夏目漱石 『三四郎』 「お茶を」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『三四郎』

現代語化

「お茶を」
「よし子さんは、どうなさるんですか?」
「ええ、体のほうはもう回復しましたけど」
「先生、せっかく大久保に引っ越したのに、またこっちの方に戻らなきゃいけなくなりそうです」
「どうして?」
「妹が学校への行き帰りに、戸山の原を通るのが嫌だって言い出して。それに僕が夜実験をするもんだから、遅くまで待ってるのが寒くてダメなんだそうです。今は母親がいるから大丈夫ですが、もう少ししたら母親が国に帰っちゃうんで、あとは女中だけになるんです。臆病者の二人じゃとても我慢できないみたいで。――本当に面倒くさいです」
「どうですか里見さん、あなたの所に居候させてくれませんか?」
「いつでも置いてあげますわ」
「どっちですか。宗八さんのほうですか、よし子さんのほうですか?」
「どちらでも」
「それであなたは?」
「妹の面倒さえつけば、しばらく下宿してもいいです。それじゃなければ、またどこかへ引っ越さなきゃいけない。いっそ学校の寮に入れようかと思ってます。何しろ子供だから、僕がいつも行けるか、向こうがいつも来られる所でないと困るんです」
「それなら里見さんの所が一番いい」
「僕の所の2階に置いてやってもいいけど、佐々木みたいなのがいるんで」
「先生、2階にはぜひ佐々木を置いてあげてください」
「まあ、どうしましょう。――身長ばっかりでかいバカだから本当に困る。あいつが団子坂の菊人形が見たいから連れて行ってくれって言うんですよ」
「連れて行ってあげたらいいじゃないですか。私も見たいわ」
「じゃあ一緒にどうですか?」
「ええぜひ。小川さんも来てください」
「ええ行きましょう」
「佐々木さんも」
「菊人形は遠慮します。菊人形を見るなら映画見に行きます」
「菊人形はいいですよ」
「あそこまで人工的なものはおそらく海外にもないでしょう。人工的にこんなものを作ったってところを見ておく必要がある。あれが普通の人間なら、恐らく団子坂に行く人は一人もいないでしょう。普通の人間なら、どの家でも4、5人は必ずいる。団子坂に行かなくても済みます」
「先生らしい論理ですね」
「昔授業で習った時も、よくそれでやられましたよ」
「じゃ先生も来てください」
「ちょっと待ってて」
「おい」
「失礼します」
「あらもうお帰りですか。ずいぶん早いです」
「この前頼んだものはもう少し待っててください」
「ええ、わかりました」
「そうです」

原文 (会話文抽出)

「お茶を」
「よし子さんは、どうなすって」
「ええ、からだのほうはもう回復しましたが」
「先生、せっかく大久保へ越したが、またこっちの方へ出なければならないようになりそうです」
「なぜ」
「妹が学校へ行き帰りに、戸山の原を通るのがいやだと言いだしましてね。それにぼくが夜実験をやるものですから、おそくまで待っているのがさむしくっていけないんだそうです。もっとも今のうちは母がいるからかまいませんが、もう少しして、母が国へ帰ると、あとは下女だけになるものですからね。臆病者の二人ではとうていしんぼうしきれないのでしょう。――じつにやっかいだな」
「どうです里見さん、あなたの所へでも食客に置いてくれませんか」
「いつでも置いてあげますわ」
「どっちです。宗八さんのほうをですか、よし子さんのほうをですか」
「どちらでも」
「そうして君はどうする気なんだ」
「妹の始末さえつけば、当分下宿してもいいです。それでなければ、またどこかへ引っ越さなければならない。いっそ学校の寄宿舎へでも入れようかと思うんですがね。なにしろ子供だから、ぼくがしじゅう行けるか、向こうがしじゅう来られる所でないと困るんです」
「それじゃ里見さんの所に限る」
「ぼくの所の二階へ置いてやってもいいが、なにしろ佐々木のような者がいるから」
「先生、二階へはぜひ佐々木を置いてやってください」
「まあ、どうかしましょう。――身長ばかり大きくってばかだからじつに弱る。あれで団子坂の菊人形が見たいから、連れていけなんて言うんだから」
「連れていっておあげなさればいいのに。私だって見たいわ」
「じゃいっしょに行きましょうか」
「ええぜひ。小川さんもいらっしゃい」
「ええ行きましょう」
「佐々木さんも」
「菊人形は御免だ。菊人形を見るくらいなら活動写真を見に行きます」
「菊人形はいいよ」
「あれほどに人工的なものはおそらく外国にもないだろう。人工的によくこんなものをこしらえたというところを見ておく必要がある。あれが普通の人間にできていたら、おそらく団子坂へ行く者は一人もあるまい。普通の人間なら、どこの家でも四、五人は必ずいる。団子坂へ出かけるにはあたらない」
「先生一流の論理だ」
「昔教場で教わる時にも、よくあれでやられたものだ」
「じゃ先生もいらっしゃい」
「どなたかちょいと」
「おい」
「どれぼくも失礼しようか」
「あらもうお帰り。ずいぶんね」
「このあいだのものはもう少し待ってくれたまえ」
「ええ、ようござんす」
「そうそう」


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