GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『三四郎』
現代語化
「ああ。与次郎はなんだかうちに帰らないらしいよ。時々家を空けるから困るんだよ」
「何か急用でもできたんですか」
「用事ができるような奴じゃないよ。ただ用事を作る奴なんだよ。ああいうバカは珍しい」
「なかなか気楽ですね」
「気楽ならいいけどさ。与次郎のは気楽じゃないんだ。気が移るからさ――例えば田んぼの中を流れてる小川みたいなもんだと思えばいい。浅くて狭い。でも水だけはいつも変わってる。だから、することなすことがちっともまとまらないんだ。縁日を見物に行ったりすると、急に思いついて、『先生松を一鉢買ってきてください』なんて妙なこと言うんだ。そうすると買ってきても何も言わないうちに値切って買っちゃう。その代わり縁日のものを買うのは上手でね。あいつに買わせるとすごく安く買える。そうかと思えば、夏にみんなが家を空ける時なんか、松を部屋に入れて雨戸を閉めて鍵かけて出かけるんだ。帰ってみると、松が暑さで蒸れて真っ赤になってる。そういうことが全部そうだから困るんだよ」
原文 (会話文抽出)
「じつは佐々木君のところへ来たんですが、いなかったものですから……」
「ああ。与次郎はなんでもゆうべから帰らないようだ。時々漂泊して困る」
「何か急に用事でもできたんですか」
「用事はけっしてできる男じゃない。ただ用事をこしらえる男でね。ああいうばかは少ない」
「なかなか気楽ですな」
「気楽ならいいけれども。与次郎のは気楽なのじゃない。気が移るので――たとえば田の中を流れている小川のようなものと思っていれば間違いはない。浅くて狭い。しかし水だけはしじゅう変っている。だから、する事が、ちっとも締まりがない。縁日へひやかしになど行くと、急に思い出したように、先生松を一鉢お買いなさいなんて妙なことを言う。そうして買うともなんとも言わないうちに値切って買ってしまう。その代り縁日ものを買うことなんぞはじょうずでね。あいつに買わせるとたいへん安く買える。そうかと思うと、夏になってみんなが家を留守にするときなんか、松を座敷へ入れたまんま雨戸をたてて錠をおろしてしまう。帰ってみると、松が温気でむれてまっ赤になっている。万事そういうふうでまことに困る」