。いくら偉大なる暗闇を書いてやっても信用しない。つまらない。いやになっちまった」
「じゃ金はできないのか」
「いやほかでこしらえたよ。君が困るだろうと思って」
「そうか。それは気の毒だ」
「ところが困った事ができた。金はここにはない。君が取りにいかなくっちゃ」
「どこへ」
「じつは文芸時評がいけないから、原口だのなんだの二、三軒歩いたが、どこも月末でつごうがつかない。それから最後に里見の所へ行って――里見というのは知らないかね。里見恭助。法学士だ。美禰子さんのにいさんだ。あすこへ行ったところが、今度は留守でやっぱり要領を得ない。そのうち腹が減って歩くのがめんどうになったから、とうとう美禰子さんに会って話をした」
「野々宮さんの妹がいやしないか」
「なに昼少し過ぎだから学校に行ってる時分だ。それに応接間だからいたってかまやしない」
「そうか」
「それで美禰子さんが、引き受けてくれて、御用立て申しますと言うんだがね」
「あの女は自分の金があるのかい」
「そりゃ、どうだか知らない。しかしとにかく大丈夫だよ。引き受けたんだから。ありゃ妙な女で、年のいかないくせにねえさんじみた事をするのが好きな性質なんだから、引き受けさえすれば、安心だ。心配しないでもいい。よろしく願っておけばかまわない。ところがいちばんしまいになって、お金はここにありますが、あなたには渡せませんと言うんだから、驚いたね。ぼくはそんなに不信用なんですかと聞くと、ええと言って笑っている。いやになっちまった。じゃ小川をよこしますかなとまた聞いたら、え、小川さんにお手渡しいたしましょうと言われた。どうでもかってにするがいい。君取りにいけるかい」
「取りにいかなければ、国へ電報でもかけるんだな」
「電報はよそう。ばかげている。いくら君だって借りにいけるだろう」
「いける」